第29話 クラン連合の台頭
時は、《群竜騎士団》関連の事後処理がようやく片付き、アレンが
場所は、第4階層に出現していた
「ん~……」
アレンは、本来見えないものを見せる浄眼の力で、〔
ミニ丈のワンピースと
そして、左手首に腕環状態の〔超魔導重甲冑【力素】〕。
何故ラシャンがそれを所有しているのか?
それは、現在攻略中の隠し部屋の前に、今日だけで既に二つの隠し部屋を攻略しているからだ。
アレン達がダンジョンに潜ったのは久々の事。だが、当然といえば当然の事なのだが、他の冒険者達は違う。もちろん、休養を取っていた者達や、何らかの事情でダンジョンから離れていた者達もいただろうが、その間も、他の大勢の冒険者達は日々ダンジョンに潜り、攻略を続けていた。
だからだろう。アレンが時空魔法の【空間探査】を使うと、攻略されるたびに場所を変える
そこで、既に4度行っている事なので細かい部分は割愛するが、第1階層と第2階層の隠し部屋にはアレンが一人で
ラシャンは、早速〔超魔導重甲冑【力素】〕の適格者となり、
――それはさておき。
以前はそれ以外にも、頭部、胴体、両手足に技能の効果を増幅する
もっとも、装備を失った事で総合力が多少低下しようとも、自身が積み上げてきた能力だけで十分戦う事ができ、今も、高速で飛来した大理石の胸像を、その内部の魔石ごと一撃で粉砕した。
「ねぇ、アレン君。これ、
振り返ってそう問いつつ、言外に、もううんざりだ、と
召喚された
そして、スカルプチャー・ルーラーが存在し続ける限り、そんなリビング・スタチューが絶え間なく召喚され、侵入者が排除されるまで
ボス部屋や隠し部屋では、
それから間もなく、その5体によって同時に召還されたリビング・スタチューの数は、――38体。
見た目は、ただの石の柱であり、石の像。だが、かつて五本の指に数えられるほどの攻略系クランに属し、ダンジョン攻略の最前線に身を置き、遭遇した事があったからこそ、その恐ろしさを知っているラシャンは、
轟音の正体は、銃声。重厚な長銃身が印象的な
出現した魔法陣の数を見て、あぁ、五人で入ったから5体出てくるのか、などと呑気に思っていたのも
音速の約7倍の初速で発射された魔法金属製の超重質量弾が【障壁】を貫通して間に割って入った石像の全てを粉砕し、それらを召喚した石柱をも破壊――それを3度繰り返し、現在、意図的に残されたスカルプチャー・ルーラー2体が、一定の間隔でリビング・スタチューを召喚し続け、それをリエル、レト、クリスタ、ラシャンが撃破し続けている。
要するに、ラシャンは、同じモンスターを延々と倒し続ける事に飽きてしまったようだ。
「夕食の時間に遅れないように帰らないといけないから、その直前まで」
「……それ、本気?」
アレンが、うん、と
リビング・スタチュー系のモンスターは、
それ
それはつまり、倒して紋章に吸収・蓄積される霊力の量が多いという事。その上、仲間に
賢者の塔で取得したい【
そして、攻撃手段が限られていて行動パターンが単純な敵は、剣術初心者であるリエルの練習台にはもってこい。
既にスキルの助けなしに【斬撃】と
ちなみに、リエルが【
クラン《物見遊山》の到達階層は、第6階層。まだまだ浅い上層階で得られる報酬は少ないため、借りたお金は必ず返す、と言い張っているラシャンにとってもこの耐久
「嫌なら先に帰っても良いよ。【
それを聞いたラシャンは、嫌そうに顔をしかめ、
「
ちょっとむすっとしつつそう言いながら、また両の
クリスタの〔超魔導重甲冑【冷熱】〕の第1形態は、手足の指先から
それらは、『パロ』と名付けられた
現に、クリスタは、戦闘開始直後から、合体した大盾の上に乗って隠し部屋の高い天井付近まで上昇し、今も、その一部が変形した銃架に〔力晶銃〕を固定し、
〔力晶銃〕から発射される霊力弾では、リビング・スタチューの【障壁】を突破できず、肩に
何故なら、クリスタが数体を大きく後退させてこちらへ到達する時間に差を作る事で、その間に前進してきた他のリビング・スタチューを、リエル、レト、ラシャンが無理なく
直接撃破しなくとも戦闘経験は
