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 タルサが向かった2階は事務所の様だった。


 机が並んでいるが出払っているのか、人影は一つしかない。


 来客用のソファで、白衣を羽織ったリザードマンが新聞を広げて煙草を吹かしている。


 俺達に気づいたリザードマンは新聞から顔を上げた。


 その鋭い眼光と、頬に走る大きな傷跡が、数々の修羅場をくぐった猛者だと語っている。


「お嬢、何の騒ぎですか?」


 リザードマンは敬語だが、その機嫌が悪いのは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。


「その、ロウさん!? これは違うんです! 手荒な真似まねは辞めてください!」


 このリザードマンはロウという名前らしい。


「患者様、ではないのですか?」


 ロウの眼光に気圧けおされたのは俺だけらしい。


 タルサは不敵な笑みのまま口を開く。


わらわはタルサでこっちはシュウ様じゃ。自己紹介も済んだところで単刀直入にいうが、ロウ殿はウサ耳娘と相思相愛じゃな?」


 タルサの宣言に、メイさんは頬を真っ赤に染めた。


 対してロウは、タルサを睨んで何も言わない。


 そんな状況を見て、ようやく俺にも理解できた。


「メイさんの片想いの相手って、このリザードマンなのか!」


 俺の言葉に、タルサだけが大笑いした。


 メイさんはジト目で俺を睨んでいるし、ロウは苛立ち交じりに新聞を放りだして煙草を灰皿に押し付ける。


 やべぇ、言っちゃいけないヤツだったか。


「……それは何の冗談で?」


 俺はロウの眼光に縮み上がるが、その隣でメイさんの耳がへなへなと垂れ下がっていた。


 物凄く申し訳ない気持ちになる。


 しかし、タルサはニヤリと笑った。


「まずはこれを見よ」


 タルサが取り出したのは、先ほどの依頼書だ。


「これはウサ耳娘の依頼書じゃ。異種族間の恋愛相談とある。むふふふ。実は、このウサ耳娘は皇族との見合いを控えておるのじゃ。その縁談えんだんを前に、本当に好きな人に振り向いて欲しいという切実な悩みが綴ってある。泣かせるじゃろ?」


「なっ、なんでそれを知ってるんですか!? プライバシーの侵害です!」


 メイさんが怒るが、タルサにはどこ吹く風だ。


「妾は両想いだといったのが聞こえておらんかったのか? 次はロウ殿がウサ耳娘を好いておる証明をするから黙っておれ」


 俺はそんなタルサを見ながら、タルサの願いである〝知る力〟の凄さに改めて驚いていた。


 これはもう神の視点だ。


 タルサの知る力は、何をするにしても物事を有利に進めることができる。


 それだけで無敵なんじゃないか?

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