巫女観察命令

金魚は世界最古の観賞魚!

『はじまりはまたコント!』


(暇なのじゃ。なんとか致すのじゃ)

(無理を言わないで下さい)

(そなたは良いのじゃ。そうやって金魚の世話をすれば、それで幸せなのじゃ)


 御神札を作って以来、俺にプライベートな空間がなくなった。どこへ行くにも御神札の携帯を義務付けられているからだ。おかげで、いつでもどこでも光龍様の金切声が俺の頭に響く。正直言って、鬱陶しい。光龍様に早く実体を捧げてしまった方が良いかもしれない、俺にとって。


『御神託の無駄遣い』


(金魚ばかりではのうて、もっと周りをよく見るのじゃ)


 光龍様は、俺が金魚の世話ばかりしているのが気に入らないのかもしれないけど、金魚も立派な生き物。命を粗末にするわけにはいかない。この日は、エアレーションの調子が悪くて、その調整に四苦八苦していた。だから、余計に光龍様が鬱陶しい。


(これは神託なのじゃ! 巫女をよく見るのじゃ)

(えっ?)


 ということで、巫女の観察が義務付けられた。


『巫女分類学』


 巫女達を種類分けすると、まずはあおいさんとそれ以外になる。あおいさんは自宅からの通いで巫女の助勤を務めている。だから、観察の対象外。残りの6人は俺と一緒に暮らしている。アイリスさんとあゆみさんには立派なおうちがあるのに、何故かいつのまにか生活を共にしている。俺1人ではまりえ達の世話は難しいので、いてくれて本当に助かっている。


 一緒に暮らしている6人を分類すると、あゆみさんとそれ以外。金魚ならざる巫女は、あゆみさんだけ。俺が知る限り、あゆみさんは正真正銘の人間の女の子。俺にはどうしても女の子を観察する気にはなれない。だって、物心ついた時からずっと女の子を避けていたんだもの。全ては俺のくだらない性質、発光体質によるものだ。気が進まないけど、御神託では仕方がない。俺は珍しく、巫女達が待機している自宅の2階に行く。


『ラッキースケベ!』


「ねぇねぇ、見て! あゆみ」

「まぁ、まりえはとっても上手ね。けど、その格好でやったら駄目よ」


 俺が階段を登っていると、2階から声が漏れてくる。あゆみさんがまりえを褒めて駄目出ししているところみたい。褒めているのは習字だろう。まりえには他に褒めるところがなさそうだから。俺も褒めてあげようと思っていると2階に着いて、襖を開ける。すると、そこには下着姿のまりえがいる。どうして!


「あっ、マスター! おはよう!」


 そう言って、俺に飛びついてくる。アイリスさんほどではないけど、まりえの身体は俺を光らせるには充分に柔らかい。特に、ラッキースケベ的な不意打ちには、俺は無防備なんだ。これが、俺が女の子を避けている理由なんだから。けど、折角だから、気持ちイイー! のをゆっくりと堪能する。幸せ! それから光龍様の御神託に従い、周りをよく見る。


『みんな大慌て!』


 まりえは不思議な光を下着姿でかつ至近距離で大量に浴びたせいで、気持ちイイー! あまり失神している。少し離れたところにいたアイリスさんや優姫も、目をとろんとさせている。そして、割と近くにいたしいかは、かなり感じてしまったらしく、涙目でこちらを見ている。

 しいかと同じくらい近くにいた金魚ならざる巫女のあゆみさんは、半分はまりえの影にいたので、それほどは感じなかったみたい。もしあの距離で直に不思議な光を浴びていたら相当不快だったろう。あゆみさんにとっては不幸中の幸いだったみたい。


「あっ、私、洗濯しないと!」


 そう言って、そそくさと部屋を出て行くあゆみさん。俺は本当に申し訳ない気持ちで一杯になる。あゆみさんが少しでも不快な思いをしたのなら、全ては俺の仕業なんだから。このときはまだ、そんな風に考えていた。


『観てて楽しいまりえ』


 むくりと目を覚ましたまりえ。勢いでもう1度俺に抱きつく。本日のラッキースケベパート2だ。けど、俺は不思議な光を放たない。次の日供祭が終わるまではへっちゃらさ! といっても、普通の男子が示す普通の生理現象は起こるもので、俺は密かに股間にテントを張る。そっとまりえを剥がし、その場にあぐらをかく。なるべく服をダブつかせるのを忘れずに。そして、まりえに下着姿でいた理由を聞く。


