第4話【女王降臨】

 屋敷中を探したが、兄弟探偵の姿は無い。

 外に出た事も考えたが、どこも中から鍵がかかっていた。


「妙だな、なんか落ち着かねえ」


 月丘はタバコの箱を揺すって最後の一本を取り出す。

 外は見えても、中は見えない。

 霜降はタバコの煙をゆっくりと目で追っていたが、不意に閃いた。


「執事さん、先ほどの鍵を見せて頂けませんか?」


「かしこまりました」


 白手袋に乗ったそれは、特殊な形をしていた。

 複製不可能なマスターキーで、屋敷に一つしかないもの。


「これで、どこの部屋でも開くのですね。ちょっと使ってみても構いませんか」


「どうぞ」


 マスターキーは、使えなかった。

 鍵穴に差さるだけで、回転しなかったのだ。


「やっぱり偽物でしたか」


「さっきガチャッて言ったのに!」


 コリーが不思議そうに見つめる中、霜降の推理が始まる。


「執事さんは、焦げ茶のブランケットの中に本物のマスターキーを仕込んでいたのです。

 兄弟探偵が抜け出せるように。

 鍵を閉めた音は、録音だったのです。そうですね?」


 沈黙した執事に代わり、階段上から拍手が響き渡る。

 ゴージャスなドレスに身を包んだマダムが姿を現した。蜂蜜ミツバ。館の女主人。


「正解です。なかなかやりますわね霜降探偵」


「恐れ入ります。本日はお招き頂き、ありがとうございます」


「ミツバ様!」


 コリーがピョンピョンしながら抱きついた。

 名前呼びといい、過度なスキンシップといい、面識がありそうだ。

 メイドが主人に静かに歩み寄る。


「ミツバ様、ご用意が整いました」


「さあ名探偵の皆様、晩餐会を始めましょう」

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