俺とタルサの道

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 宿で朝食を取り、俺たちは出かけることにした。


 石畳の道を歩きながら、様々な種族が行き来するのが目に入る。


 それを横目でながめながら、昨日よりもその光景に心を動かされない自分がいることに気づいていた。そんな俺の気持ちを嘲笑あざわらうかのように、


「今日は良い天気じゃな!」


 タルサが笑顔を向けてくる。


 正直に言えば、俺は〝タルサを失うかもしれない〟という気持ちがいて億劫おっくうだった。


 でも、気持ちを切り替えなきゃいけない。


「……タルサは二日酔いとかしねぇのか?」


 この気分の悪さは、昨日の夜に酒を飲んだせいだ。


 そう決めつけてしまうことにした。


わらわは生前には酒豪しゅごうで名をせた女神じゃったからな? 妾を酔わせようとした悪漢共あっかんどもを逆に酔い潰した逸話いつわは語り継がれているであろう」


 タルサの様子は昨日と変わらない。


 心配するだけ損なのかも知れない。


「ところで、会いに行く転生者って、どこにいるんだ?」


「隣町で占い師をしておる。歩いて一時間ぐらいの距離じゃ。実はこの国を選んだのは、治安が良いだけではなく、その転生者がおるからでもあるのじゃ」


 タルサはそこで言葉を区切り、俺に向き直る。


「……どうしたんだ?」


 俺の疑問に、タルサは眉を寄せていた。


「謝らねばならぬのは、妾も同じじゃ」


「俺にタルサが?」


 タルサが俺に謝ることなど、まるで見当がつかない。


「妾は最初から、あの文章を消したいと考えておった。それはお主様のためではなく、妾が自分の本当の感情を知りたかったためじゃ。妾は元々〝全てを知りたい〟と願いを持ちながら死んだ転生者であり、妾はその知的好奇心がおさえられぬ」


 タルサは俺に向かって、頭を下げた。

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