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「な、なんじゃ!?」


 不意を突かれ、タルサは黒い腕に首を掴まれてしまう。


 首を絞められ宙に浮くタルサは、苦悶の表情を浮かべていた。


「タルサ!?」


「――創造神よ。――取引だ」


 どこからの声だと目をやれば、その黒い腕には無数の口が生え、うごめいていた。


 無数の口は別々の言葉を喋っている。


 傲慢ごうまんで見下すような態度の、気持ちの悪い声だった。


「――ここに異世界を創れ。――そうすればこの女の命は助けてやる」


「お主様! そんな言葉など聞く必要はないぞ! わらわのことを気にするのであれば、早くこの腕を無力化するような書き込みを――」


 タルサの声が聞こえているが、俺の意識はなぜかハッキリとしなかった。


 まどろみに意識が飲まれ、気付かぬうちに腕をノートパソコンへと伸ばしていた。


 俺は自分の意志とは無関係に、文章を書き込んでいく。


「くっ、こんなことが! まさか、これは――黒い腕の願い!? お主様! 目を覚まされよ! そんなことをしては、取り返しのつかないことになる!!」


 俺はそのまま、エンターキーを押した。

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