VOL.2

『で?貴方は私に何をして欲しいとおっしゃるんですか?』

 

 彼女はまた下を向いてもじもじしながら、


『私・・・・彼女・・・・岡崎さんの事、ほんの僅かしか知らないんです。好きな人のことを知りたいって思うのは当然でしょう?』

 

 自分で聞けばいいじゃないか・・・・そんな言葉が喉まで出かかったが、辛うじてストップした。それが出来るくらいなら、自分でやってるだろう。


『よろしい。まあ身上調査というのは、探偵の仕事の基本ですからな。とりあえずそこまでは調べます。そこから後は・・・・』


『そこからは私が自分で何とかします。どうしても無理ならまた改めて相談します。お願いできますか?』


 うん、と言うしかなかった。


 相手が男であれ、女であれ、一途な眼差しに弱いのが、俺のウィークポイントだ。



 俺は翌日から、岡崎菜々子の調査にかかった。


 まずは彼女の通っている大学・・・・・一流とはいかないまでも、都内では伝統のある女子大だ。


 しかし流石にそこは女子大である。


 当たり前だが規律には厳しい。


 特に男性は正当な理由があっても、滅多にキャンパスには入れない。


 ましてや俺みたいな『私立探偵』ときては、あまりいい顔をされないのは最初から分かっていた。


 ならば仕方がない。


 こっちも尻を据えてやるまでだ。


 幸い季節は五月、暑過ぎも、寒過ぎもない。


 加えて天気予報ではここ当分雨の気配はないと伝えている。


 道路の端に立っていたところで、お巡りに『職質』と称して邪魔されなければ、張り込みも何のそのである。


 俺の情報だと、連休の今日も彼女は学校に来ているはずだ。


 彼女は至極真面目な学生で、家と教室、それと学内の図書館の往復だけでほぼ一日を過ごしている。


 友達がいないわけではないが、今時の学生のように、外で遊びまわるということも滅多にしないようだ。


 俺は電柱にもたれ、正門をさり気なく凝視している。


 門のわきには守衛詰め所があり、警備員がいるのだが、中へ入ろうとしない限りは別に何も言ってはこない。


 俺は待った。

 

 こんな時、アメリカの偉大なる先達諸兄なら、足元を吸い殻で一杯にするところだが、煙草を喫えない俺は、せいぜいシナモンスティックを詰めたシガレットケースを空にすることしかできない。


 時計を何度も眺める。


 安物の国産電波式腕時計が時を刻み、デジタル表示が3時ちょうどになった。


 急に門の前がざわつき、一塊の女子大生が、かまびすしく喋りながら出てきた。


 その中に俺は岡崎菜々子の姿を見つけた。


 付かず離れず・・・・俺は彼女を見失わないように後をつけた。


 彼女はモスグリーンのジャケットにピンク色のブラウス。ミディ丈のセミタイトのスカート。短めに切った、ちょっと茶色がかった髪が、肩の辺りで揺れている。


 少し歩いて彼女はバス停から、ちょうど停車していた都バスに乗った。


 俺も慌ててフェンスを飛び越え、走ってくる対向車を華麗によけながら、バスに飛び乗った。


 運動神経ってやつは日頃から鍛えておくもんだな。


 俺は妙なところでほっとしていた。


 バスの中は半分くらいが女子大生で埋まっていた。


 男は俺の外、60過ぎの爺さんと中学生が五・六人乗っている程度。


 俺は十分に注意を払いながら、彼女から目を離さずにいた。



 



 


 


 

 



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