私と魔法と戦争

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 私の魔法使いとしての日常は、小説やアニメと比べると現実的で平和に過ぎて行った。


 これからも同じような日々が続くと思っていたし、もしも私が年老いて精神エネルギーを提供できなくなったとしても、精神エネルギー発電所で普通の職員として働けるのは八割方はちわりがた決定事項になっていて、この生活に不満はなかった。


 しかし、それは私だけだったのかもしれない。


 最初に私が知ったのは、担当職員さん達とわした噂話だ。


 日本の魔法使いたちはとても真面目で、問題を起こすことが少ないらしい。


 その話題に疑問を覚えて、私は聞きなおしてみる。


「外国の魔法使いは不満を貯めているということですか?」


「……三日前にイギリスの発電所で爆発事故が起きたでしょう? 日本の技術提供もあって、上層部では結構な問題になっているみたいなの」


「所長は人為的なミスか、作為的なものを感じるってさ」


「まだ所長も監査から戻ってないし、実際のところはわからないけれどね」


 その三か月後、魔法使いのテロ組織によりロンドンが支配され、イギリスの国としての機能は崩壊した。彼らは自らのことを〝新人類〟と名乗り、旧人類の支配を目標にかかげる。


 こうして、近代兵器と魔法使いとの戦争が幕を開けた。


 初めは均衡きんこうして見えた戦況だったが、交渉決裂後にその差は離されていく。


 現代兵器と魔法の最大の相違そういは、個々人の戦力差だった。


 常人の個人には力の限界があるが、それが魔法使いには存在しなかったのだ。


 魔法使いの戦闘力はそれこそピンキリだ。才能のある者は一人で航空母艦にも匹敵するとすら報道され、大規模な準備も必要とせず、痕跡こんせきも残さず発動できる遠距離魔法の前には、近代兵器の防衛ぼうえいそのものが無力だった。


 米国のインフラは一夜の内に破壊し尽くされ、地球の裏側から時差もなく爆撃できうる大魔法の存在は、大国を無力化するには充分すぎるほどの脅威があることを知らしめた。


 そんな魔法使いを相手に戦えるのは、魔法使いしかいない。


 日本政府がその結論に至るのは時間の問題だった。


 日本政府は〝新人類〟と和平交渉を進めていたが、その水面下で私たちは動き始めた。


 私たちは日本のために杖を取り、訓練に明け暮れた。

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