第1話【暗雲たちこめる館】
霜降は今、大豪邸の前に立っている。
ランキング上位10名が対象の推理ゲームに招かれたからだ。
【名探偵たちの眠れぬ宴】
主催者・蜂蜜ミツバ。
優勝賞金・五億円。......
元々は79位だったところ
先日捕まえた変質者が余罪二十を越す極悪人だった為、ランキングが爆上がりした。
「話を聞いて血の気が引きました。
所長にお怪我が無くて本当に良かった・・・」
心配そうな声に、霜降の鼓動が高まる。
もっと一緒に居たい。その為にもこのゲーム、勝たなければならない。
「行こう、皐月くん」
「はい。必ず優勝しましょうね」
鈍い音を立てて扉が開いていく。
緊張からか、ひどく息苦しい心地がした。
「霜降殿!先日はお世話になりました」
雪模様の着物をまとい、前髪を上げて後頭部高めで一まとめにしている。
特徴的な侍スタイルは何処に居ても目立つ。
「先日の盗聴器ストーカーは、痛めつけて牢屋にぶち込んでやりました。
二度と彼女に近づかないで欲しいものです」
「その節はありがとうございました」
「霜降殿は人がいい。理不尽な担当替えは訴訟ものですぞ」
皐月の短い悲鳴が上がり、振り返ると
長い栗色の髪を、ワインレッドのスーツを着込んだ男が触っている。
「綺麗な髪の、美しい姫君。お名前は?」
「ちょっと、うちの助手に何してるんですか!」
霜降は慌てて間に入って引き離す。
雪白はセクハラ男に近づき、頭を小突いた。
「
「ああ、先日は美味しい仕事をどうも。これからも宜しくな」
皐月に差し出された手を、霜降は横入りして強く握った。
めいっぱい引きつった笑顔を浮かべて。
雪月花のもう一人のメンバー・
「わんわん、霜降さん。お久しぶりです」
犬耳アイドルがピョンピョン跳ねながら現れた。
名探偵犬コリー。苺みたいに甘い声をして、大きな瞳を輝かせている。
彼女が歩くだけで、荒野にも花が咲き誇るかのように感じる。
「もしかして皐月先輩?」
「・・・ええ。よく分かりましたね」
「スッゴク綺麗になりましたね。誰かと思っちゃった!
ゲーム頑張りましょうね!」
皐月がアイドルと知り合いだった事に驚いた霜降が、視線を向けると
同じ学校だったと説明された。
「イロモノばかりではないか、帰ろう兄弟」
「まあまあ、慰安旅行だと思ってさ。」
女性人気の高いイケメン兄弟探偵。二人とも大学院生で、兼業探偵が流行った理由の一つ。
「彼ら皐月くんから見ても格好良い?」
「わたしには所長が一番です」
「長旅お疲れ様でございました。お飲み物はいかがですか」
スラリとしたメイドが声をかけてきた。
よく手入れをされた暗めの長い金髪が特徴的で、目付きは少々悪い。
霜降達は、壁側に設置されたウェルカムドリンクコーナーに目をやる。
今日は暑い。
先にいる人達は皆飲んでいるようだ。
残っているグラスは五個。
「わんわん、メイドさん。アイスカフェオレください!」
コリーが背後から飛びつき、そのまま抱きしめる。
ぎゃうぎゅうと、音が出そうな程。
「セクハラじゃないのかな」
「問題ないように思いますよ」
皐月は気にしない。女の子だから?
アイドルだからなのか?
メイドは困ったようにため息をつきながら
「お客様は犬でいらっしゃいます。
カフェインは厳禁です。中毒の恐れがございます」
コリーは笑いながら離れる。
ゲストの犬キャラを利用してかわすとは。
「ご歓談のところ失礼いたします。
ゲストの皆様全員がご到着になりました。これよりお部屋にご案内をさせて頂きます」
執事と思われる人物が現れた。
ピシッとしたスーツに整ったオールバックが有能さを感じさせる。
「まだ揃ってないよ?」
コリーが問いかけ、周りも頷く。
雪月花の三人に、兄弟探偵、名探偵犬。そして霜降。
皐月はカウントしないから、まだ7人しかいない。
「残りのメンバーは、ここに来る途中に
通り魔に襲われたそうです」
ホールに静寂が広がる。
コリーが慌てて執事に駆け寄る。
「そんな!大丈夫なの!?」
「命に別状はないそうですが、今夜の宴はご欠席なさるそうです」
「連絡来てないよぉ、ここスマホ圏外なんだね。
固定電話を借してください!」
見えなくても分かる動揺ぶり。
来られなかった子達とは仲が良いのだろう。 メイドさんと共に隣の部屋に消えて行く。
「若い方ばかりだ、大事に至らなければなければ良いのだが」
雪白の不安そうな声に
月丘の「女の子が減って残念だ」という軽薄な言葉が重なり
痛烈な手刀が額にヒットした。
襲われたのは高校生探偵サークル
メンバーの中には、銀行強盗を一人で捕まえてニュースになった子もいる。
どんな奴に襲われたのか。
「一位様が来ないなら、俺たちの勝ちは決まったも同然だな」
「兄さん、空気読んで」
正体不明のランキング一位・
優勝候補が欠ければ、当然喜ぶ者も出る。
なにせ五億。
倫理観が狂ってもおかしくない。
「・・・所長、寒気がします」
皐月くんを抱き寄せて、背中を撫でた。
同じ気持ちだった。
とんでもない事が起きようとしている。そんな予感がした。
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