第28話 大規模クラン消滅の余波
時は流れ、《群竜騎士団》対《物見遊山》のクラン対抗戦から、早2週間。
その日々は、アレンにとって、気の
事の始まりは、決闘のすぐ後、気絶していたフェルディナンドに活を入れて起こし、誓約書を突きつけて伝えた、勝者の権利である敗者への要求。
「個人・共有の全財産を没収した上で、クラン《群竜騎士団》は解散。クラン《物見遊山》のメンバーとその関係者に対する報復を目的とした言動は禁止。【
後から後から思いつくまま要求を増やせないようにするための処置で、『以上を要求する』と告げた時点までの要求が通り、それ以降は、
その内容は、仲間達と考えて既に決めてあったもので、念頭に置いたのは、自分達がラビュリントスで平穏に過ごすため、報復を阻止する事と、犯罪者に
全財産を没収するのは、地獄の
技能の使用を禁止した上でエメラルドタブレットを封印させるのは、そもそも、都市警察が罪を犯した冒険者を逮捕できない理由が、【能力】によって強化され【技術】を使う犯人に、反撃されて
他は、既に起きてしまった事件を解決し、これから起こり得る犯罪を
署名した代表者であるアレンが、もう一方の代表者であるフェルディナンドに要求を伝えると、
これで、《群竜騎士団》との問題は全て解決。趣味と実益と友達探し、それに、仲間達とのダンジョン探索など、他の都市とは一味違う、ラビュリントスでの日常が戻ってくる――そう思っていた。
だがしかし、それは、面倒な事後処理の始まりでしかなかった。
浮世の
――例えば、決闘前に追加された取り決めによって、アレンの所有物になった、実に600名を超える奴隷達の処遇。
アレンは、奴隷達で構成されていた黒竜隊の存在があったため、それについては考えていて、全員の衣食住を保障するなど主人としての義務を果たせないため、という理由で、命令されて行なった犯罪などについての聴取の後、全員を奴隷の身分から解放するつもりだった。
しかし、それに待ったをかける者達がいた。
それは、クラン《物見遊山》に加入したい、新たな主に仕えたいという者達と、団員達の食事や身の回りの世話など、様々な労働や奉仕に従事していた女性達。
前者はまだ想定の範囲内だったものの、奴隷は黒竜隊の隊員達だけだと思い込んでいたアレンにとって、彼女達の存在は完全に想定外だった。
仲間達と相談し、彼ら、彼女らの意見を訊き、結局、希望者全員を受け入れる事などできないので、可能な限り公平を期すため、自分だけで生きて行く
そうと決まった後は、カイトが必要だと言い、ラシャンもやった方が良いというので頑張ったが、奴隷達から訊き出した話の内容は気が滅入るような物がほとんど。始めてしまったからと最後までやり切ったが、こんな事をするためにラビュリントスに来たんじゃないのに、と何度もくじけそうになり、やめとけばよかったとめちゃくちゃ後悔した。
そんな苦労を
――例えば、《群竜騎士団》から没収した財産の整理と処理。
没収した財産は、クランの
アレンは、その一部を見ただけで嫌気がさし、それらの所有権を放棄しようと考えたが、そんな事をすれば争奪戦が勃発して街中が戦場になりどれだけの人的・物的被害が出るか分からない、とカイトに
収納用異空間内に存在するものを把握する事ができるアレンが、まず種類別に分類し、それをカイトが、応援を要請して招いた信頼できる友人達と共に鑑定し、それぞれの
御禁制の品々の中で、呪物などは【異空間収納】で死蔵する予定だが、麻薬は、覚醒剤など鉱物系だけではなく、大麻など植物系もあり、そのほとんどは処分したが、毒にもなるけど薬にもなるから、と言う
不動産の管理と、
――例えば、ラビュリントスの裏に
団長や隊長達、二つ名持ちの幹部、その側近……その他大勢が、
しかし、留置所で火事が起き、不自然な速さで燃え広がり、そのままでは焼け死んでしまう
そして、その翌日。団長を始め、〝
犯人は不明。解放された元黒竜隊隊員、泣き寝入りさせられた者、煮え湯を飲まされた者……とにかく容疑者が多過ぎて特定できず、鋭意捜査中との事だが、
「まず捕まらないだろうな」
とはカイトの
原因不明の火事は、おそらく放火。それは、警戒厳重な留置所から
要するに、死人に口無し、を
誓約書の効果が発動した時点で、《群竜騎士団》ではなく、《物見遊山》のマスターの所有物になっていたため、技能の使用が禁じられていない黒竜隊だった元奴隷達とは違い、アンガスやフェルディナンド達は、大きく力を
