光龍様を復活させるには

『まりえに誘われても』


 光龍様を失った俺は、家に閉じこもることが増えていた。そればかりではない。以前は欠かさずに行なっていた日供祭でさえ、最近は1度も行わない日の方が多い。だって、そこには主人はいないのだから。


「マスター、お出かけしようよ!」

「ごめん、まりえ。1人で出かけてくれ」

「そんなことしたら、街中大騒ぎになっちゃうよ」


 まりえは相変わらず頓珍漢で、KYを貫いている。『ビーチフラッグ選手権』以来、日本中にまりえのことを知らない人はいないというくらい、まりえの人気は急上昇している。そんなことは、奈江からの報告で知り得る。まりえの頓珍漢なのは、俺と歩けば街中が大騒ぎにならないと本気で思っていることだ。もしも俺なんかがまりえの横を歩いていたらそれこそ大騒ぎになるというのに。まりえ自身にしたら、街中が大騒ぎになっていても横に俺がいれば気にならないということなんだと、あおいに解説してもらうが、俺には全くピンとこないはなしだ。あおいが言いたいことは、まりえが俺を好きでいてくれているということなのは分かるけど、俺はまりえの横を歩くに相応しい人物ではない。


「ま、アンタがどう思っているかより、まりえの気持ちの方が私には大事なのよ」


 あおいがそういう揺さぶりをしてくるのも痛いほど分かる。俺のことを無理にアンタと言い、無価値だと思っているのを示すことで、俺がまりえの横を歩くのをあおいが勧めている事実を肯定しようとしているのに違いないのだ。上手く騙されてあげればいいのに、それほど俺は人間ができていない。


「マスター、訪ねて来られた方がいますが……。」


 今度は優姫が俺の様子を見に来た。あの日以来、俺のところを訪ねて来られた方なんて、掃いて捨てるほどいる。けそ、今さらどの面下げて会えというのだろう。その輩は、プロデューサーとして成功した俺に媚を売り、あわよくば『はねっこ』の一員になろうとしているか、『はねっこ』を擁して一儲けしようとしているに過ぎない。そんな輩とはなしたところで、俺なんかが彼等の力になれるはずがない。彼等にとっては、奈江と奈江の開発したAIの方がよほど有効なんだ。


「Dさん、ですが……。」

「Dさん……。懐かしいな」


 Dさんと聞いて、俺はとても懐かしく感じた。あの日からまだ10日しか経っていないが、あの日そのものが俺にとっては遠い記憶になっている。Dさんの満面の笑みは、当時の俺を勇気付けてくれたし、俺にこうなりたいという目標になってくれた。例えその思いを抱いたのが、ほんの一瞬だったとしても、Dさんは俺にとっては恩人といえる。その恩人が訪ねて来たというのに、俺は会うのを拒もうとしている。つくづく捻くれた男だ。


「君は、光龍様を復活させたくはないのかい?」


 そんな言葉が俺の耳に入ってくる。

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