『ぶくぶく堂』の事情
『ぶくぶく堂』に着くと、店主が誰かと喋っている。相手が一般客でないことは、話を聞いていて直ぐに分かる。
「さちこさん。お店をたたんだら、俺と結婚して下さい」
相手は近くにある和菓子屋の跡取り息子の郁弥。プロポーズの真っ最中といったところだが、その旗色は悪い。郁弥はさちこさんにハッキリと断られる。そこへ、郁弥の父親が現れ、店の援助を申し出る。
「借金はうちが肩代わりしよう。その代わり……。」
「あんこのレシピは渡しません!」
さちこさんはこれも即答。どうやら複雑な関係があるみたい。店の手伝いをするついでにその事情を聞く。その背景には、さちこさんの父親で前の店主が作り出した『奇跡のあんこ』のレシピが存在する。『ぶくぶく堂』の味が一時落ちたのは『奇跡のあんこ』のレシピをさちこがうっかり紛失していたから。味が戻ったのは『奇跡のあんこ』のレシピが見つかり使うようになったから。近くにある和菓子屋は、この『奇跡のあんこ』のレシピを喉から手が出るほど欲している。自分達が作るあんこより美味しいからだ。けど、さちこさんは近くの和菓子屋が好きではない。父の仇のように思っている。そこに、郁弥氏の恋慕が絡まり、ドロドロの人間関係になっている。俺はあまり首を突っ込みたくはないけど、『ぶくぶく堂』にお客さんが戻れば、まりえの願いは成就。俺も自分でたい焼きを作る必要がなくなって、日供祭がうんと楽になる。1石2鳥! 頑張らないと。
「まりえお姉ちゃん、ママは貧乏が好きなの! 私もよ」
『奇跡のあんこ』のレシピを擁して上手く立ち回れば、もう少し裕福な生活ができるのだろうが、さちこさんはそれを拒んでいるんだって。貧しくとも心豊かに暮らしたい、と。そして、さちこさんの考えをきよこちゃんは誇りに思っているみたい。そんな『ぶくぶく堂』の事情を知り、まりえ達の士気は最高潮になる。俺は年収を上げたいけど……。
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