「まりえがね、装束を汚してしまったの」


 まりえは、自分が悪いのが分かっているようで、ササーッと身を正す。正座したときに胸が揺れる。その揺れは、少し前かがみの俺の視線のちょうど先にあるから、堪らない。服を脱いだのはあゆみさんに洗濯してもらうためだとか、不意に俺が入ってきたのがうれしくてつい抱きついてしまったとか、ベラベラと言い訳していたけど、俺は上の空。自分の身体を鎮めることに精一杯。まりえは、俺に対して従順すぎるというか、俺のことを好き過ぎるみたい。嬉しいけど、女子ってだけで緊張してしまう。


「まりえ、いい加減に服を着なさい」

「えっ、でもどうせあと1時間で開場なんだよ」


 まりえの性格にもう1つ付け加えると、自堕落なところがある。たしかに開場すれば巫女装束を着なければいけない訳で、また着替えなければならない。面倒臭いと思うのも分かる。制服のまま塾へ行く女子みたいなものだろう。けど、ここは女子校じゃないし、もう少し俺という男に気を遣ってもらいたいものだ。少し強く言って、やっということを聞いてくれる。


 もっとも金魚らしい金魚の琉金だったまりえは、あまりにも普通の女の子。おおらかで快楽的で自堕落な性格の持ち主なんだ。普通でないのは、肉付きの良い身体とお目々ぱっちりのベイビーフェイス。どちらも俺の好みにピッタリなんだよな。あと、俺のことが好き過ぎるのも、普通じゃないのかも。そうそう、忘れっぽいのは天才的!


『意外に負けず嫌いのアイリスさん』


 まりえが部屋着を着はじめたとき、ふと周りを見ると、アイリスさんが装束の諸肌を脱いでいた。斜め後ろからでも、胸の大きさがはっきりと分かる。白い肌をより際立たせるようなカラフルな花柄のブラジャーはアイリスさんの身体にぴったりフィット!アイリスさんは発光体質ではないけど、その身体は俺には眩し過ぎる。アイリスさんが使っている超高級石鹸の香りが漂うと、より気品を感じてしまう。気品といえば、立ち姿。背筋がシュッとしてて、背骨がどこを通っているかは、細くて華奢な背中にある2本の線を見れば一目瞭然。ずっと見ていたいお姿だ。さすがは金魚の王様と言われる蘭鋳だっただけのことはある。麗しい。さらに長い金色の髪を静かに垂らして肩のラインをチラ見せされると、俺の脳内には『後ろから襲う』と『逃げる』の2択しか浮かばない。逡巡の挙句、ここは逃げの1手。けど、花が咲き乱れる谷間に逃げ込む訳にもいかない。それでは襲うのと変わらないからね。結局、お花畑で自分の身体の熱い部分をフーフーしてくるしかなさそうだ。けど、どうして急に諸肌脱いだりしたんだろう? テントを折りたたんだあと、2階に戻って聞いてみた。


「あっ、それは、その……。まりえが叱られていたので……。」


 アイリスさんはバツが悪そうにそう答える。


 意外にも不精なアイリスさん。気品があり気位が高い。まりえを人一倍意識していて、ライバル視しているみたい。ひょっとして、まりえのことを恋のライバルだと思ってるのかも⁉︎ それって、俺のことが好きってこと! アイリスさんなら良いかも。金魚だし……。


『優姫の優は、優しいの優・優雅の優』


 みんなのことを満遍なく観察するには、優姫を見ていれば良いのかもしれない。だって、周りにはいつもみんなが集まってくるんだ。習字の練習を終えたしいかが優姫に話しかける。


「ねぇ優姫。これはどこに片付ける?」

「そこの棚に置いといて!」

「了解!」


 的確な指示に、反抗期のしいかも逆らうことなく従う。今度はまりえ。


「今晩のおかずは、ナニ⁉︎」

「麻婆茄子としじみの味噌汁よー!」

「わぁ、ご飯が進むやつだ! うれしい!」

「お庭の掃除して身体を使っておいてね」

「もちろん! このまりえ様に任せておいて」


 自堕落なまりえが、優姫の手にかかると働き者に大変身。すごいなぁ! 優姫は常識人だからみんなに頼りにされている。女子トークというよりも、母と子の会話みたい。細かい指示をしている訳じゃないけど、優姫に言われるとみんな不思議とやる気にさせられる。次は誰だ?


