15


「なかなか美形じゃな? 流石は天使という所か?」


 俺の創り出した縄で手足を縛られた天使の兜を、タルサが外していた。


 天使は青い目と青い長髪を持つ好青年だった。目は切れ長で鼻も高いし、この見た目ならモデルとして食っていけそうだ。


 タルサが褒めているのを見て悔しい気がする。


 そんなことを思っていたら、タルサがこちらを見つめていた。


わらわはお主様の方が好きじゃよ!」


 ぐぬぬ。


「そ、そんなことはどうでもいいって! 早く天使に目的を聞こうぜ?」


「それもそうじゃな? 天使殿の名前と目的は何じゃ?」


 タルサに聞かれるが、天使は何も答えない。


「話したくなければ話さなくとも良い。この世界において、転生者の〝願い〟は絶対の力。またシュウ様が書き込むだけで天使殿の目的も割れるじゃろう」


「……その、そもそも、願いの力って何なんだ?」


 俺が聞くと、タルサは思案顔で答える。


「この世界の法則は二つある」


「法則?」


「一つはこの世界の物理法則が、観測者の無意識によって生まれることじゃ」


「無意識によって物理法則が生まれる?」


 頭に疑問だらけの俺を見て、タルサは笑っていた。


「概念の問題じゃよ。この世界にはそもそも物理法則すら存在しておらんかったために、お主様の常識がそのままこの世界の物理法則として定着しておる。例えば、お主様が意識を取り戻した瞬間に空間と床、空気と重力がこの世界には生まれた。他の例を出すなら、お主様が〝腹が減った〟と意識した瞬間に、お主様の腹が鳴ったように」


「……つまり、俺が気づいた瞬間に、物理法則が生まれるってことか?」


「正解じゃ」


 ニヤリと笑うタルサを見て、ようやく気付く。


「タルサはもしかして、飯が食いたいから――俺に腹の減り具合を聞いたってこと?」


「なかなか頭が回るではないか?」


 タルサは俺に向き直って続ける。


「お主様が空腹に気づかなければ、この世界は空腹という概念がない世界として存在し続けたかも知れぬ。まぁ、それは置いておいて、もう一つの法則について話すぞ」

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