7-3

 クー・フー・リンがフィールドに到着していた頃には、既にレッドダイバーの姿がなかった。この場合は入れ違いと言うべきか。


 しかし、クー・フー・リンは別の場所でリズムゲームプラスパルクールをプレイしようとしていたので、レッドダイバーがいてもいなくても目的に変わりはない。むしろ、いたとしたらギャラリーがうるさくなるので、集中しづらい欠点はあるだろう。


(チュートリアルはプレイしなくても、いいのか)


 彼女自体は動画サイトで様々な動画をチェックしており、おおよその操作方法は把握している。


 しかし、リズムゲームプラスパルクールは単純にリズムゲームと同じ箇所もありつつ、別ゲームと言っていいほどに動作が異なるだろう。


「それにしても、一体何があったのか――」


 彼女が周囲を見ると、ざわついているエリアもある。何かがあったのは決定的だろうか。しかし、そちらに気を取られてゲームに集中できないのは本末転倒だ。


 ARゲームの一部ではイースポーツ化されている物、イースポーツ化を検討している物だってある。


 便乗商法みたいに人気が出たので――という目的ではないのは事実であり、取り組みの本気度は公式ホームページを見れば分かるだろうか。


「聞いたか? レッドダイバーが負けたという事実」


「負けたとは違うだろう。格闘ゲームの様な対戦ゲームではないからな」


「しかし、リズムゲームではあるがレース要素はあるはず」


「あれはレースとは言わない。1位でゴールしてもスコアやコンボ数で逆転される。早いもの勝ちではないのだ」


「見た目はレースゲームの様な要素があるのに?」


「その通りだ。あくまでも、リズムゲームプラスパルクールで求められるのが楽曲の演奏スキルだ」


「演奏? 楽器を扱うようなゲームには見えないのに、演奏なのか?」


「その通りだ。重要なのは、光るパネルをタッチするタイミングだろう――」


 一部ギャラリーの声がクー・フー・リンの耳に入る。レッドダイバーが敗北したという情報も、彼女はここで知る事になった。それに加え、周囲の一部はリズムゲームがどのようなものなのか把握していないような気配さえしている。



 ARゲームとしてリリースされたリズムゲームプラスパルクール、システム自体は別のARゲームをベースにした気配はするだろう。


 しかし、このゲームはあくまでもリズムゲームなのである。コースを走る事は共通するかもしれないが、メインは楽曲の演奏に重点が置かれるだろう。


 クー・フー・リンが道路上に表示されているスタートラインに立つと、彼女の外見が変化した。


 ARスーツを自前で用意しなくても、ARアーマーに関してはARガジェット経由で装着されるのだが――この場合はフリーカスタマイズ要素がない。


 レンタルスーツの様な扱いであり、プレイ前にARスーツ等を購入する必要はないのだ。あくまでも用意するのはARプレートとARガジェットである。


 彼女の場合は特にカスタマイズを行っておらず、ピンクカラーをベースにしたヒーロースーツと言うべきか?


 目立つという意味でカスタマイズをした訳ではなく、あくまでも演奏の為に必要な最低限のカスタマイズをしたというべきだろう。


 実際、装着されているアーマーも脚部アーマーと肩部分と腰部分のプロテクター程度のガード、バックパック、ARメットと言う装備だ。


 重装備では動きづらいという事を別ジャンルで把握していた為に、このカスタマイズになったのかもしれない。標準で用意されたものだけで、ここまでのカスタマイズをするのも彼女ならではか。


(スーツの方は、特に不具合もない。これならば――)


 リズムゲームの場合、筺体メンテによっては予想外のアクシデントが起こる事も少なくはない。


 それこそプレイヤーによる筺体の扱いが色々と指摘されているのだが――ARゲームでは、そのような報告は特になかった。


 ARゲームでメンテが行われるのは、ARアーマーのサーバー絡みやゲートと呼ばれるシステムだろうか。


 ゲートを使って大型ガジェットの移動が行われているので、ゲートのメンテはゲーム休止時間帯に行われている。


「さて、始めますか」


 彼女のモチベは最高潮と言ってもいいだろう。全ては、ここから始まると言ってもいい。周囲のギャラリーの中にはクー・フー・リンをネットで知っている人物がいたとしても、指を指すような人物はいないだろう。


 ARメット装着時は、さすがにマスクを着用している訳でなく、専用用の袋にしまった上でARアーマーを装着していた。

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