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 ヤルダバオトの狙いは他の箇所にあったらしく、遂に表舞台に姿を見せる事となった。

しかし、それを目撃したプレイヤーは予想していた外見とは違う彼に対し、肩すかしだった反応が多い。

「まさかのヤルダバオトか?」

「なりすまし? それとも――」

「あの姿は特撮版だ。余程のマニアかもしれないぞ」

 周囲のギャラリーも注目はしている。ヤルダバオトの相手が、あのレッドダイバーと言う事もあって。

そこに注目してバトルを見ようというギャラリーは少ないだろう。特撮版レッドダイバーを知っている人物がどの位いるのかどうか――。

(どちらにしても、両者がなりすましともマッチポンプ狙いとも思えない。どちらが本物なのか――)

 アンテナショップで一連の中継を見ているのは、真田さなだシオンだ。

しかし、彼女が注目しているのはどちらかと言うと、対戦カードではなくバトルの行方のようである。

(レッドダイバーがなりすましとは考えにくいのは、あのデザインを見れば明らか。では、向こうは――)

 レッドダイバーは何度かシオンも目撃しているので、本物と言う可能性は高いだろう。

逆にヤルダバオトは今回が初参戦の様子。それを踏まえると偽者と言う可能性は否定できない。

(ヤルダバオトが表舞台に姿を見せた理由は――)

 シオンはSNS上で様々な発言を残しているヤルダバオトと言う人物の事は知らないのだが、最近になって目撃情報があるのである程度は分かる。

しかし、どの辺りから活動をしていたのかまでは分からずじまいだった。それを知っている人物がいれば、自分が知りたい位だろう。



 草加市のフィールド、そこは混雑具合が分かりやすいほどにギャラリーが増えていく。レッドダイバーがいる事が大きいだろうか。

その一方でヤルダバオトに反応が少ないように見える。ブーイングも飛んでいないので、それを踏まえると――マイナープレイヤーと認識されているの可能性が高い。

(予想外すぎるな――この反応は)

 ヤルダバオトは、周囲の反応を見て予想外と考える。

一連の動画が拡散していないのか? もしくは、それを拡散した本人だと気づいていないのか?

実際としては、一連の動画が思ったように拡散していないのが原因らしい。これに関しては想定外と言える。

おそらく、パリピ勢力などが拡散しようとしたのが理由だろう。

単純に理由を付けてパリピ勢を駆逐しようとしたガーディアンのやりそうな手と言えるか。

こうして摘発したパリピ勢は著作権侵害行為を行ったとして、ニュース等で報道される事になった。ある意味でもパリピ勢を一斉駆逐するのにガーディアンが使う常とう手段と言うべきだろうか?

『ヤルダバオト、お前がやろうとしていた事はコンテンツ炎上を広めるだけだ』

 目の前にいるレッドダイバーは特撮版をベースとしたデザインなので、間違いなく目の前にいるのは彼だろう。

レッドダイバーのなりすまし自体、ヤルダバオトは確認していないからだ。

「コンテンツが炎上するのは避けられない。ならば、いっそのこと炎上商法で稼げば――」

 その発言は、まるで特撮版ヤルダバオトを思わせるような物であり、発言内容こそは異なるが喋りのテンポは特撮版のソレだ。

それに対するレッドダイバーのやりとりも、特撮版のソレである。別の意味でも完コピと言われる可能性は高いが。

『炎上商法を繰り返せば、企業がもうかるとでも思っているのか? コンテンツを消耗品のように扱い、金儲けが出来なければ切り捨てるようなやり方を――』

「これ以上話しても平行線だと思わないか? ならば、決着はバトルでつけよう」

『最初から、こうする事が目的だったのか――』

「その為にあれだけの芝居を打ったと言いたいのか? 残念だが、それは違う。単純に、こちらとしては結果が欲しいのだ」

『売り上げが上がらなければ、失敗作と判断して黒歴史にする――炎上勢力などが使いそうな理由だな』

「コンテンツに愛着を持たないような者や、歪んだ考えで炎上させようという様な勢力にコンテンツを騙る資格はない。それこそ、ガーディアンが鎮圧すべき案件だろう」

 これ以上は平行線と判断したヤルダバオトは、さっさと決着を付けようと楽曲レベルをチェックせずにジャケットを見ただけで洗濯をする。

レッドダイバーも同じ楽曲を選択したので、早く進めようと焦っていたのかもしれない。

(この曲は、楽曲の選択を誤ったか)

