高校三年の高木真智子は音大を受験予定。
音楽室でリストの『愛の夢』を奏でる真部慎一もまた音大を目指しています。
音楽室で出逢ったふたりがピアノを真ん中に心の距離を近付けていくさまは、瑞々しく若いピアニズムに溢れています。
劇中に流れる名曲を実際に聴きながら読みますと、いっそう情感豊かな物語と成って心に響くことでしょう。
十代という限られた時間の柔らかな魂、包まれるべき柔らかな感性が直面する家族や進路や友情の問題は時に複雑ですが、若者同士が巡り逢い、互いの感性を通じ合わせて問題を乗り越えていくさまは、強く清々しく絆そのもの。
作者様の地の文は純文学テイストで品が良く、台詞が登場人物の心の遣り取りをスマートに聴かせてくれます。
実在の地名が用いられていますのでリアリティーがあります。
文芸を好まれる御方、クラシック好きの御方にも、是非、読んでいただきたい物語です。