第2話 家〜大学
自転車をめいいっぱい漕ぐと、気持ちいい朝の風が体に染み渡る。今日はいい天気だ、と思った途端、前方にカラスの群れが電線に沸いているのを見かけた。しかもその下にはカラスの糞の跡らしきものがたくさんある。どうやらそこがカラスのトイレらしい。その道を渡るには至難の技だが、一気に漕いで抜けるしかない。すぐさま、ギア2からギア6に変え、スピードを上げる。そして、目前の忌々しい道を一気に抜ける。
抜けた後は、しんと静寂が訪れた。そう、特に何もないという、非常につまらない結果に終わってしまったのだ。どういうことだろう。ここまで伸ばして置いて特に何もないとは、紳士として恥ずべき行為だ。自分はその時ふと思い出した。今までの人生を。
才能もない、頭が良いわけでもない、普通の家庭に生まれた凡人。ぬくぬくと成長していった先にあったものは、「自分」がないということだ。今まで言われた通りのことをやれば、誰にも何も言われないしましてや、気にされることもなくなる。いつしか、本当の自分が分からなくなった。
しかし、天の気まぐれなのかそれともただの偶然か、今日は遅刻が確定している。今まで、遅刻など一度もしたことがなかったはずなのに。今日は、何かが違う。いや何かが変わる。自転車を漕ぎながら考える。今までの人生を。何もなかった人生。つまらなかった人生。才能がない人生。もう一度考える。漕いでいる最中、1匹のカラスが横切った。まるである一人の人生を笑うかのように、カァーと鳴いた。
実感がない、感情は薄い、しかしそこには存在している。今、自転車を漕いでいるのは誰だ。普通に遅刻してまた、平凡なつまらない人生を歩むのは誰だ。違う。そうなりたくない。心が叫ぶ。このまま終わりたくない!
そう、せめて一回、一回だけだ。たった一回の行いで、自分の人生が変わる。そう思い立った瞬間、どす黒い衣を纏った集団のもとへ走り去った。
大学への生き方 @adolf
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