そして、自白を強制し、黙秘という自分の身を護る手段を奪ったのは自分。
という事は、彼らを死に追いやったのは――
「アレン様のせいではありませんっ!」
リエルやサテラ、仲間達は皆そう言ってくれるが……
アレンは、本当にこれで良かったのは、間違いならどうすべきだったのか、同じ轍を踏まないために考え続けている。
その他にも――
傘下だった中小規模クランや青竜隊と
都市警察や冒険者ギルド、ラビュリントス評議会など様々な組織で、《群竜騎士団》から
《群竜騎士団》が消滅したこの機に、これまで
それが原因で発生した問題を解決するため、会合への出席を要請されたり、
警察官や捜査官だけでは手が足りず冒険者ギルドに捜査や逮捕の協力を要請する依頼が溢れているとか、
持ち込まれた案件が多過ぎて裁判所が処理しきれていないとか、
都市警察の本部や各署の留置所、刑務所が過密状態になっているとか……
――本当に、
そして、それは、五本の指に入る大規模クランの消滅がラビュリントスに
アレンは、自分でもよく分からない精神状態に
「んぁあぁ~~っ、んぁあぁあぁあぁ~~~~っ」
自分でもよく分からない衝動に突き動かされるまま、しばらくの間、芋虫のようにゴロゴロうねうねのたうち回った。
いったいどれくらいの時間そうしていたのか……
ふと我に返り、仰向けになって空を眺めながら、俺はいったい何をしているんだろう、とそんな事をしばらくの間、ぼぉ~~っ、と考えていたが、不意に、こんな事をしている場合じゃない、と気付いて身を起こし、立ち上がる。すると、不思議なほど気分が楽になっていた。
その後からだ。
何故か、みんなが今までよりも笑顔で優しく接してくるようになり、精霊獣の小さくて可愛い
アレンは知らない。
実質的にたった一人で《群竜騎士団》を壊滅させてしまった武芸の達人が、積もりに積もったストレスでおかしくなり、奇声を上げながら芝生の上でのたうち回るという奇行を目撃してしまった仲間達が、その間中、今までの人生で感じた事のない
兎にも角にも、そんな2週間だったが、気が滅入るような事だけしかなかったのかというと、そういう訳でもない。
例えば――
朝夕の修行が楽しい。
朝稽古の後の朝風呂がたまらない。
リエルとレトが作ってくれる食事が毎日毎食とても美味しい。
それに…………そう、それはつい先日の事。
「えっ? これを……わたしに?」
エリーゼが目を丸くして見上げたのは、〔超魔導重甲冑【雷電】〕。
没収して拠点に運び込まれていたものの、所有者は〝聖殲の雷〟のままだったので他の誰も使用できず置物と化していた。だが、先日の事件で、所有者不在に。
エリーゼの適性属性は【風】。だが、【雷電】は、主属性である【風】の従属性。
適格者になる資格はあるはず。
「おいおいおいおいっ、お前、どういうつもりだ?」
「体調を崩した時のための備えにちょうど良いと思って。〔
それを聞いたカイトは、かくんっ、と
「……戦力としてダンジョンに連れて行くためじゃなく、
そう、と本気で頷くアレン。
カイトは、自分ではありえない発想に
その後、他の仲間達にも集まってもらい、いつ体調を崩しても大丈夫、といったメリットだけではなく、《物見遊山》が〔超魔導重甲冑【雷電】〕を所有している事は知れ渡っているため狙われるかもしれない、といったデメリットも踏まえて考え、話し合い……結局、エリーゼの希望もあって、とりあえず試してみる事に。
その結果、エリーゼは〔超魔導重甲冑【雷電】〕の適格者となり、
「ねぇ、アレン君。まだあるかもしれない〔
両手を広げて元気にドスドス走り回る古代兵器、その姿を目で追いながらそう訊いたのはラシャンで、アレンが、確か【金属】と【力素】だったと思う、と答えると、
「私の適性属性、【力素】」
はいっ、と手を挙げたラシャンが、アレンを真っ直ぐに見詰めながらそう言うと、
「俺の適性属性、【金属】」
カイトまでが、はいっ、と手を挙げてそう言い、アレンを見た。
ラビュリントスの混乱は、まだしばらく続くだろう。
だがしかし、先日、ついに諸々の整理が済み、そして、今日からクラン《物見遊山》は、平常運転に復帰する。
「いってらっしゃ――~いっ!」
サテラ、カイト、それに、元気よく手を振って見送ってくれるエリーゼに手を振り返し、
「よし、――行こうっ!」
肩に小さな
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