 本来選曲するはずの楽曲は、こちらではなく超有名アイドルの楽曲である。しかも、数日後には削除予定の楽曲だ。

その楽曲で意図的に低いスコアでクリアし、SNS炎上は悪であり滅ぼすべき存在とアピールするはずだったのだが――。



 楽曲の選曲をミスした事は、ヤルダバオトにとっては致命傷である。楽曲の難易度はレベル6、初心者が選ぶようなレベルではない。

しかし、この曲を選曲出来たのには別の理由もあった。それがレッドダイバーにある。

(まさか、向こうが選曲ミスをするとは――らしくないというべきか)

 レッドダイバーの方は、ヤルダバオトの選曲ミスに同情はするが――プレイングミスの理由の一つにはしてほしくないとも。

レッドダイバーの選曲した楽曲はオリジナル楽曲であり、更に言えば伝道曲でもあった。伝道曲は、プレイヤー同士のマッチングであればプレイヤーが選曲する事も可能である。

ただし、あくまでも同じフィールド上のプレイヤーの話であり、別エリアでプレイしているプレイヤーがレッドダイバーの選曲リストから選曲は出来ない。

(しかし、リズムゲームである以上は――全力で演奏をしてほしい)

 レッドダイバーは、スタートラインを見つめ――これから始まるバトルが無事に終わる事を祈った。



 楽曲の方はジャンルとしてはハイスピードポップと言う事で、ボーカル曲である。

ボーカルに関しては同人の歌手が担当しているが、SNS上でも有名なので知名度が低いという事はない。

楽曲の譜面難易度は普通に見えるような配置なのに、フィールドの周囲を見回すと――明らかにパネルの数が多いような錯覚を覚えるだろう。

これが実際にプレイしているプレイヤーとギャラリーで見え方が違うという事なのかもしれない。

見ているギャラリーも驚いているので、その難しさは明らかなのかもしれないが――。

「曲調の割に難しい配置をしているな」

「リズムゲームだと、これが普通では?」

「あれでレベル6はないと思う。単純に物量系だから難しいだけ」

「あの曲は、オリジナルでも評判が高い。レッドダイバーは分かっていて選曲したのかも」

「動きの方も一枚上と言うか、向こうの方が分かっていない気配もする」

「楽曲のテンポを踏まえてなのか、あの譜面は難しいだろうな」

「曲の方はいいのに、譜面で損をしているパターンか」

 周囲のギャラリーからは専門用語等も飛び出しているので、一般ギャラリーからすればどう対応すれば分からない。

むしろ、リズムゲームの場合はこれが一般的な光景と言う可能性は否定できないだろう。

『ヤルダバオト、お前の発言はその程度の物だったのか?』

 レッドダイバーは、自分の選んだ譜面で苦戦をしているヤルダバオトを見て、発言をする。

しかし、これが煽りと判断されればレッドダイバーが炎上するだろう。しかし、そう受け取るようなギャラリーはいない。

ヤルダバオトの方はレッドダイバーの発言も聞こえていない位、譜面に集中していると言える状況だ。

スコアは大きくリードされており、足の方もレッドダイバーに何とか付いていくのがやっとである。

(これが、ARゲームの難しさなのか。チートツールを使っている様な人間には、この難しさは伝わらないのだろう――)

 不正ツールを使ってクリアしているプレイヤーを目撃した事もあったヤルダバオト、彼にとってゲームの価値はどうでもよくなってしまったのだろうか?

あのメッセージさえも伝わらず、自分が想定していたシナリオも崩れ、遂には――。



 演奏の結果は、ダブルスコア以上と言える物であり、レッドダイバーの圧勝である。

しかし、両者ともにゲージはゼロになっておらず、完走はしたというべきか。

レッドダイバーの動きに付いていけただけでも、ヤルダバオトには何かがあったのだろう。

 その後、ヤルダバオトのメッセージ動画が改めて発掘される事になり、それがまとめサイトで取り上げられてヤルダバオトのメッセージは拡散した。

当初の想定とは違う形での拡散に放ったが、違法なまとめサイトやパリピ勢力の摘発には一役買っており、これがSNS正常化に繋がると考えた人物もいる。

(これは過剰反応に過ぎない。レッドダイバー信者による――)

 シオンとは別のアンテナショップで一連のライブを見ていたのは、マスクを身に付け、私服姿で散歩をしていたクー・フー・リンだった。

彼女は特にテレビの取材などでアンテナショップに立ち寄った訳ではない。レッドダイバーがモニターに映っていたので、それが気になっただけとも言える。

今回のヤルダバオトが敗北した一件、それは特撮版レッドダイバーでは別の怪人が倒され、新たな敵が示唆される場面の再現とも指摘する者もいた。

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