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 魔方陣はまたたく間に炎に包まれ、火柱となってロウへ放たれる。


 のたうち回りロウへと牙を向くそれは、炎のへびそのものだった。


「ロウさんっ!?」


 叫ぶメイさんの前で、ロウの体は炎に包まれた――が、それでもロウは止まらない。火だるまになりながら、タルサへとサーベルを振り下ろす。


 ロウのサーベルを爪楊枝つまようじで受け止めたタルサは、ニヤリと笑う。


「それがロウ殿の願い〝守る力〟じゃな?」


「ちっ!」


 ロウはサーベルに力を込めるが、タルサの爪楊枝に刃が負け、ヒビが広がる。


「ロウ殿の力は、この世にあるどんな物理法則も無視して、対象を必ず〝守る〟ことができる。しかし、その力にも弱点はある。例えば――」


 タルサはウサ耳さんから手を放すが、今度は右腕と左腕の両方に魔方陣を生み出した。


 爪楊枝のある右腕の前にはロウが、左腕の先にはメイさんの姿がある。


「その力では、同時に複数の対象を守ることはできぬ」


「貴様!?」


「精霊術式【炎蛇えんじゃ】ダブルじゃ!」


 タルサの言葉に呼応するように、それぞれの魔方陣から炎の蛇が現れ――一方はロウに、もう片方はメイさんに襲い掛かった。


 直撃を食らい、火だるまになる二人だったが、


「ロウさんっ!!」


 悲痛な叫び声をあげるメイさんは無傷だった。


 それじゃ、つまりロウは――そう思ったのは、その場にいた全員に違いない。


 しかし、火だるまから現れたロウも無傷だった。


 ロウはタルサの首筋にサーベルを突き付けて、口を開く。


「貴様! どういうつもりだ!?」


 タルサはニヤリと笑って両手を上げた。


わらわの負けじゃ。ロウ殿に放った【炎蛇】は魔力不足で消滅したようじゃな? 妾としたことが【炎蛇】を二匹同時に扱う魔力量を見誤ったらしい」


 降参しつつも、タルサは楽しそうに口を歪める。


「しかし、これで一つの証明ができた」


「なんだと?」


「ロウ殿が咄嗟とっさに〝守った〟のは、ロウ殿自身ではなくウサ耳娘じゃった。それはつまり、自分の命よりウサ耳娘の命を尊重した証拠」


「……何が言いたい?」


「自分が死んでも守りたい相手に向けた感情など――愛以外にはあり得ぬよ」

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