第20話 引き継ぎの儀式
それは不死系モンスター全般に言える事なのだが、特にゾンビが嫌われている理由は、主に三つ。
一つは、見た目が
一つは、屍肉の悪臭が
そして、その最大の理由が、魔石を砕かないと倒せないから。
恐怖や痛みに
外で自然発生した後、この大陸の大結界によってダンジョン内へ強制転送されたものはその限りではないが、〔
それ故に、アレンのような浄眼持ちか、【気配感知】に習熟した者でないと、魔石の位置を特定するのが困難で、霊力には限りがあるため遠距離からの魔法攻撃だけに頼る訳にはいかず、そうなると大多数の者達が何度も攻撃を加える事になり、打撃や斬撃、射撃などの衝撃で腐肉や悪臭をばら
更に、魔石は、大きいほど用途が多く価値が上がり、小さいほど価値が下がるため、元々上層に出現するモンスターの小さな魔石を更に砕いて小さくすれば、その価値は
……などなどの理由でゾンビは嫌われており、そんなゾンビしか出ない第6階層も不人気で、冒険者達は
そんな事情を知っていれば、この階層を探索するアレンが、時空魔法の【空間探査】を使った結果、
あの後、アレンは、気を失ったラシャンを
不人気な階層だけあって冒険者の姿がなく、冒険者の姿がないという事はモンスターを倒す者がいないという事で、魔石があるものも、無いもの――外で自然発生して中へ強制転送された個体――も関係なく、
途中で昼食休憩を挟み、今のは
「今日はここで最後だな」
ほぼ一筆書きのように第6階層を足早に
「みゅうっ」
それに同意したリルがいるのは、アレンの
そんな可愛い相棒の様子に
何でも、昨夜の内に2発、一夜明けて、睡眠で回復した分に加え〔
アレンの役に立ちたいから――そう言って、朝からぐったりしつつも笑みを浮かべてそれらを手渡してくれたクリスタの事を思い出し、感謝しつつ準備を整え、隠されていた出入口を開放し、リルと共に部屋の中へ。
出入口が閉じ、魔法陣が出現し……そこから姿を現したのは、象よりも二回りは巨大な、全身が剛毛に覆われた
アレンが後になって知るそのモンスターの名前は『リトルベヒーモス』。
それ故に、冒険者の間での通称は『破壊不能
とはいえ、決して倒せない訳ではない。だが、撃破して手に入るのが拳
だが、結果から言ってしまうと、瞬殺だった。
属性【冷熱】の霊力が純粋な破壊力に変換された場合、極低温か超高熱が発生する事が予想される。
それ
ドンッ、と腹に響く轟音と共に発射され、音速で飛翔した人の頭くらいの大きさの霊力弾は、剛毛で
「――――~ッ!?」
【冷熱】の〔
すると、その内部は光も
発生したのは、極低温、超高熱、――その両方。
「体内から体外へ、熱量を強制的かつ瞬間的に移動させた、か……」
その結果、瞬時に絶対零度近くまで熱を奪われたリトルベヒーモスは凍結し、体外へ強制的に移動させられた奪われた分の熱が空気中の水分を瞬時に蒸発させて爆発的に膨張――水蒸気爆発が発生し、その衝撃波が
そして、その衝撃波によって、完全凍結して
「…………、話には聞いてたけど、見付けたのは初めてだな」
エメラルドタブレットが14枚。
これらを持ち帰り、ギルドに提出すれば、連絡板に張り出されている人捜しの人相書きが、その数だけ減るのかもしれない。
「明日は我が身、か……」
まだたったの第6階層。だというのに、隠し部屋を見付けても特に喜びや驚きはなく、部屋へ足を踏み入れる際には、警戒心や慎重さが足りていなかったかもしれない。
〝慣れほど恐ろしいものはない〟というのは師匠の言葉だが、まさに、とそれを実感しつつ、油断したつもりはないが慢心はなかったか、と自問しながら【空間断絶】を解除し、魔石とエメラルドタブレットを回収して、
「でも、これには慣れる、というか、飽きが来る気がしないんだよなぁ~」
ドキドキ、わくわくしながら、部屋の中央に出現していた黄金の鍵が差し込まれている
ガチャガチャ、ガチャガチャ、――ガチャッ
黄金の鍵を
そして、アレンが黄金の鍵から手を離すと、祭壇と宝箱はその場から消え去って魔法陣が発光し…………その光と魔法陣が消えた後には、古代金貨や金銀財宝などのいわゆる換金アイテムと――
「でも、流石にもう、これには慣れたな」
クリスタが『生産職
エメラルドタブレットがあれば、賢者の塔で、錬成した冒険者の、つまり、亡くなった冒険者の身元を照会する事ができる――そう聞いていたので、ギルドに行って提出したらそれで終わりだと思っていたのだが、そうではなかった。
まず、ギルドに持って行って自分の担当アドバイザーであるサテラさんに渡すと、平静を保とうとしつつも驚きを隠しきれない様子で、何故か
その後、一緒に来てほしいと言われて、共に賢者の塔へ。
サテラさんがその受付で亡くなった冒険者の照会を行なっている間、抱っこしたリルの肉球をぷにぷにマッサージしたりしつつ構いながら、回収した経緯を
そこで行なわれたのは、エメラルドタブレットに蓄積されていた霊力の引き継ぎ。
腰の高さほどの立方体の台の上、そこに描かれた魔法陣の中央に置かれているのは見るからに年代物の
サテラは、まず、行方不明だった冒険者の生死が判明した事について感謝を
これが『引き継ぎの儀式』。
とは言っても、それはそこに蓄積されていた霊力だけで、エメラルドタブレットに刻印されていた【技能】は引き継がれない。
この
この
彼女の様子が、受け取ってから賢者の塔の受付で照会する前までとは違い、今は緊張が解けて普段通りに戻っているのは、ひょっとすると、あのエメラルドタブレットの錬成者が、クラン《群竜騎士団》のメンバーではない事が分かったからだろうか?
アレンがそんな事を考えているとは露知らず、サテラは、もう一度エメラルドタブレットを回収してきた事に対する感謝を伝えた。
そして、
「アレン様は、必ず生きて帰って来て下さい」
そう
それに対して、アレンは、
「大丈夫ですよ。俺には幸運を
肩の上にいて、こちらの頬に小さな躰をすり寄せてきたリルを
「それに、『必ず』とか『絶対』って言葉は好きじゃないんで、『自分だけは絶対に死なない』なんて思う事もありませんし、そもそも、一応、冒険者にはなりましたけど、俺の目的は、趣味と実益と友達探し。仲間達とする冒険に
そう言って、にっ、と見る者を安心させる笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます