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 レッドダイバー、その出現がニュースサイト等に掲載されていたのは西暦二〇二〇年の二月頃だったという。


 その頃にはリズムゲームクロスパルクールがロケテストを終了して、正式稼働をしていたのである。


 埼玉県草加市のゲームフィールドでも様々なイベントが行われていたのだが、レッドダイバーの目撃例はない。つまり、今のように目撃されたのは正式稼働してから少し後だったのである。


【あのレッドダイバーはアバターなのか?】


【詳細は発表されていない以上、不明としか言いようがない】


【しかし、アバターエディット機能はあったはず。それっぽい外見にするのは誰にでもできるのでは?】


【それでも、原作とほとんど同じようなデザインが再現できるのか?】


 掲示板上では、レッドダイバーの再現アバターが出現した事に関しては気のせいと言う意見が多い。


 その一方で、一種のコラボ枠と言う事で完全再現できるパーツがあるのでは、という意見もあった。



 レッドダイバーのストーリー自体はフィクションであるような異世界からやってきた宇宙人が戦う様なテイストではない。


 特撮物でありながらも現代ベースで様々な問題を取り上げつつ、視聴者の心を掴んでいたのである。


「レッドダイバーか――」


 草加駅のコンビニ近くで、スマホを片手にSNSを見ている人物――赤いフード付きの上着に、いかにもと言うバックパック、スニーカーの男性だった。


 フードを深く被って素顔は見せていないのだが、いかにも承認要求アピールをしているような人物ではない。そうした人物であれば、既に第三者がSNSで晒して炎上させているだろう。


(地球は狙われている――SNS炎上でひと儲けをしようとする宇宙まとめサイトによって)


 彼が思い出していたのは、レッドダイバーの第一話における地球のピンチを告げる台詞だった。


 表情こそはレッドダイバーのデザイン的な関係で分かりづらいが、彼を担当する声優の演技によって恐怖と言う物を知る。


 SNS炎上でひと儲けしようと言うのは、どの世界でも一緒なのか――そう思った視聴者もいた。それ位に、彼の最初に放ったメッセージはインパクトがあったのだろう。


 宇宙まとめサイトと言う単語自体、フィクションと言うのは誰にも分かるレベルで低レベルな設定なのは間違いない。


 それでも、低レベルの設定だと非難されなかったのにはこの数年後に起こる事が、レッドダイバー本編と変わらないようなレベルで起きた事に由来していた。


(私は地球でも似たような事件が起きていると聞き、ここでならば――協力者が見つかると思った)


 当時の視聴者も困惑しただろう。いくらフィクションとはいえ、未来を見過ぎている設定だと。


 確かにネットの掲示板がきっかけで発生した事件は、この当時もゼロと言う訳ではなく、そこまで社会問題になったとはいえなかった。


 しかし、レッドダイバーは明らかに訴えていたのである。これは明らかに他人事ではないのだ、と。


「ARゲームか」


 コンビニにいた青年は、そのまま近くのゲーセンに目を向けたのだが――別の人影が集まる場所を見つける。


 彼の名は暮無くれないヒビキ、本名なのかは疑わしい。もしくはゲーマーとしてのハンドルネームである可能性だってあるだろう。


 歩きスマホでSNS炎上するのもアレだと思ったのか、ヒビキはスマホをバックパックのポケットにしまった。


 ヒビキは周囲を見て、歩きスマホをするような通行人を見て――悲劇は繰り返されるのだろう、と考えている。


 まるで、その様子は――レッドダイバーの第一話で登場した宇宙まとめサイト勢力が炎上させている話題だった。



 彼が徒歩で移動しつつ、数分が経過した辺りで現地に到着する。その頃には、既に混雑も少なくなっていた。


 数十人以上はいただろう混雑も、今は二〇人弱の規模になっているだろうか。


「あれが、ARゲーム?」


 様々なゲームジャンルのあるARゲームだが、混雑が先ほどよりも劇的に減っていたのには理由がある。


 そのジャンルとは、見た目はアクションゲームに見えなくもない一方で、フィールドを走るプレイヤーは普通に走っていない。


 障害物がある訳でもないのに、普通に走っていないという声があるのはどういう事か?


「パククールと思っていたのに」


「タイトル詐欺か?」


「タイトル詐欺ではないだろう。パルクールにビルからビルを飛んで渡るような映画みたいな要素を持ち出していない限りは」


「それでも、これは違和感がある――パルクールにリズムゲームを足すなんて」


 ギャラリーの声もするが、それ以上にボリュームが大きいのは周囲に流れているBGMだろう。


 さすがに街中で爆音の音楽が流れるのは近所迷惑もいい所だ。そこは配慮する形で、周囲のフィールドが防音壁の役割をしている。


 ARゲームではCGで出来ているようなフィールドが展開されるのだが、それに防音機能や安全性をアピールしてARゲームは安全だと宣伝しているのかもしれない。

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