裏切りの禰宜
禰宜さんの野望
『細則を良く読むと』
社務所の戻ると、みんなも起きていて、大騒ぎをしている。どうしたんだろう。聞いてみると、ユニットに参加するメンバーが8名以上でないといけないというルールがあることに気付いたからだった。なんだってぇ! 俺も一緒になって騒ぐ。そんなの、知らなかったもの。あの禰宜さん、相当な野望の持ち主だ!
「あんたが騒いでどうするのよ! 何とかしなさいよ」
「そんなこと言われたって……。」
どうすることもできないよ。8人以下とかならわかるけど、8人以上って! 明神さんの宮司さん、そんなに複数が好きなのかなぁ?
「で、8人目は? どこにいるのよ!」
あおいさんはかなりイライラしているみたい。俺はそんなの知りません! とも言えず、誰かいないか考えたが、絞り出した候補は4人。俺に女性の知り合いなんて、たくさんは居ないから。
「優香さんは海外よ」
「さちこさんはお店が忙しいって」
「きよこちゃんも駄目みたい。金魚じゃないから!」
おい、ちょっと待て。あゆみさんや優姫が確認してくれた優香さんやさちこさんは仕方がない。けどまりえ。きよこちゃんは、何とかなるんじゃないの? そんなことを思ってしまった。けど、交渉の窓口に立てるのはまりえだけ。そのまりえが事態をイマイチ把握していないので、説明にかなりの時間を要してしまう。やっとの思いでまりえが意味を飲み込んでくれて、きよこちゃんに説明。直ぐにきよこちゃんもその気になってくれる。
ところが、問題発覚。巫女装束を慌てて用意してみたが、きよこちゃん、全然踊れない。そうだった。巫女装束を着ての激しいダンスなんて、普通の人間には無理だった。
『こうなったら、あのお方しか……。』
「じゃあ、4人目の候補を呼んできなさい!」
俄然やる気になったあおいさんが仕切ると、俺も休む暇がない。けど、俺が4人目の候補と思っていたのは光龍様。そう簡単に呼べるものではない。俺はとりあえず神殿へと向かう。
(なぜ儂がそんなことをせんといかんのじゃ)
(光龍大社の一大事です! 光龍様も協力してくだい)
俺は無理を言っているのは重々承知だけど、困ったときはこうするしかない。何とかならないものかと頼み込む。
(無理なものは無理なのじゃ)
不毛なやりとりに小一時間を掛けるが、押し問答に終わる。俺は諦めたって訳じゃないけど席を立つ。社務所に訪ねて来た人がいるんだ。
『禰宜さん到来』
社務所の地下室。明神さんの禰宜さんがお越しだった。特典会用のグッズを持って来てくれたみたい。用意されているのは、御朱印の他に、御朱印帳と専用の巾着袋。『はねっこ』のロゴが印刷されている。明神さんの工業力って、すごい!
「我が宮司よりの伝言を申し伝える」
「は、はーっ。謹んでお伺い致しまする」
「光龍大社の光龍様の御神威が益々栄えんことを祈る、以上!」
「ありがたきお言葉です。光龍大社の巫女一同、精進いたします」
そんな感じの口上のあと、本題の特典会用グッズの授受をすることに。けど、なんだかこの禰宜さん、苦手だなぁ。
「1セット1900円でお買い上げ頂くが、よろしいか!」
「えっ、そんなに高いの! 特典会の最高価格は2000円だというのに!」
「お嫌でしたら、出場をご辞退なさっても構いませんが?」
何だと! ご辞退だと! この禰宜さん、初めからそうなるように仕向けてるんじゃないの? 俺はそんな風に思ってしまう。けど、今さら辞退なんてあり得ない! 俺達は辞退なんかしないぞ、絶対に! この禰宜さんの帰る姿は俺の目にはどこか傲慢に見えた。
『禰宜さんを止めろ』
神殿。光龍様に愚痴を溢そうと思ったら、緊急事態!
(あの禰宜、誰かに操られておるのじゃ。調べるのじゃ)
禰宜さんが操られているだって? 一体、どういうこと? とにかく調べなきゃ。
(では、光龍様もご一緒に!)
(だっ、駄目なのじゃ。むっ、無理なのじゃ)
いつになく歯切れが悪い光龍様。
(どうしてですか?)
(『ありゃまTV』で『実写版 初代ラブプリ! ーラッシュー』が始まるのじゃ)
(一挙放送! こんなときに……。)
光龍大社の存亡の危機かもしれないのに……。けど一挙放送を見逃せない気持ちは分かる。仕方がない。それにしても『ラブプリ!』、どんだけ人気なんだよ。アイリスさんもまりえもまこともしいかも、おやつを買い込んで臨戦態勢。たしか、『実写版 初代ラブプリ!ーラッシュー』の『黒よりのグレー、きっこちゃん』の変身前の橘ことり役は、なまだしあちゃんだったはず。俺も当時は夢中になったけど、今となっては興味がない。だって、直ぐ側に成長した橘ことりがいるんだから。けど、臨戦態勢のみんなは、そんなこと知らないんだろうな。画面に映るあおいさんの姿を見たら、驚くかも。その顔には興味あるけど、今はそれどころじゃない。俺は、ホンモノのなまだしあ、橘ことりこと、水掛あおいさんを誘い、禰宜さんの後を追う。あゆみさんには別のお願いをして。
『なんか、黒い影』
俺とあおいさんで、禰宜さんの後を追う。禰宜さんは、明神さんのある方とは反対側に向かって歩いている。その先にあるのは、小さな教会の小さな礼拝堂。禰宜さんは祭壇の前で跪く。俺達は、物陰に隠れてそれを見る。しばらくすると、黒い影のようなものが現れる。どうやら、禰宜さんには見えていないみたい。あおいさんにももちろん。3人の中で見えているのは、俺だけ! けど、禰宜さんには黒い影の声は聞こえているみたい。
「何なの、あの禰宜! ブツブツ言って……。」
「……。静かにしてて。聞き取れないから!」
俺は黒い影と禰宜さんの会話に耳を澄まし、聞いてみる。すると、そこには恐るべき陰謀が隠されていた。それはつまり、神社の撲滅運動みたいなもの。異国の神が、この日本に来て、国を乗っ取ろうとしているみたい。そのためにあの明神さんの大黒様と我が主人光龍様とを仲違いさせる計画なんだと。その計画は、既に最終段階に進んでいる。これは、まずい!
『ありゃまぁ!』
俺とあおいさんは、光龍大社に戻る。直ぐに報告しないと! けど、光龍様は、『ありゃまTV』の『実写版 初代ラブプリ!ーラッシュー』に夢中。聞く耳を持たない。
「ちょっとあんた。一体何のつもり? 説明しなさいよ」
いけない。うっかり忘れていた。小さな礼拝堂で俺が見聞きしたことや、光龍様とお話ができることを、あおいさんに説明していなかった。今さらだけど、とりあえず説明。案の定、あおいさんは半信半疑といった感じ。
「ま、なんかヤバイってことは伝わるわよ……。」
「ありがとう。今はそれだけでも嬉しいよ!」
「で、何か手はあるの? 光龍様とやらを『ありゃまTV』から引き離す手は」
そう言われて、俺は考えに考え抜いた。『ありゃまTV』の『実写版 初代ラブプリ!ーラッシュー』よりも光龍様が興味を示しそうなものって……。
「そうだ! 俺、直ぐに行ってくる!」
「ちょっと、待ちなさーい。私も行くから」
あおいさんがついてきてくれたのは正解だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます