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「……本当にここに依頼主がいるのか?」


 俺の見上げる木造の建屋には〝ロウディオナス医院〟の文字。


 医院と書いてあるから病院なのだろうが、そのたたずまいは隣の民家よりも小さい。看板が無ければ普通の民家にしか見えず、俺の家の近所にあった心療内科に雰囲気が似ていた。


 依頼を受けた後、コメットさんが依頼主の連絡先を伝えてくれようとしていたが、タルサがそれを断り、俺たちはここまで歩いてきたのだ。ちなみに徒歩五分ぐらい。


わらわの知識に間違いはない。恋愛相談などすぐに解決するから見ておるが良い」


 タルサが扉を開くと、威勢のいい挨拶が聞こえた。


「こんにちは!」


 目を向ければ、正面のカウンターにいる獣人がニコニコと笑っている。


 彼女の大部分は普通の人間にみえるけれど、その目は赤く、鼻が少しとがっている。彼女は看護師用の白衣を着ており、笑顔が可愛いナースさんだ。頭から伸びた長く白い耳から、恐らくウサギの獣人だろうと思った。


「どういったご用件でしょうか?」


「妾はタルサでこっちはシュウ様じゃ。お主がメイ殿じゃな?」


「……そうですけど?」


 タルサは彼女の名前を言い当てたらしい。


 メイと呼ばれたウサ耳さんは眉を寄せていたが、タルサはまるで気にせず続ける。


「仕事中にすまんのぅ。妾たちは利用客ではなく、お主様の仕事の請負神うけおいがみじゃ」


 タルサが依頼書をカウンターに叩きつけると、ウサ耳さんは驚きに目を開く。


「あの、請け負って頂いたのは嬉しいのですが、後日にお話させてもらえませんか?」


「どうせこの時間帯は客など来ないのじゃから気にするでない。それに恋愛相談とあるが、その恋はそのまま成就じょうじゅさせてしまっても構わんのじゃろ? こう見えても妾は愛の伝道師でんどうしじゃ。手っ取り早く話を付けてやるから着いてこい」


 タルサは依頼書を手に取り、メイさんの腕を掴んで、二階への階段をずんずん進んでいく。


「なんつー強引な……」


 俺の言葉に、タルサは笑いながら振り返る。


「お主様にも妾の力を見せてやるから、早く着いてこい!」


「どっ、どういうことですか!? あ、あの! 待って、待ってくださいよぉっ!?」


 涙目で連れて行かれるメイさんの心境を想うと、心が痛かった。

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