余談だが、ここにいるのは、リルを除くと、アレン、リエル、レト、クリスタ、ラシャンの五人。だが、六人でパーティ登録しているため、工房で仕事をしているカイトにも獲得した霊力が分配される。
そうして順調に耐久
「――あッ!?」
突然、クリスタが声を上げた。
いったい何事かと思えば、
「弾がなくなっちゃったッ!」
〔力晶銃〕で使用する大口径力晶弾は、アレンが霊力を込めたもの。修行の一環で一日に一つ、その日の終わりに残りの霊力全てを絞り出すようにして込めた過剰充填弾。それ故に、〔砲撃拳〕でぶっ放すと威力が尋常ではないため使う機会がなく、貯まる一方で、使用すれば再利用できるのに次々と力晶弾を買い足す破目に
そんな訳で、アレンにとっては好ましい事なのだが……
「ねぇ、どうしようっ!?」
「攻性魔術は?」
「使えないッ!」
元は、『
「これからも戦闘に参加するつもりなら、【
「うぅ~、……考えてみる」
貯めた霊力は全て【錬丹術師】としての技能や知識の取得に
「【
モンスターのほうを向いたままそう意見したのは、ラシャン。しかも、ただ言うだけではなく、実際に使って見せる。
ラシャンの左手の甲にある紋章が光を放った直後、胸の高さに現れた魔法陣が消えると同時に三つのテニスボール程の光の弾が出現し、3発同時に発射。まさに矢のような速度でリビング・スタチューに向かって直進し…………【障壁】に弾かれて消えた。〔力晶銃〕の霊力弾とは違って、リビング・スタチューを大きく吹っ飛ばす事もない。
「こんなの覚えるより、〔
攻撃を受けた事で
話を聞いて、【魔法の矢】の威力を見て、確かに、と頷くクリスタ――だったが、
「おいおい、【
そう
その左手の甲にある紋章が光を放つ事のないまま、アレンの前に出現した魔法陣が消えると同時に現れたのは、両端が尖った柳の葉型の光の矢――その数119本。
次の瞬間、縦に7本、横に17本、整然と並んだ光の矢が、見えない糸で数珠つなぎになっているかのように7本が1列になって、その先頭がそれぞれ、スカルプチャー・ルーラー2体と新たに召喚されたものが追加されたリビング・スタチュー15体、計17体のモンスターに向かって亜音速で飛び――先頭の1本が石柱と石像の【障壁】に直撃。
しかし、ラシャンが使ったスキルの【魔法の矢】とは異なり、接触した瞬間に炸裂。そこへ間髪入れず突っ込んだ2本目も炸裂、3本目も炸裂。そして、4本目の炸裂によって【障壁】が砕け散って消え、残りの3本が本体に連続して直撃・炸裂。
結果、17体のモンスターがほぼ同時に爆散した。
「初歩の初歩、基本中の基本魔術と
モンスターの全滅と台座に乗った
「有数の
ラシャンの適性属性は【力素】。世間でいうところの無属性。故に、そもそも取得できる魔術が他の属性を適性とする者と比べて極端に少ない。
その少ない中の一つが、魔法の素質があれば適性属性にかかわらず誰でも取得する事ができる初級魔術【魔法の矢】。
だが、今回の事で考えを改めたそうで、ラシャンの今後の修行内容に、スキルの補助を受けずに行使できるよう【魔法の矢】を会得する、が加わった。
そして、クリスタも取得すると決め、使いこなしてみせると張り切っている。
「なら、予定より早いけど、今日はもう切り上げて、賢者の塔に寄って行こう」
モンスターを
そんなアレンの提案に、仲間達から反対の声は上がらなかった。
みんなでジャンケンして勝った者が
ダンジョンに潜るのが久々なら、ギルドに足を運ぶのもまた久々で――
「……あっ。そう言えば、サテラの後任のアドバイザーにまだ
正式にクランへ加入したのをきっかけに、『さん』付けをやめて名前で呼び合うようになった
名前は、『マール』。
今まで任されていた仕事は一般事務で、冒険者の担当になるのは初めての事であり、サテラが自分の後任にと推薦した訳ではないらしい。という事は、おそらく、ラビュリントスが混乱している原因である厄介者を
だが、アレンとしては好ましい人選だった。
真面目だというところや、努力家だというところももちろんだが、いろいろ教えてもらっていたサテラが
そんな訳で、リエル、レト、クリスタ、ラシャンは予定通り賢者の塔へ向かい、アレンは、特に急ぎで取得したい技能がないので、リルと共にギルド本館へ。
