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「……」


 俺は静かにノートパソコンを閉じた。


 背後にいる狼男さんとドワーフさんが、ごくりと生唾なまつばを飲み込む音が聞こえる。


「どうだったんだよ兄ちゃん!?」


「な、何色だったんだ!?」


 二人を押しのけ、コメットさんが俺に向かって口を開く。


「私のパンツのがらは何かわかりましたか!?」


 食い気味に近づいてくるコメットさんの頬は真っ赤に染まっていた。


 もう柄とか言ってますし、キャラものなの白状してますよね?


 本当に言っちゃって大丈夫なんですかね!?


「……あの、耳打ちとかでも許されます?」


 ブーイングが飛び交う集会所に顔を上げ、俺は驚く。


 いつの間にか、四方八方にのんべえ達が集まっており、様々な種族をごった煮にしたような徒党ととうが生まれている。ところどころで喧嘩や言い争いすら始まる異様な光景をよく観察すれば、その派閥はばつは赤派と黒派と白派に分かれていることに気づく。


 集会所はもうお祭り騒ぎだ。


「サイクロプスの旦那は何色に賭ける?」


「オラはしまパンだ」


「大穴狙いかよっ!? 今なら黒が優勢だぜ!?」


 そんな騒ぎの中心で、一つ目の巨人に声をかけているのは先ほどの女騎士さんだった。


 ……賭け事まで始まってるじゃねーか。


「あなたは反対派でしたよね!?」


「細かいことは気にすんな! さぁーって、そろそろ答え合わせと行くかっ!!」


 集会所の興奮は最高潮さいこうちょうに足している。


 その中心にずかずかと進んできた女騎士さんは、俺を指さして宣言する。


「コメットのパンツは何色だぁ!?」


 女騎士さんの輝く目に、逃げ場を失ったのだと気付く。


 しんと静まり返る場内に、俺は恐怖すらも感じながら口を開く。


「く、く……」


「黒か!?」


「クマの――」


 女騎士さんは俺の答えに眉を寄せる。


「はぁ? クマ? 何だそりゃ?」

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