第2話【虐殺のハヤブサ】
荷物を置いてホールに戻ると、ソファでうなだれるコリーの姿が目に入る。
トレードマークの犬耳が更に垂れ下がっている。
「お友達、どうでしたか」
「手術中だそうです。今すぐ病院に行きたい。でも・・・」
「何か問題が?」
「看護師さんから伝言で『卒業旅行費、ゼッタイに勝ち取れ』と。
もう、自分が大変な時に。呑気なんだから」
コリーは震える手を膝の上に乗せ
キッと顔を上げた。
「二人は病院で戦っています。だから私はここで戦います。優勝賞金を持って、堂々とお見舞いに行きます」
晴れ晴れとした声。吹っ切れた探偵は強い。
少女達の友情を微笑ましく見守る霜降達の後ろから、そっと近づく足音。
「コリーちゃん、元気出して」
ソーセージのような指で皿を持ってきたのは、雪月花の食いしん坊担当・花見。
大きなパンケーキが湯気を立てて乗っている。
「厨房を借りて作ったんだ。これで占いをしよう」
「わんわん、楽しそう!」
「ケーキの上10センチからシロップを垂らして、手前に流れたら大吉。
後ろに流れたら凶。それ以外なら吉」
「凶が出たら?」
「美味しく食べてしまえばオーケー」
「大吉が出たら?」
「美味しく食べてよりハッピー」
「どっちにしろ食べるんじゃないですか」
花見の気遣いで、場が完全に陽だまりになる。駄目押しにシロップは手前に流れた。
ふわふわのケーキを幸せそうに頬張るコリーの周りに花が咲く。花見もちゃっかり用意していた自分の分を食べる。
霜降はふと視線を別のテーブルに移す。
雪白と月丘が白い紙を広げて議論を繰り広げている。
「名我差が襲撃されたのは、これが原因かと思いましてな」
血のような赤いインクで書かれた一文。
【探偵をやめろ、さもなくば命を食い荒らす
虐殺のハヤブサ】
「脅迫状ですか」
「我ら雪月花宛てに届きました。霜降殿の方はいかがですか」
「うちは順位が低いのでそういうのは」
「こちらです」
皐月が鞄からそっと取り出して、同じようにテーブルに並べる。
紙質、インクの色、フォント全てが同じ。
「同一犯で間違いないですね」
「怪しいお手紙なら、うちにも来てました」
満足そうにお腹をポンポンしながら、コリーが輪に入ってくる。
ポケットから取り出したそれは、やはり同じ物。
「何の騒ぎだ」
通りがかった兄弟探偵の兄・ライトが近づいてくる。説明を受けて、呆れたように鼻で笑い出す。
「くだらんな、ガキの悪戯に他ならない」
「じゃあ捨てちゃったんですか?」
「弟がそうしろと言っていたからな、まあ一応は持ってきたよ」
シワだらけのそれを並べた時
些細な違和感に霜降が気付く。紙質・文章に違いは無いが
兄弟探偵の物だけ、文字の色が違う。
「脅迫状を書いた犯人は、どの赤が一番恐ろしく見えるか見比べた。
そして決定稿を皆に送りつけたが、家族にちょっと見せてすぐ捨てる一枚に関しては節約をした。
つまり、没にした方を再利用した。
違いますか?クロスさん」
壁の影から、弟探偵が姿を現した。
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