7-2
クー・フー・リンは目の前に現れた人物、
相手プレイヤーの方はすぐに立ち去ったが、クー・フー・リンはそれすらも出来ない状態である。
「君の顔には覚えがある。確か――」
時雨はクー・フー・リンの顔を見るのだが、数秒ほど考えた後に『気のせいか』と言わんばかりに姿を消した。
一体、彼は何をしようとしていたのだろうか? SNS炎上を防ぐ為、割り込んででも騒動を止めたかった事は周囲のギャラリーも把握している。
しかし、クー・フー・リンは時雨に声をかけられた理由を知らなかった。むしろ、相手プレイヤーが単純にパリピやフラッシュモブだった可能性を考えていたのだろう。
(さて、これからどうするべきか)
時雨が去った後、何をするべきか悩む。周囲を見回すと、先ほどの騒動を何処かで聞いてきたと思わしき人物が増えている。
想定以上にギャラリーも増えてきてしまったので、別の場所で仕切り直すと言わんばかりにクー・フー・リンも立ち去った。
こうなった理由は、プレイヤーとクー・フー・リンが乱闘騒ぎを起こし、炎上してくれれば――と考えていたまとめサイト等による誘導だろう。
しかし、大きな騒動になる前に時雨が止めた事で、最悪の結果は回避できたと言える。炎上してリズムゲームプラスパルクールがサービス終了したら、本末転倒だからだ。
「騒動になると思ったが、あっさり終わってるな」
「ガーディアンが素早く行動できるはずはない。別の第三者がSNSで情報を仕入れ、止めに入った可能性が高いな」
「一体、どのような勢力が?」
「ゲーマー同盟って聞いた事あるだろう? 彼らなのでは」
クー・フー・リンより数メートル程度離れた場所で様子を見ていた他のパリピ達が、お祭りに出遅れたかのようにゆぶやく。
想定していた騒動になっていない事には不満がありつつも、ガーディアンが動くには素早すぎるという事で別の存在が邪魔しているとも考えている。
「しかし、ガーディアンはドローンを飛ばしたり、監視カメラで警戒しているという話だ」
「そこまで監視社会になっている訳がない。ドローンに関しても、飛ばせるエリアは限定されているはず」
「確かに、ドローンを飛ばせる範囲は草加市でARゲーム特区になっているエリアに限定されていたか」
「まとめサイトが低レベルになったか、それとも別の勢力が外堀から潰しにかかっているか――そのどちらかだろうな」
パリピ達はそれぞれの目的の場所へと姿を消す。彼らはまとめサイトで情報を収集し、そこからSNS炎上をさせようとしている。
レッドダイバーの特撮版で言う所の今週の怪人枠に当たるのだが――そこまで仕込みを行い、レッドダイバーを活躍させているのかと言われると、疑問が残るだろう。
時雨の騒動からしばらくした辺り、時間にして午前十一時頃だろうか? 大きな動きは唐突に発生する。
レッドダイバーが、まさかのニアミスで他のプレイヤーにスコアで敗北したのだ。
これには見ていた観客も驚くしかない。当然だが、この様子はライブ中継もされており、他の配信を見ていた視聴者も驚いた事は説明するまでもないかもしれないが。
彼のARアーマーは若干の損傷個所があるものの、プレイヤーには影響はないと言ってもいいだろう。これが、ARゲームの安全性を強調しているシステムの一つだ。
場所は騒動のあったエリアではなく、草加駅から徒歩五分位の離れた場所である。そこは、一時的な歩行者天国でフィールドを解放しているエリアで、屋台は出ていないものの、様々なARゲームが解放されていた。
『分かっただろう? レッドダイバー』
レッドダイバーの目の前にいる人物、黒いライダースーツと思われる物だが、こちらはARスーツである可能性が高い。
それに、この人物の被っているARメットはバイザー部分も透過されておらず、素顔が見えない特注仕様である。
スーツには目立ったアーマーが装着はされていないものの、耐久度が低い訳ではない。音声は男性の声だが、バレバレにボイスチェンジャーを使用していた。
『ギャラホルン――ここまでの実力だったのか』
レッドダイバーの敗北した相手には覚えがある。その人物の名はギャラホルン、まとめサイト上で名前が伏せられているが――。
『SNS上の情報をろくに調べず、目立とうとした結果だ。なりすましも区別できなかったとは』
ARゲームでは同じハンドルネームであれば、第三者が同じネームを名乗れないというガイドラインがある。
それに従えば、あのギャラホルンも本物と思って間違いはなかったと思う。しかし、リズムゲームプラスパルクールではそのガイドラインはなかった。
ARゲーム全てで共通ガイドラインが運用されているとばかり思っていた、こちらのミスとも言えるかもしれない。
(迂闊だった。確かにあのギャラホルンの言う事に間違いはない。もう少しガイドラインを調べておくべきだった)
レッドダイバーも、目先の情報ばかりに踊らされていたという事実は否定できない。
だからこその、手痛い敗戦と言える。今の状態では、残念ながらギャラホルンの言う事に反論する事さえ不可能だろう。言ったとしても、他のまとめサイト等で炎上の材料を与えるような物だ。
それから数分後、レッドダイバーはARスーツを解除し、元の姿へと戻る。赤いフード付きのパーカー姿に素顔を隠し、私服も若干地味な印象がある人物、そのスタイルには覚えがありそうだが、周囲は気付かない。
手足に傷が付いている訳はなく、ゲーム中で受けた衝撃も全てスーツが無力化しているのだろう。
まるで、警察や軍隊などで配備されていてもおかしくないような――それこそ、特撮ヒーローを連想させる。
(どう考えても、この展開は――)
彼は今回のギャラホルンとのバトルで、あるエピソードを思いだす。それも、レッドダイバーではなく別のアニメだ。
そのアニメでは、正義のヒーローだったのが実は道化だったという事実を、ある人物が告発――そこから流れが変化していくという物である。
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