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 ――コメットは朝食を終え、出勤するためにパジャマを脱いだ。


 薄手のシャツとズボンを洗濯カゴへ放り込み、姿見の前に立つ。


 黒い下着姿の自分は、コメットにとって自慢の一品であった。


 エルフ族は美しい見た目の者が多いが、それは個々人の努力の賜物たまものであるとコメットは思っている。残業をこなした後に毎日ジムへと出かけ、理想の肉体美を追及するその努力は、どんな美容器具よりも絶大な効果をもたらす健康法だ。


「今日も美しいわね」


 自分の体に見惚みほれている時間が無いのは百も承知だが、コメットは微笑をらす。


 引き締まったウェストと、それに相反するようにたわわに実った胸。さらにヒップから太ももへと流れる流線形は、見る者を全て魅了するだろう。


 コメットは下着に手をかけ、それも洗濯カゴへと放った。


 全裸で引き出しを開き、着るべき下着を選別していく。


 下着の色とは無自覚であっても影響を与えるらしい。エネルギッシュな赤も良いし、リラックス効果のある緑も捨てがたい。ピンクは恋愛運をアップさせると聞いたことがあるけれど、本当だろうか。


 今日の気分は何色だろう?


 真面目に悩み始めたものの、出勤時間が迫っている。


 誰かに見せる予定もないし、運任せでいいか。


 コメットは引き出しの一番手前にあるパンツに手を伸ばす。


 それは、白地にデフォルメされた可愛いクマさんの描かれたパンツだった。

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