第4話 サディズム及びピグマリオニズム

白いカーテンの隙間から、夕陽の射し込む薄暗い一室にて。

「いい加減に、泣いて跪いてくれないかな? 」

 青白い顔をした黒髪の青年が、革製の鞭を振り下ろす。

 彼の目に映るのは、革製のベルトで体を拘束され寝台に腰掛ける、長い黒髪をした色白の少女。

 夕陽に染まる色白の滑らかな肌には、鞭によって付けられた無数の傷痕。

 それでも、少女は澄ました顔で、青年の方を向いている。青年の事など歯牙にも掛けないといった表情、それが青年には気に食わない。

「悲鳴の上げ方さえも知らないのかな? 君は」

 そう言いながら、青年は何処からか手に入れた軍靴を履いた足で、少女の右腿を踏みつける。それでも、少女は何の反応も示さない。

「また脚を踏み砕かれたいのかな? 」

 青年が視線を向けた先には、乱雑に包帯が巻かれた少女の左腿があった。

 青年が踏みつける力を強めても、少女は一向に表情を変えない。

 ミシミシという音が、薄暗い部屋に響く。

「何とか言ったらどうだ! 」

 痺れを切らした青年が語気を荒げ、バキリと少女の脚を踏み砕く。しかし、悲鳴は全く上がらない。

 憤りが頂点に達したらしく、青年は少女に一旦背を向け、机から薄汚れた小瓶を取り出した。中には、無数の細長い蟲が蠢いている。小瓶を少女の目の前に付きつけ、嗜虐的に笑みながら少女の唇に指を掛ける。

「ああ、そうか。君の口はものを飲み込む機能くらいしかなかったんだね? ならその無能な口を使ってあげるからありがたく思おうね」

そして、乱暴に彼女の口をこじ開けると、瓶の蓋を器用に指で押し開け、中身を流し込み、素早くあごを押し上げ口を塞いだ。少女の唇からは、口腔に収まり損ねた数匹の蟲が、暴れながら半身を垂らしている。そして、自分の動きによって引き千切れて、フローリングの床にポトリと落ちた。

「ははははははははは! 何て良い様なんだ! ははははははははははは!」

部屋に、青年の高らかな笑い声が響く。只それだけ。全くそれだけ。悲鳴など上がるはずが無い。

「っ…………ふざけるな! 」

青年は少女を乱雑に突き飛ばした。頭を打った衝撃で少女の口が開き、中から溢れたグシャグシャの死骸が寝台の敷布に染みを作る。それでも、少女の表情など変るはずが無い。 青年は、その様子を息を整えながら見つめた。

「……本当は…………それなのに……なんで君はいつもいつもいつもいつもいつも……」

 涙声になりながら、青年は寝台に崩れ落ちた。

 陶器の肌、球体の関節、硝子の眼球を持つ少女と青年との、すっかりと日の落ちた暗い部屋での、終焉の来ない調教遊戯。

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