例大祭
神殿。まりえを連れ戻した訳ではなく、何となくまりえなら水槽のある地下室に戻るだろうと考えたことを説明すると、光龍様は機嫌を良くして褒めてくれる。嬉しい。けど、ご利益にくれたのは、とんでもないもの!
(そなたには仕事が待っておるのじゃ)
(えっ、仕事? そんなぁ……。)
(自分で蒔いた種なのじゃ)
難問といえる仕事。例大祭でブロマイドを全て配布すること。まりえの発注ミスのことは、光龍様も知っているのに……。
そんな難問に頭を抱えている俺のところに、あゆみさんが駆けてくる。光龍大社がバズっているらしい。ツブヤイッターのトレンド入りしている。どういうこと? あゆみさんは眼鏡の両側のレンズをキラリと光らせ、急に早口に説明しはじめる。
「『湯島3兄弟』。それぞれに違う美意識を持ったオタクの集まりで、謎の多い集団。実の兄弟かどうかも謎。住んでるところも謎とされる。その3人が揃って推す人物やイベントは、必ず大人気、大盛況となると言われる。今回は、どういう訳かその3人が揃って光龍大社の例大祭を推している。それをきっかけにしてツブヤイッター中のヲタが例大祭への参戦を表明している。という訳なんです。鱒宮司、明日の例大祭は間違いなく大混雑です。迎撃体制を整えないと、大変なことになりますよ!」
信じて良いか悪いか分からない。あゆみさんの推理は当たり外れがある。けどもし信じなくって現実に大勢の人が訪れたら大変! けど、警備員を雇うお金なんてない。そんなことを考えていると、まりえが話に入ってくる。
「あっ、この人達知ってる!」
まりえがどうして『湯島3兄弟』を知っているんだろう。話を聞くと、迷い込んだ公園で親切にしてもらったらしい。そのときにまりえは光龍大社の巫女だってことを話したらしい。これで合点がいく。『湯島3兄弟』は、巫女のブロマイドが目当てってことだ! 明日の混雑も間違いがない。だから俺は、参拝のルールを明確にすることにしたんだ。
光龍大社には元々決まった参拝作法はない。今回はあくまで混雑を緩和するための措置。『湯島3兄弟』を筆頭にツブヤイッター上で参拝を表明している人のほとんどが巫女のブロマイドが目当て。つまりおみくじを引きに来る。なるべく迅速に回れるように順路を整える。
その告知をするために、巫女達と一緒に動画を撮る。
「鳥居をくぐる際は、立ち止まらずに頭を少し低くしましょう」
「手水舎では、左手、右手、口の順に清めます。柄杓を口につけないようね!」
「参道を歩く際は道の中央を開けておきましょう。神様がお通りになります」
「感謝の言葉とおみくじを引くことを神様に告げます」
「おみくじは1度の参拝で1回にしましょう」
「持ち帰るか、大社指定の『おみくじ結び場所』をご利用ください」
「お帰りの際は、振り返らず立ち止まらずに頭を低くしてください」
受像機を借りたのは痛い出費だけど、混乱を防ぐためには仕方がない。事前に備えられることは全て行った。あとは、明日の例大祭が上手くいくことを祈るしかない。光龍様の御神威を高め、俺の年収を上げるぞ!
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