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「タルサさん、それ以上はいけねぇ」


 ロウは立ち上がり、机の下から刃渡り五十センチはありそうなサーベルを取り出した。


 医療器具には到底見えない。


 医者とは思えぬ慣れた手つきを見て、俺は思わず後ずさる。


 やっぱり、このリザードマンはただの医者じゃない。


「ロウ殿の気遣いも妾は知っておるぞ? ウサ耳娘の親父殿に助けられた恩があるから言い出せぬのじゃろう? しかも親父殿は異種間族の恋愛に否定的らしいな? それが問題か? それとも、恩人の娘に手を出すなどプライドが許さんか? ロウ殿は恩と愛情を混同して悩んでおるようじゃが、安心せよ。それは間違いなく恋愛感情じゃ」


 タルサの言葉に、メイさんが驚いている。


「本当に――相思相愛なんです、か?」


「お嬢、曲者くせものの言葉に耳を貸しちゃいけねぇ」


 ロウはサーベルの切っ先をタルサに向けた。


「根も葉もない話を続けるなら切り捨てるぞ?」


「そんなことがロウ殿にできるかのぅ?」


「キャッ!?」


 か細い悲鳴に目をやると、タルサがメイさんの腕を掴み、後ろに締め上げていた。


 タルサはそのままメイさんの喉に爪楊枝つまようじを突き付け、不敵に笑う。


「な、なにやってんだよ!?」


 これじゃ悪者が人質を取ってるみたいじゃねぇか!


「お主様は黙っておれっ!!」


「うぅ……」


 タルサに凄まれて引き下がってしまう自分が情けない。


「ウサ耳娘のことが大切なら剣を捨てよ。この爪楊枝はただの爪楊枝ではない。転生者の願いで生まれた異世界最強の一振りじゃ。転生者であるロウ殿ならば、この意味が分かるじゃろう?」


「ロウさんも転生者なのか!」


 驚いているのは俺だけだった。


「……そこまでバレてるなら、遠慮してる場合じゃねぇな」


 ロウは姿勢を下げ、足に力をこめる。


「お主様よ。転生者同士の戦いを見ておれ」


 ロウは一足飛びで、タルサに襲い掛かかった。


 しかし、タルサの爪楊枝を持つ右腕が、魔方陣を生み出す。


「精霊術式【炎蛇えんじゃ】」

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