「ねー、この下着はどうしたら良い?」

「あとであゆみに洗ってもらうから、それまではこの籠に入れておいて」

「うん、分かった!」

「まこと。あんまり雑に持ってマスターを刺激しないでね」

「でも、今日はもう光ったんでしょう? 私のいない間に……。」

「ですが、ごにょごにょ……。」

「分かった。気をつけるよ!」


 何だ! 今のごにょごにょって会話。聞き取れなかったぞ。きっと俺の発光体質について話してるんだろうな。ちょっと腹がたつ。黙って聞いてる俺も悪いけど、何を話したのか聞いてみたい。ようしっ。俺はほんの少しだけキリリとした顔つきで優姫に話しかける。


「ねぇ、優姫⁉︎」

「あら、マスター! 話しかけてくれてうれしいです!」


 優姫は満面の笑みで俺を見つめる。かわいい。こんな調子では憎めない。だけど、今日の俺は違うぞ!


「いや、その。聞きたいことがあって!」

「あぁーさっきの話のことですか?」


 聞いてみると、優姫は素直に応じてくれる。何も隠さずに、あるがまま。優姫がまことに話したのは、男子と女子の違いについて。たった1人の男子である俺に、みんなで気を使ってあげようってこと。俺の発光体質についてって訳じゃないみたい。


「そうだったのか。いや、助かるよ」

「はい。男と女が一緒に暮らすんですから。互いに気遣いしませんと」

「うん。男としてできることがあったら、俺にも言ってよ!」

「いえ、あとはお風呂掃除だけですから」

「あーあ、そういうのこそ、男の俺に任せてよ!」

「そんな、マスターにお風呂掃除して頂く訳には……。」

「遠慮しないで!」

「では、お願いします。よく擦ってくださいね!」


 そう言って、優姫はいつのまにか手にしていたデッキブラシを俺に渡す。もしかしたら優姫が俺のこと悪口言ってるのかと思ったけど、全然違う。疑ったりして申し訳ないな。でも、どうして優姫はまことに、ごにょごにょと話したんだろう? 普通に喋れば良いのにね。俺は我が家の広すぎる風呂場を一生懸命にゴシゴシと擦りながら、そんなことを考える。優姫の言葉で1番やる気になっているのは、俺かもしれない。


『金魚ならざる巫女って、普通なんだけど』


 金魚ならざる巫女、あゆみさん。この日は俺が不思議な光を放って以来、辿々しい。鈍感な俺にも分かるくらい、あからさまに俺を避けている。小学生の時に女子によく取られた行動と一緒だ。


 風呂場の掃除を終えて2階に行くと、あゆみさんが寛いでいた。俺は様子を見て観察しようとしたが、直ぐに出て行ってしまう。わざわざ俺に聞こえるような大きさの声で、洗濯をしようと言っていた。


 お昼ご飯の後も、似たようなことがあった。同じく2階に行った俺を見るなり、買い物をしようと言って、優姫を誘った。優姫はもう1人で買い物することができるのに。誘われた優姫の方は、はじめは怪訝そうだったけど、あゆみさんに頼み込まれると何かを察し、一緒に行こうという話になった。


 結局、あゆみさんのことはほとんど分からず仕舞いだった。何となく寂しい。


『健全なる反抗期少女のしいか』


 そんなことを思っていると、しいかがやってくる。しいかは反抗期だから1番厄介。素直であることの方が少ない。けど、反抗期って確か、心と身体のバランスが崩れてなんとかって言うけど、巫女になった金魚達は、みんな心と身体が急変したんじゃないのかなぁ。だったら、みんなが反抗期でも良いくらいなのに、不思議。


「ねぇ、しいか。何かしたいこととかあるの?」

「べつにぃ、そんなのないよ」


 んー、まぁこれくらいの反応は予想通り。俺はめげない。


「じゃあ、急に巫女になって迷惑だった?」

「そんなことないよ」

「擬人化したのは、迷惑だった?」

「それも違う。別に、考えたことないわ」

「何か、楽しみってないの?」

「……。あるわ。楽しみくらい……。」


 はじめっからこう聞けば良かったのかもしれない。俺の中で、人と人とのコミュニケーションのあり方が、築かれていく。単刀直入に聞く方が、早い。俺は興奮を抑えてしいかに聞く。


「何?」

「マスターの、観察? かしら」

「おっ、俺の観察!」


 なんてことだ。俺は、しいかを観察しようと思っていたのに。それが、今までしいかに観察されていただなんて! 信じられない。


「マスターって、結構、池メンだと思うわ」

「えっ、俺がイケメン?」

「違う、池メンよ! 間違えないで‼︎」


 分からない。何を間違えたんだろう。そう。こんなときは、単刀直入!


