第3話【監禁そして脱獄】
「なんで持って来ちゃうんだよ。ゴミ箱に捨てたのに」
「兄弟。なぜこんな事をした!!」
ライトが胸ぐらを掴む。
だがクロスは動揺もしていないようだ。肩を震わせて笑っている。
「いい加減、調子こいてる素人共がうざいからだよ。
買い物してても、メシ食ってても
どっかの馬鹿が低レベルな推理もどきを繰り広げる。
探偵業は遊びじゃないんだ!
豊富な知識に、経験とテクニック、疑惑をかける相手に対する配慮、全てが必要なんだ。
兼業探偵だあ?
片手間でやれる奴なんてそう居ないんだよ!
俺たち兄弟レベルじゃないとな!」
渾身の右ストレートが炸裂した。
衝撃で倒れ込んだクロスは、顔を押さえながら固まっている。
初めて殴ったのだろうか。
ライトは己の拳を見つめて呆然としている。
「わんわん、まあ落ち着いてお兄さん。
大した事じゃないでしょう。小学生レベルのつまんない嫌がらせです」
「なんだと?」
「だって怖がらせるだけだもん。
ビビリで笑っちゃいます。文章もありきたり」
「ふざけんな犬女!」
立ち上がったクロスは肩で息をしながら
声に怒気を乗せる。
「そんなもんで済むわけねぇだろ!
お前ら知らないだろうな、探偵抹殺チャンネルがあるんだよ。俺はそこの管理人だ」
「なっ!?」
「気に入らない探偵がいる奴に、住所と現在地を教えてやってるのさ。
直接手を下す事なく、うざい奴を排除できる。
馬鹿を使って馬鹿をやるのは最高だ!」
「兄弟、まさか、そこまで!」
高笑いを続ける脅迫犯を前に、コリーはしばらく沈黙を守っていたが
やがて静かに呟いた。
「まさか名探偵のクロス君が、探偵狩りの犯人だったなんて!」
「驚いたか?クソ犬は骨でもかじってろ!」
「意外と口が悪いし、意外とチョロいですね。イケメンが台無しでファンが見たらガッカリだ」
コリーは犬耳の中から手のひらサイズの機械を取り出す。
それが録音機である事は
再生された音声が流れた事で分かった。
「わんわん。警察に提出します。引退するのはあなたの方ですね」
「この、渡せ!」
殴りかかったクロスは、突然目の前に現れた壁に一瞬ひるんだ。
その隙に腹部に強烈な打撃を受けて、悶絶して膝をついたのちに、気を失った。
「ありがとうございます、花見さん!」
「コリーちゃんが無事で何より」
巨体からは想像もつかないスピードだった。
風船のような腹をしていても、さすがは武闘派探偵。いや愛の力か。
脅迫犯は、警察が来るまで地下倉庫に監禁する事になった。兄であるライトも、自ら志願して一緒に入る。
「犯罪行為が発覚したとはいえ、お客様です。
せめてこちらをおかけください」
執事は焦げ茶のブランケットを手渡して、鍵を締める。
ガチャリと軽快な音が鳴り響く。
一度ノブを回し、開かないことを確認した。
ホールに戻った面々が思い思いにくつろいでいると
突然、激しい爆発音が響き渡る。
「なんだ!どこだ?」
「地下倉庫の方ではないか?」
駆けつけた雪白と月丘が見たのは、爆発で弾け飛んだ扉と、黒こげになっている倉庫内。
中に兄弟探偵の死体が・・・無かった。
「どこに消えたんだ!?」
鍵を持っている執事はずっと側に居た。
脅迫犯とその兄は、まるで煙のように忽然と姿を消してしまった。
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