第九話:決戦-ヤルダバオトの正体-

 ゴールデンウィークが明けた五月中旬のある日、それは雨天ではなく晴天だった。平日と言う事もあり、草加市内の人は閑散と言うべきか。むしろ、これが本来の草加市なのかもしれない。


 しかし、ARゲームエリアの一角では相変わらずの混雑具合を見せている。ここだけが特殊なフィールドと言わんばかりの勢いだ。


 その原因となったのは、レッドダイバーの動画が拡散していた事による物。その内容は、レッドダイバーが勝利した動画ではない。


『我が名はヤルダバオト。自らが生み出した世界を炎上させようという勢力に対し――裁きを下す者だ』


 拡散している動画の正体、それは自らをヤルダバオトと名乗る覆面をした謎の人物による投稿動画だった。


 その仮面のデザインこそ、あのレッドダイバーと戦っていたヤルダバオトにも似ているが、それは周囲の思い違いに過ぎない。


 声のトーンはボイスチェンジャー等で帰られているので、男性声以外は不明な部分が多いだろう。表情も仮面の影響で確認不能だ。


『君たちが、どのような気持ちで我々の生み出してきたコンテンツを炎上させてきたか。そうした勢力に対しての復讐でもある』


 彼は自らを創造神と名乗る。どう考えても頭の痛い人物による仕業か、それともパリピ勢力なのか、まとめサイトも判断しづらいものがある。


 下手に判断を誤れば記事を拡散したまとめサイトが炎上、それこそ大手芸能事務所等は自分達にとって都合のよい存在を失うだろう。


『君たちにも主張したい事があるのは分かるが、問答無用に炎上させていき――過去の事例を繰り返すのは、もはや――我々としては、もう飽きて――』


 途中からノイズが混じり、メッセージの途中が途切れている。再生できないと言うよりは、意図的にまとめサイトが台詞を合成させて炎上させるのを想定しているかのようでもある。


 明らかなトラップであると言えなくもない動画だと言えるだろうか? しかし、それに適当なメッセージを入れて炎上させるようなコラ動画は――先回りをしたかのように削除されていた。


 それも、削除理由は著作権新外と言う理由ではない。明らかに何者かが意図的に削除申請をしたとしか考えられなかった。


『SNS上でを我々が用意する訳がない。これは、あくまでもを提供しているのだ』


『もう一度だけ言う。コンテンツ炎上を行う様なパリピ勢力を、我々は全て一掃する。政治的な圧力と言う手段ではなく――』


 途中で何かのメッセージが入っていそうな気配だったのだが、そう言った様子は全くない。


 ラストに関しては動画の時間をミスしたかのような編集ミスを感じられるような、数秒の空白で終わっていた。


【この動画、編集ミスか?】


【素材用に何か台詞抜けがあるのでは?】


【しかし、まとめサイトも取り上げていない。もしかすると、フェイクニュースでは?】


 SNS上では、この動画に関して様々な動きがあったのは言うまでもない。編集ミスに関しても指摘する声はあった。しかし、それを無視してこの動画を炎上用の素材動画として利用し、自分の名前を有名にしようと言うパリピ勢は存在していたのである。これが彼の狙いとは知らずに。



 今回の動画に不信感を持っていたのは、アンテナショップで動画を視聴していたマスク姿のクー・フー・リンである。


 彼女は明らかにヤルダバオトと名乗る人物が焦っているようにも見えるのだ。自分の作った世界が誰にも注目されず、それこそネット上で玩具にされる可能性があるのだ、と。


(あの人物が仮になりすましとすれば、ここまでまとめサイトが静かなのはおかしい)


 大手ニュースサイトでもヤルダバオトは取り上げる事はない。イースポーツのサイトでも、リズムゲームプラスパルクールは取り上げるが――彼はスルー気味だ。


 しかし、まとめサイトの部類が全てノータッチなのは明らかにおかしいだろう。個別のつぶやきでは様々な意見もあるのに、それを切り取ってまとめる事さえしない。


 逆に纏めサイトが取り上げるのは、謎のプレイヤーの事だ。そのプレイヤーはゲーマー同盟と名乗る勢力の一人で、ユーウェインというプレイヤーネームが言及されているだけである。


(ユーウェイン? 名前の由来は円卓の騎士か)


 ハンドルネームの由来を知った所で、正体に繋がるヒントにはならない。実際、レッドダイバーも有名な特撮番組のヒーローだが、それ繋がりでプレイヤーの正体が判明する事はないだろう。


 それを踏まえてしまうと、プレイヤーの正体探りは無駄と考えている。むしろ、それを知って何になるのか?


 彼らのプライベートを知ったとしても、それがゲームの技術強化に繋がるとも思えない。逆に、彼らのプライバシーを侵害して炎上させるだけである。


 それは、様々なWEB小説サイトで実在ゲーマーを題材とした夢小説が拡散された事例も踏まえると、明らかに――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る