アレンが足を踏み入れると、その姿に気付いた人々が口を
そうして対面を果たした新しいアドバイザーさんは、
「は、初めましてっ! 私は『マール』と申します。アレン様のアドバイザーを
話に聞いていたよりも幼く見える小柄かつ童顔の女性で、素直な性格らしく、平静を
そんなマールは、気付かない振りをする事にしたアレンとお互いに簡単な自己紹介を
そして、テーブルを間に
「引き
やってもらいたい事があるというので話を聞くと、それは、ダンジョンなどで命を落とした冒険者のエメラルドタブレットに蓄積されていた霊力を、回収してきた冒険者が引き継ぐ儀式。
既に一度経験しているが、それ以降、アレンは、亡くなった冒険者のエメラルドタブレットを持ち帰ってはいない。それなのに何故か? 当然説明があるだろうと思い、
「《群竜騎士団》の……」
まだ記憶に新しい、《群竜騎士団》幹部・側近殺人事件。
今回の儀式で引き継ぐのは、ギルドで封印・保管されていた、その事件の被害者達のエメラルドタブレットに蓄積されていた霊力――だけではなく、その他、生存している元《群竜騎士団》団員の分も全て。
それは、どの道
「ん~……」
「ど、どうかしたんですか?」
アレンが何やら思案しているのを見て不安を覚えたらしいマールが
「それって、ギルドの決定?」
「え? そう聞いてますけど……?」
「他の人にも確認してみた?」
え? と戸惑いを
上司にそう指示されて何の疑念も
「あ、あのっ! なにがそんなに気になっているんですかッ!?」
「ん? ん~……」
言うべきか、言わざるべきか、それが問題だと思案するアレン。
エメラルドタブレットは唯一無二と言われているが、仮に、生存している冒険者のエメラルドタブレットから引き継ぎの儀式を行なって霊力を抜き、元の液体へと還元して杯に戻した後、もう一度エメラルドタブレットの錬成を行なう事が可能なら、その冒険者は新たなエメラルドタブレットを手に入れる事になる。
それがもし可能なら、そして、その冒険者が元《群竜騎士団》団員なら、おそらく、新たに手に入れたエメラルドタブレットは
誓約の効果でクラン《物見遊山》メンバーとその関係者に対する報復を目的とした言動は禁止されており、元団員の中には所属していただけで犯罪に加担していなかった者達もいる。
だが、元団員から
ただ、以前から疑われてはいたのだが、
この話をしたら、マールは他の上司に確認しようとするだろう。
後者は当然として、例え前者、善意による行いでも、その指示が個人の独断ならギルドの規則を破っている事に違いない。その職員はギルドを追放される事になり、元団員は再起の機会を失う事になる。
だが、もしこちらの邪推で、その上司が正しく職務を実行して部下にギルドの決定を伝えていた場合、疑ったマールも、疑われたその上司も、職場での人間関係が面倒な事になりそうな気がする。
(はてさて、どうしたものか……)
既に
アレンは思案して……
「みゅうっ」
「……なるほど。それもそうか」
リルの意見を採用し、話してマールに
何故なら、それこそがアドバイザーの仕事だ――と、思ったのだが……
「――か、確認してきますッ!!」
「あっ、ちょっ…と…………」
話している間にみるみる顔を青くして、
肝心なのは、この後の相談の部分なのだが……
「……まぁ、なるようになるか」
あとに残されたアレンは、とりあえず開けっ放しのドアを閉め、
引き継ぎの儀式を行なうのは、賢者の塔の地下2階。冒険者になろうとする者がエメラルドタブレットを錬成する際にも使用するのと同じ部屋。
アレンが引継ぎを終えて1階に戻ると、目的の技能を取得したり知識を得たリエル、レト、クリスタ、ラシャンが待っていたので、自分の技能取得は又にして、そのまま皆と
予定では、
そんな訳で、アレンとリルだけで、予定通り拠点敷地内にあるカイトの自宅兼工房へと足を運び、出迎えてくれたカイトの娘のエリーゼにただいまを言ってから工房へ。
「頼んでおいてなんだが……、よくもまぁあ……」
