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 ギャラリーが見物していたARゲーム、それこそが『リズムゲームプラスパルクール』だった。

しかし、そのインパクトはSNS上で言われているレベルとは思えない。コメントすら思い浮かばない暮無(くれない)ヒビキには、プレイ光景を見てそう思ったのだろう。

「有名プレイヤーがプレイしていたからではない。あの混雑具合は、タイアップゲーマーがプレイしていたからだ」

「タイアップゲーマー? メーカータイアップのプロゲーマーとは違うのか?」

 ヒビキの隣にいた青年、彼は目の前の光景を理解できていないヒビキを見て何かを察したのだろう。

声をかけてきたのは、それが理由かもしれない。ヒビキには彼が話しかけてきた理由は分からないのだが――。

「プロゲーマーとは違う。タイアップゲーマーとは文字通りのゲーマーだ。実力は問われないという事で、芸能事務所の芸能人がゲーマーになるケースもある」

(それって、まさか――レッドダイバーの第二話か?)

「最近では有名動画投稿者や実況者を起用して、広告料を節約しているケースもあるがな。ゲームの知識がないようなアイドルを起用して炎上リスクを負うよりはマシと思っているだろう」

(やっぱり、この流れは同じ)

 彼の話を聞いていく内に、ヒビキはレッドダイバーの第二話を思い出した。有名アイドルをタイアップで起用し、SNSが炎上するという話である。

こうしたタイアップによる視聴者とメーカーの思い違いは今に始まった事ではない。平成に入る前にも、そうした事案は存在していた。

それを思い出したのかどうかは分からないが、ヒビキの表情は――周囲の熱狂している様な状況にはなじめない物になっていたという。

(何時の間に――?)

 他のプレイヤーと入れ替わるような形で、先ほどの隣にいた人物は姿を消していた。

一体、彼は何を伝えたかったのだろうか? それとも、ヒビキとの接触が目的だったのか?

しかし、彼が姿を消してから数分経過した辺りで、ヒビキはこのゲームで起きようとしている何かと言うのを察したのである。

(あのプレイヤーは明らかに――)

 フィールドに姿を見せたアバターの外見を見て、ヒビキはあからさまな地雷だという事を感じた。

悪役アバターと言う見た目だけで判断し、荒らしプレイヤー等と認識するのはSNS炎上と言う天からしてもやってはいけない事例である。

そのような事をすれば明らかに敵の罠にかかる事もレッドダイバーから知った。

これがきっかけでピンチになった第二話を初め、同じような描写は何度か目撃している事もあって――。



 ゲームの方は四人が同時に一斉にスタートし、最終的にはゴール地点へ到着すればポイントが入るシステムだ。

あくまでもリズムゲームなので単純なパルクールとは全く違う要素はあるかもしれない。

ランナーを妨害するのはペナルティを受けるだけでなく、最悪のケースでは失格になる。これは他のARゲームでも一緒だ。

しかし、決定的に違うのは走る事以外にあった。それは――。

(コースは楽曲によって、複数のコースのどれかを走る仕様なのか――?)

 ヒビキはスマホを再び取り出し、リズムゲームクロスパルクールの公式サイトをチェックしていた。

目的はルールの確認だろうが、それ以外にも別の理由がある。それは――。

(これをコースと言えるのか? 駅伝やマラソンとは違うのは分かる。しかし、これでは――)

 マラソンや駅伝では危険なコースを走ることはないのだが、明らかにリズムゲームプラスパルクールは違う。

確かにパルクールで一般人がイメージするであろうビルからビルへ飛び移るようなコース、忍者を思わせるようなアクションは期待できそうにない。

そう言った『安全性』があるコースを設定しているのは確かだが、おかしいのはルートではなかった。

「これでは、あのタイアップゲーマーも途中で失敗する訳だね」

 ヒビキの隣に姿を見せたのは、自分と似たようなパーカーのフードを深く被って顔を隠した人物である。

体格からして女性なのかもしれないが、それを即答で判断するのは難しい。

「君は?」

「有名人が普通に聞かれて名乗ると思う?」

「そうか。なら、特には聞かない」

「お互い、それがいいと思うよ。特に悪質なプレイヤー等に絡まれると、後々トラブルになるから」

 互いに感情的な言動になることなく、名前を改めて聞こうとも思わなかったようだ。

プレイしているゲームジャンルも違うのが理由の一つかもしれないが、二人の視線は一人のゲーマーに向けられている。

「それに、このゲームは荒れる。間違いなく、悪い意味でも」

「それは、まさか? チートプレイ――」

「ARゲームでチートを持ち出せば、安全装置が働かない等の弊害が出てくる。連中は、それを自覚していない」

「安全装置が――まさか?」

 彼女と思われる人物は、一人のプレイヤーがチートプレイで一位を取ろうとしている事に対して――顔には出さないが怒っているように思える。

しかし、それはヒビキも一緒だ。不正プレイはゲーム本来の楽しみを奪う。悪しき感情でチートに手を染め、プロゲーマー引退となったゲーマーもいたからだ。

そうした事例を、ヒビキは全てレッドダイバーで知っていた。フィクションとは言われているが、後に本編で触れられた一部事例は実際に事件として発生していた事も、拍車をかけている。

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