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 ヤルダバオトの動画が思った以上に拡散しないのにはゲーマー同盟の存在もあったのだろうが、それ以上に別の存在もあった。

それが――最近になって姿を見せたバーチャルゲーマーを名乗るプレイヤー。その名は、ミカサである。

ミカサ自体はバーチャルアイドルとしては知名度が低かったが、ここ数日のリズムゲームプラスパルクールのプレイ動画で知名度を上げていた。

ヤルダバオトの思惑に乗っかるよりも、別の話題を取り上げた方が閲覧者数が伸びるという単純な理由だろう。

 SNSの流行はすぐに入れ替わることだってあり得る。だからこそ、悪目立ちしてでも名前を売ろうという便乗勢力が後を絶たないのだ。

それこそ、話題のニュースに言及して印象操作をしたり、炎上させようという勢力に同調するような勢力、アンチ勢力のヘイトを更に広めて混乱させようということだって――。

この光景をSNSを戦場と例えた大規模テロと言及した者もいるのだが、そうした人物は炎上を招くという事でガーディアンに摘発されていく。

つまり、批判的な意見を次々と封じていくガーディアンの方が逆に悪だという声も、つぶやきサイト等で広まっていくのだが――。

【ガーディアンのやっている事が正しいのか分からない】

【一種のアレと言う話もあるが――】

【しかし、彼らがいなければまとめサイトによる炎上は止められない。必要不可欠だろう】

【一体、何が起こっているのだ】

【真実は何処にあるのか?】

 様々なコメントが拡散していくのだが、ガーディアンの真相を知る者が語る事はないだろう。

機密事項をSNSで拡散すれば、大炎上をするのは過去の事件でも実証されているのだから。

(やはり、これは明らかに――シナリオ通りか、もしくはSNS炎上防止のための訓練なのか)

 アンテナショップで様々なニュースをチェックしていたクー・フー・リンは、身に付けているマスクに手をかけようともするが、途中で止まっていた。

過去にSNS炎上の防止を想定した大規模訓練が行われたというニュースを見覚えがあるが、その内容がフィクションなのか、ノンフィクションかは判断できない。

わずかな判断ミスは、SNS炎上に拍車を書けるだけだ。その為か、誰もコメントを拡散しようとしないのかもしれない。

逆に、こうした状況が続き、騒動が収まればいう事はないだろう。しかし、それをSNS炎上で利益を上げている様な勢力は許すのか?

(仮に訓練だとしても、告知があるはずだろう。それがないとすれば、明らかに第三者のシナリオと言うべきなのか)

 第三者、それがヤルダバオトなのかは明らかではない。しかし、SNS炎上勢力を都合よく一掃できるなんて一般ユーザーは本気で思っているのか?

それこそSNSで大規模規制等があれば話は別――と言えるかもしれないが、そうした規制を本当にユーザーは望んでいるのか?

(規制のないような無法地帯も問題だが、全てをルールで縛るような物も問題視される。そのバランスは――)

 思う部分があるのは誰もが一緒だろう。しかし、クー・フー・リンは悪しき炎上の連鎖が続くのであれば、ルールで縛る事もやむ得ないと考えていた。



 ヤルダバオトの動画に対し、違和感を持つのはクー・フー・リンだけではない。その典型例が、ゲーマー同盟だった。

草加市某所のフィールド、ガーディアンを名乗る炎上勢力のなりすましプレイヤーに対し、指摘をしている人物が一人いる。

「お前達の様な炎上勢力に油を注ぐような――」

 その人物は、明らかに若干の映像にノイズが混ざっていた。緑色のセミショートにぱっつんヘア、服装はファンタジー系の女騎士と言うべきか?

彼女はバーチャルゲーマーのガレス、言うなればミカサと同類である。しかし、知名度はミカサよりも低いので、発言力がないのもネックだろうか。

「そのやり方を放置するわけにはいかない!」

 ガレスは何も持っていない右手から全長一メートル弱のロングソードを呼び出し、それを軽々と振り回してから構える。

リズムゲームプラスパルクールには武器重量と言う概念がなく、他のゲームと違って軽々と振り回せるような箇所があるのだが――そこをリアリティがないと指摘する者もいた。

しかし、彼女の発言は別の炎上勢力からすればネタになるのは言うまでもないのだが、それを百も承知で彼女はガーディアンを名乗るなりすましプレイヤーに注意しているのだろう。

(今の状況だと、彼らもSNSを炎上させる勢力には変わりない。規模は違うけど、彼らを止めないと悲劇は繰り返される)

 ガレスの方は本気であり、向こうが抵抗してくるようであればロングソードでみね打ちにする事も考えていた。

しかし、あるメンバーがガレスの顔を見るなり逃走、それに便乗する形で他の人物も逃げ始めている。相手が悪いという位には――逃げの姿勢となっているのがその証拠だろうか。

 ガレスはどういう事なのか理解できなかったが、おそらくは向こうがガレスを知っていた事で逃げ出した可能性は否定できない。

「ここは撤退するぞ! 相手が悪い!」

 ある一人のプレイヤーは、分かりやすく声を上げながら撤退していく。

どう考えてもSNS炎上狙いなのは言うまでもないだろう。

(ここまであからさまだと――)

 ガレスは色々と言いたい所だが、物に八つ当たり等はしない。そういう行動に出れば、それこそ炎上案件を自分で提供しかねないだろう。

自分で自分の首を絞める行為、それこそコンテンツ流通でも真剣に考えなくてはいけない事なのだから。

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