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「誰がなんと言おうとも、それこそお主様が言おうとも、お主様は魅力的じゃ! 今だって素知らぬ顔で妾に手を出しても良かったのに、わらわこばんでおるではないか! 誠実ではないか! 素敵ではないか! どうして自分の価値に気づかぬのじゃっ!?」


 タルサが、俺のために怒ってくれていた。


「妾はお主様とおれて幸せじゃ! これが仮にゆがめられた感情であっても、今の妾にとっては本当の気持ちじゃ。それでも――お主様は妾を抱きたくないのか?」


 俺はその言葉に、うなずくことしかできなかった。


 俺はタルサの気持ちには答えられない。


 答えてはいけないんだと、思った。


「本当にごめん。……でも、俺のために怒ってくれて、ありがとう」


「……くっくっくっく!」


 俺の謝罪に、なぜかタルサは笑顔に戻る。


「お主様の気持ちは痛いほど分かった! 妾のアプローチや魅力が間違っておらんのであれば、これ以上は時間の無駄じゃな! ならば為すべきことはただ一つじゃ」


 タルサのあきれるぐらいに前向きの発言に救われる。


 気持ちの切り替えが早すぎるだろ。


「……な、何をしようってんだ?」


「ずばり、お主様の書いた文章を改変する」


「そんなことができるのか?」


「普通の方法では無理じゃな」


 俺の願いは、物理法則を無視してこの世界に定着する。


 それは何よりも変えがたい法則なのだと思っていた。


「何度も言っておるが、願いによって生まれた法則は、全ての物理法則の上位の存在。しかし、ひとつだけそれをじ曲げる方法がある。それは――他の願いで願いを上書きするのじゃ」


「願いは願いでしか打ち消せない……そういうことか」


「うむ。そして、この異世界には二人だけお主様の文章を消すことのできる転生者がおる。一人はお主様自身じゃが、お主様にはそれを改変するほどの魔力がないため除外するぞ。明日はそのもう一人の転生者に会いに行くとしよう」


 テキパキと予定を決めるタルサは、まるで酔っているようには見えない。


 そんなタルサを見て、俺はようやく気づいた。


「タルサは俺を誘うために、わざと酔ったフリをしてたのか?」


 俺の視線にタルサはニヤリと笑う。


「ここまでお膳立ぜんだてしてやったというのに、このヘタレが!」


 ぐぬぬ。


「ちなみに、妾はあきらめておらんぞ? 願いを上書きした上で妾が求めれば、お主様には拒否する理由など無いじゃろうからなぁ?」


 タルサの舌なめずりに思わず笑った。


 ……覚悟を決めておくべき、なのかも知れない。


 でも、そんな心配は些細ささいなことだった。


 なぜなら、タルサが本当の感情に目覚めた時、タルサの隣に俺はいないかも知れないからだ。


 俺たちの旅は、タルサの感情を抜きにしても――続いてくれるのだろうか?

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