「どう違うのですか?」

「池メンというのは、その……。心が池のように広い人ってこと」


 さらにしいかは強調して続ける。


「決して、格好良いのとは違うからね!」


 なるほど。上手いこと言いやがる。しいかからすると、俺は池のように心が広いが、決して格好良くない人ってことか!


「良く分かったよ……。」

「本当? じゃあ、今日は『ラブプリ!』見ても良い? 池メンマスター!」

「あぁ、一緒に見よう!」


 こうして俺は、楽しみにしている『機動弓兵ボウフリー』ではなく、その裏番組の少女向けアニメ『3人揃ってラブプリ!』を見ることになった。あとで知ったけど、男子より女子の方が人を見る目があるらしい。


『まことが『ラブプリ!』よりも興味のあるもの』


 金魚達の中で、1番の引っ込み思案はまことかもしれない。何をするにも人の顔色を伺ってから。先日は、余ったおやつが食べたくってじっとしてたけど、まりえに先に食べられてしまい、涙を浮かべていた。


 そんなまことだから、かなり思い切った行動だったと思う。この日の夕の日供祭の直ぐあと、まことは俺のところへ来た。さっきは『ラブプリ!』を一緒に見ようとしいかに言ったけど、正直見る気になれず、仕事を理由にキャンセルした。『ラブプリ!』が終わったところでひと仕事終えてゆっくり『機動弓兵ボウフリー』を見るつもりだった。今、俺の目の前にいるまことも、『ラブプリ!』が大好きなはず。ということは、まことは『ラブプリ!』をキャンセルして俺の前にいることになる。


「マスター、お疲れさまです」

「あぁっ、ありがとう」


 そう言ったきり、まことはしばらく黙っている。まさか、お疲れさまのひとことを言いにここへ来た訳でもあるまい。まことは一体何を望んでいるのだろう。俺は気になって、まことに素直に話しかける。


「どうしたんだい? 何かあったの」

「ねぇ、マスター。まことって、セクシー?」


 頬を赤らめて、恥じらいながら俺に聞く。そんなまことは、いつもより心なしかセクシーというか、色っぽく見える。けどそれ以上にかわいらしい。俺は答えに窮する。


「うっ、うん。けど、かわいい、かな……。」

「セクシーとかわいいは、どう違うのです?」


 割と面倒臭い質問だ。俺は今まで誰かとそんなくだらない話をしたことなんかない。だって俺は女の子を避けていたし、避けられていた。男の友達だってほとんどいない。いわゆるボッチだった。だからそういう体験が、ごっそり抜けているんだ。けど、俺以上にそういう体験をしていないのがまこと達。金魚だったのが急に15・6才の女の子になったんだから。俺は飼い主として、そこのところを教えてあげないといけない。このときの俺は、何故かそんな気持ちになる。だから、俺なりには真剣に、まずはまことの意見を聞き出そうとする。


「まことは、セクシーが好きなの?」

「いっ、いいえ。好きという訳では……。」

「じゃあ、かわいいが好き?」

「それも、そうという訳ではありません……。」

「……。んーん。じゃあ、どちらかというと、どっちが好きなの?」

「まことが好きかどうかは関係ないのです!」

「えっ?」

「マスターは、どちらがお好きなんでしょう!」

「えっ、おりぇ?」


 俺は、不意打ちに弱い。まことがセクシーかかわいいかで悩んでいると思っていた。けど、話をしているうちに、そうではなく、まことは俺の好みに関心があるんだって分かった。多分俺が鈍感なんだろうな。こんなときにイケメンなら、的確に判断し、最初からその線で会話を進めていたことだろう。俺には無理だけど。


「マスターは、どうしたら光るんですか!」

「光るって!」


 今日は不思議な光を放ったばかりだけど、そのときまことは境内を掃除していていなかった。それから、優姫との怪しい会話。俺は2つのことを思い出して、ある結論に達する。まことは、不思議な光を浴びたがっている、と。今まで、光を浴びたいと言ってきた人なんて誰もいない。俺は、生まれて初めて人に必要とされているような気がする。けど、どうやったら不思議な光を放てるかなんて、俺にも分からない。気持ちイイー! と感じて興奮状態になると自発的に不思議な光を放つだけで、自分の意思で不思議な光を放ったことなんか1度もない。だから、分からない。


