77


〝新人類〟と人類の戦争が始まって一年が経った。


 日本がまだ無事であるのは、純粋にイギリスから離れているという立地的な面もあっただろうけれど、ここにタルサがいたから、というのも大きいと思う。


 タルサは魔法使いの中でも有数の血筋であり、戦いの女神と呼ばれていたこともある。


「タルサは日本人じゃないんでしょ? どうして日本で戦ってくれるの?」


 私が聞くと、タルサはニヤリと笑う。


「それはお主様も同じじゃろ?」


「私は半分日本人の血が流れていて、生まれも育ちも日本だよ?」


 私は金髪のハーフだから勘違いされることが多いが、中身は完全に日本人だ。


 タルサは私の言葉に納得してから、


わらわの理由か」


 タルサはあごに手を当て、考えながら続ける。


「妾はこの名前と共に受け継いだ魔法使いの血筋を絶つことにしたのじゃ。一族を捨て、国を捨てた。そんな妾を受け入れてくれた恩が日本にはあるのじゃ。だから、この国を守りたい」


 日本にいる魔法使いで最も魔法を使いこなしていたのはタルサだった。


 取り出した精神エネルギーを、どのように変換し攻撃魔法へと移行させるのかをタルサは熟知しており、私はタルサに様々な知識を教えてもらった。


〝新人類〟のメンバーもタルサに一目ひともく置いており、タルサを引き抜こうとしているとの噂は何度も聞いた。〝新人類〟が表立って日本に手を出さないのは、それがタルサとの交渉こうしょうに使えるからではないのかと訝しむ者も多い。


 私がそれを聞くと、タルサは困り顔になった。


「奴らはすでに取り返しのつかないほどの罪を犯しておる。同じ魔法使いとして、奴らを放っておくわけにはいかぬ」


 世界の大半は戦火にまみれ、その脅威に世界は分断された。


 道は二つ。


〝新人類〟にあらがうか、したがうか。


〝新人類〟の傘下さんかくだることは人類の敗北を意味したが、その先の平和を享受きょうじゅすることが間違いだと宣言できるほどの組織は、すでに数えるほどしか存在しない。


 その結果〝新人類〟に従う国家と〝新人類〟に抗う国家同士の戦争も勃発する。


 いつからか、この戦いは第三次世界大戦と呼ばれるようになった。


 血で血を洗う戦いに、私たちも身を投じていくこととなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る