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「……頼む」


 頼んだものの、なかなか難しい話が続くっぽい。


「もう一つの法則とは、転生者の願いが物理法則よりも優先されることじゃ。この空間は、お主様をこの空間に呼び出し、お主様の願いを現実にすることで成り立っておる」


「……どういうことだよ?」


「つまるところ、この二つの法則こそが、この空間を存在させるために必要な要素なのじゃ。お主様の〝世界を創りたい〟という願いが発現されるための法則を、別の世界の何者かがこの空間に生み出したらしい。その何者かの目的は、天使殿に聞けば良いじゃろう」


「でも、俺は世界を創りたいなんて――」


 そこまで言って気付く。


 俺の願いは〝小説を書きたい〟ということだ。


 それは〝世界を創りたい〟という願いと、大差ないのかも知れない。


「この世界では転生者の生前にやり残した〝願い〟こそが物理法則を無視して顕現けんげんする。それはこの世界において絶対の法則じゃ。つまり、どのような魔術で作り出した無敵のランスでも、この爪楊枝の存在に打ち勝つことなど不可能というわけじゃな」


 タルサの言葉が正しいのなら、その手にある爪楊枝は最強の武器なのかも知れない。


「さて、ネタばらしもこれぐらいで良いじゃろう」


 タルサは天使に向き直る


「自ら喋るか、操られて口を割るのか。それに差異はないと思うがどうじゃろうか? 天使殿の名と目的を聞かさせてもらいたい」


 天使は項垂うなだれながら、諦めたように口を開く。


「私の名はコロナです。しかし、私は目的を知りません」


「知らぬとな?」


「私は王のめいによりここに来ました。私は〝この空間を創造神から手に入れろ〟とのご命令に従ったまでであり、それ以上の目的は知りません」


 タルサはその答えに思案しながら、質問を続ける。


「コロナ殿に命令した王とは何者で、コロナ殿はどうやってここに来た?」


「王とは我が世界の主です。私は王の命により自害し、この世界へと転生しました。私の仲間は一万ほどいたのですが、転生に成功したのは私だけの様です。この空間へ降り立つ可能性は、それほどに稀ということなのでしょう」


「ここに来るために、一万もの天使の軍勢に自害を?」


「私たち天使は王の所有物であり、王の命とあればその程度の事など……しかし、どうして私はこれほどの会話ができるのでしょうか? 私の言動の自由は王に奪われているハズ――ッ!」


 天使は急に口を抑え、苦しみだした。


「コロナ殿!?」


 タルサが天使に近づくと――天使の口から、黒い腕が伸びた。

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