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「疲れたのじゃあ!」


 ベッドにタルサをおろすと、タルサはローブを脱ぎ捨てて笑っていた。


「疲れたのはこっちだっつーの!」


 ノートパソコンを持ちながら、ぐでんぐでんに酔っ払ったタルサを担ぐのは大変だった。現金があるとはいえ、時間帯のせいか宿屋を見つけるのも苦労したし。


 でも、悪い気分ではなかったと思う。


 幸せそうなタルサを見ていると、こっちにも幸せが伝染するらしい。


「それじゃ、俺は隣の部屋で寝るからな」


 俺は扉から出て行こうとしたが、


「駄目じゃ!」


 タルサが起き上がって俺の腕を掴んだ。


 お構いなく腕を絡ませてきたせいで、タルサのふくよかな胸が俺のひじに、


「……当たっているんですけど?」


「当てているのじゃっ!!」


 タルサの満面の笑みに面食らう。


「夜なんだから静かにしろよ!」


「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ! わらわはお主様と一緒に寝る!」


「子供かよ!? それに男と女が一緒に寝るって、どういう意味かわかってんのかっ!?」


「くっくっくっく。妾に知らぬことがあると思うておるのか?」


 上着を脱いだタルサは、薄手のワンピース姿で俺を見上げている。


 右の肩ひもが外れていて、動いたら胸がこぼれてしまいそうだ。


 俺は思わず目をそらす。


「冗談はやめろよ」


「妾は本気じゃっ!」


 タルサに手を引かれ、重心がずれたところでベッドに押し倒された。


 タルサは仰向けになった俺の上につんいでまたがり、ニヤリと笑っている。


 夜の個室で二人きりだった。


 重力に引かれたタルサの胸が、すぐそこで揺れている。


 揺れる蝋燭ろうそくともしびで照らされたタルサの顔は、とても美しく見えた。


「……生娘きむすめじゃなきゃ、女神を名乗れないんだろ?」


「あれは嘘じゃ!」


 タルサがまぶしいぐらいの笑顔で、俺を見つめている。


 酒が入ったからか、今までの計算高さはどこか鳴りをひそめているように見えた。


「……酒の飲みすぎだぞ?」


 俺の言葉に、タルサは顔を横に振る。


「妾とお主様の初夜しょやじゃぞ? 一晩だけでも構わぬ。気の迷いでも、酒の勢いでも構わぬ。妾と一夜の〝あばんちゅーる〟を楽しむのじゃ!」


 タルサは俺の手を掴み、自分の胸に押し付けた。

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