「お願い、マスター! まことにも不思議な光を!」

「わっ、分からないよ!」


 そう言って俺は身体を仰け反らせる。俺の脳内には大抵『逃げる』という選択肢が用意されている。大抵は上手くいくもの。けど、このときはそこにあんなものが待ち受けているなんて、知らなかった。


『ぷにぃぷりんっ学入門』


 俺が身体を仰け反らせた先に待ち受けていたもの。それは、お風呂上がりのあゆみさん。この日は、録画しておいた『機動弓兵ボウフリー』を見るためにいつもより早めに日供祭を催したから、あゆみさんはまさか俺が神殿にいるとは思っていなかったみたい。それは俺も同じで、あゆみさんが神殿に来るとは思っていなかった。


 俺はバランスを崩して倒れそうになったけど、ぷにぃっという、柔らかいものを潰すときのような感触と共に静止。次の瞬間にぷりんっというハリのあるものが伝える振動によって跳ね返される。つまり、『ぷにぃぷりんっ』という訳だ。この『ぷにぃぷりんっ』について考察すると、正体不明ながらも導き出される結論は、気持ちイイー! である。


 俺は身体のバランスを取り戻すと、その正体を知らずにもう1度だけ、今度はさっきよりも強めに『ぷにぃぷりんっ』に顔面を押し付ける。ぷにぃの手応えはほとんど変わらないけど、ぷりんっの方は、さっきの何倍もの力で俺の顔面を押し返そうとする。作用と反作用という訳だ。実に興味深い。俺は負けじと踏ん張り、『ぷにぃぷりんっ』を押し戻す。楽しいし、気持ちイイー! そして、俺のくだらない性質、発光体質が発動。不思議な光が放たれる。


「あっ、マスター! 光ってる!」


 まことの声が遠くに聞こえる。俺はトランス状態に入ったようで、何も覚えていない。だから、『ぷにぃぷりんっ』の正体が、あゆみさんのおっぱいだと知らされたときは、恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまう。けど、まことやあゆみさんのことについても色々と知ることができた。あとで光龍様に報告しておこう。


『報告します』


(あゆみの正体を知らなかったとは驚きなのじゃ)

(では、光龍様はご存知だったのですか)

(当たり前なのじゃ。面接のときから知っておるのじゃ)

(面接のときから! じゃあ、もしかしてあおいさんも、金魚なの?)


 この日の2度目の発光のあと、あゆみさんが金魚だったことを思い出した! それを報告したんだけど、光龍様はもうご存知だった。俺はずっとあゆみさんが金魚ならざる巫女だと思っていたから、驚いたのに。ついでに、あおいさんはどうなのか聞いたんだけど、光龍様にも分からないみたい。


(分からんが、彼奴が何かを隠しておるのは事実なのじゃ)

(何か、ですか……。隠すだなんて、水臭いなぁ……。)

(そう申すものではない。彼奴にもプライバシーがあるのじゃ)

(プライバシーか)


 なら、仕方ないか……。と、思ったとき、俺の頭にふとしたことが浮かぶ。


(御神札を書いてから、俺のプライバシーが減った気がしますけど!)

(そなたは、神の僕なのじゃ。プライバシーなどハナからないのじゃ)

(そんな……。)


 俺はがっくりと肩を落とす。発光しているところを見られるのは正直恥ずかしい。それが今日は2度もあったんだから、穴があったら入りたい。


(じゃが、2度目の発光は見逃してしもうたのじゃ)

(えっ、見てなかったんですか。良かった!)

(儂はちょうど『ラブプリ!』に夢中じゃったのじゃ)

(な、なるほど……。)


 今日の巫女達の観察では、新発見が多かった。女の子も金魚達と同じで個性豊かだって結論付けたいけど、よく考えたら6人とも金魚なんだよね。結局、普通の女の子のことなんか、俺には全く分からないままなきがする。


 けど、光龍様が『ラブプリ!』ファンだってことが分かったのは、大きな収穫かもしれない。1人になりたいときは、そっとDVDを流してみようと思った。


 それからもう1つ、あおいさんのこと。彼女のことは分からないことが多過ぎる。謎が解けるには、もう少し時間がかかりそうだ。

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