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プレイ映像をチェックし、その後のリザルト画面をチェックすることなく、クー・フー・リンは別の場所へと足を進める。
この時には被っていなかったフードを被って、先ほどまでかけていたサングラスは胸ポケットに仕舞う。
「どうしてこうなってしまったのか――ARゲームのレベル低下よりも、疑うのは便乗商法や炎上商法を悪用する連中か」
クー・フー・リンはおでこを軽くひっかくようなしぐさをするが、爪が短いので肌を傷つけるような気配はないだろう。
そして、彼女のつぶやきも聞いていて胸を痛めるような該当する人物は周囲にいない。それ程に、周囲がSNS炎上等に慣れてしまっているのだろうか?
こう言う事案には慣れてはいけないのだが、周囲の反応をみると『また炎上か』という呆れている空気の方が強い。
それではクー・フー・リンの考えている事も、受け入れられるかどうかは未知数だ。
(どちらにしても、この状況を打破する為にも――レッドダイバーの目的を知るのが優先課題か)
彼女は思うが、そう簡単に接触できる機会があるのか? それよりもレッドダイバーをこちらのフィールドに誘い込む方が手っ取り早いのでは?
同じゲームをプレイしていればマッチングする可能性は否定できないが、時間が取れるかどうかは別の話である。逆の場合も然り。
(見た目はアクションゲームなのに、蓋を開けて見ればリズムゲームとは)
彼女にとって、リズムゲームと言えばいい思い出と言う物があるかと言われると、ゼロではないが、多くはないだろう。有名アイドルグループ楽曲のゴリ押し宣伝等で利用されていた過去もあり、そこからちょっとしたトラウマがあるのかもしれない。
ジャック・ザ・リッパーの大幅失速は、身構えていたと思われるレッドダイバーがわずかなチャンスをものにした、と言うのがまとめサイトの見解だった。
一方で、ジャックにチート疑惑がかかっていたのは言うまでもなく、後に不正データ検出でアカウントが凍結されたという話だ。
【この展開って、あれと同じでは】
【あれって何だ?】
【特撮番組のレッドダイバーだ。確か、チートプレイヤーがゲームで荒らしまわるエピソードがあったような】
【それは自分も引っかかっていたが、偶然過ぎるのでは?】
【偶然で片づけられる案件か? レッドダイバーに関しては既に都市伝説が拡散していたはず】
【だが、あそこまで本編に似せた様な事件を起こして、なんになる? あれではSNS炎上勢力とやっている事が変わらない】
【新作の撮影とか?】
【それこそあり得ない。レッドダイバーのリメイクアニメ版も放送された中で、特撮版に続編があるとは――】
SNS上では一種の祭り状態で、つぶやきサイト等でもレッドダイバーがつぶやかれる割合が強くなっていく。案の定、炎上勢力のネタにされている可能性は否定できないだろう。
(こうなる事は分かっている。しかし、誰かがやらなければ――悲劇は繰り返される)
レッドダイバーのスーツを解除し、帰る所だった私服姿の
承認欲求とか悪目立ち、フラッシュモブ的な反応やストレス発散と言う意味合いでチェックしているのではない。彼の場合には別の理由があった。
(現実は、レッドダイバーを自分達が炎上させて楽しもうという――他人の事を考えていない連中ばかり)
全てはここから始まるであろう、とヒビキは考えている。しかし、現実は非情としか言えない。
足を止めてスマホの画面を注視していると、ある人物がヒビキの横を通り過ぎた。距離はとっているので、ぶつかる事はないだろうが――。
ヒビキの横を通り過ぎた人物、それは漫画喫茶から出てきたばかりの
私服姿の割には、やはり誰もシオンだと声をかける人物がいない。それは既に慣れているので、問題ではないだろう。
(真田シオン――?)
スマホのモニターを注視していたが、途中から何かの視線を感じてシオンの方を見るのだが、向こうは気付く気配がない。
おそらく、シオンはヒビキの事を知らないのだろう。実際、ヒビキの横を通り過ぎても何も反応しなかったからである。
一連の動画は、数日後に様々な反応を示す事になり、これが全ての始まりと言っても過言ではなかった。
まとめサイトの中には今回の動画を『レッドダイバーのデビュー』と取り上げる所もある一方、レッドダイバーを一種の貧乏神と煽る場所もある。
「これほど想定以上に動く人物がいるとは思わなかった」
メーカーのサーバールームでノートパソコンを起動させ、そこからまとめサイトを見ている男性、右目に眼帯型ガジェットを装着し、背広姿のヤルダバオトだった。
彼はゲームメーカーのスタッフの一方で、あるゲームを生み出した神とも言える存在である。
「まとめサイトの方は、ガーディアンに摘発される可能性もあるが――泳がせておこう」
悪質なサイトをガーディアンが摘発する可能性もあるのだが、それは一種の間引きと言う事で放置する事にした。
「全ては、こちらの思うままに。一部の企業や事務所ばかりに利益を上げさせてはいけないのだ」
ヤルダバオトの目的、それはリズムゲームプラスパルクールを利用しての企業つぶしとも言えるもの――。
それこそ、メーカーからは私的流用と言われても文句は言えないだろうが、メーカー側も一部企業の独占には反対の為、彼の提案をのんだという形になっている。
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