カイトは、兜の飾りまで入れれば2メートルの半ばを超える、鋼色を基調として鏡面のようなシルバーメタリックが縁取る刀剣のような印象の重厚な〔超魔導重甲冑【金属】〕を
「しかも、日帰りの探索で、
次に、作業台の上、鑑定を頼まれた金銀財宝などいわゆる換金アイテムを除いた武器、防具、装身具に目を向けながら、感心を通り越して
その後、一緒に遊びたいと言うエリーゼにリルを預け、鑑定を始めたカイトにアイテムを任せ、結果はあとで聞く事にして工房を後にしたアレンは、その足で射撃場へ。そこで、夕食までラシャンの修行に付き合った。
それから程なくして、アレンが心の安らぎを得る
アレン、リエル、レト、クリスタ、ラシャン、カイト、エリーゼ、サテラ、食事を必要としないためリビングのお気に入りの場所で丸くなっているリルを除くクランメンバー全員が
そして、今日、最初に報告を始めたのは、事務や来客の対応を任されているサテラで、本日もまた様々な理由で《物見遊山》の
「クラン連合?」
知らないのはアレンだけではないらしく、報告している当人を除く全員が、顔を見合わせたり首を
「その名の通り、中小のクランによって結成された団体らしいのですが……」
その中小クランというのが、主に、冒険者同士やクラン間で起きた
「ただの『被害者の会』って訳じゃなさそうね」
そう言ったラシャンを
その内容を簡単にまとめると……
中小クラン連合結成の目的は、助け合い。そして、二度と不当に
都市警察は、《群竜騎士団》の凶行や犯罪に目を
もう誰も信用できない。だからこそ、裏切られる事、見捨てられる事の
そして、クラン連合が自衛のための力として組織したのが、各クランから優秀な人材と物資や資金などを出し合い、最高の実力を備える者達を集めて最高の武装を装備させた戦闘集団――『
「要するに、《物見遊山》もクラン連合に加わって、アレン君にその
ラシャンの言葉に頷くサテラ。
ただ、《物見遊山》に入れてくれ、同盟を結んでくれ……そんな話はよくある事。
それだけなら今話題に上げないだろうと察し、話の続きを待っていると案の定、
「まだ話に聞いただけで確認していないのですが、クラン連合は、自分達の
そんなクラン連合が《物見遊山》のクラン・マスターとの面会を求めている。それが、〝会合〟に出席してほしいと要請する者が日に何度も
「…………、――ん?」
アレンは、黙って話に耳を
「ちゃんと起きてるよ?」
「そうじゃねぇよ」
そう言ったカイトを始め、皆がクラン・マスターの
「《
「どうするって……、これまで通りで良いと思うんだけど……?」
自信のなさから
そして、得心がいっていないらしい仲間達から、どういう事かと説明を求められると、
「大切なのは、いざと言う時、臨機応変に対処できるように備えておく事だと思う、って事なんだけど……」
そう答えてから、あ~……、と天井に目を向けて考えをまとめてから更に続ける。
「カイトやサテラには仕事があるし、みんなにはそれぞれ修行がある――」
カイトに頼んでおいたものが完成すれば、サテラも少しは安心して外を出歩けるようになる。クリスタの【錬丹術師】としての修行は、自分の目的を達成するためだけじゃなく仲間のためにもなり、ラシャン共々【
「各自が成すべき事を成し、力を付ければ、それがそのまま仲間を守る力になる。それに、〝会合〟の事とかクラン連合とやらの事とか知らないし、何をどうするのが一番良いのか判断するための
また尻すぼみになりつつ皆の様子を窺うと、賛成が過半数を超え、それ以上の代案を出せる者がいなかった事もあって、今後のおおよその方針が決まった。
その後、現在の〝会合〟やクラン連合その他に関する情報収集は、カイトとサテラが自分なりの方法でやってみると言うので任せる事になり、腹の具合も落ち着いたし良い頃合いだろうと解散すると、夜稽古を行なう者達はそれぞれ準備を始めた。
アレンは、【異空間収納】で収納用異空間から必要な物を取り出すだけなので、一足先に庭へ出る。そして――
(また面倒な事になりそうだなぁ……)
仲間達を不安にさせないようにと我慢していたため息を
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