第17話 『無限』の名を冠する魔法銃

「えぇッ!? ボクが女だって気付いてたのッ!?」


 アレンが、対人恐怖症と男性不信を併発へいはつさせているリエルとレトに、当人は男性名を名乗っていても性別は女性だから安心するよう伝えると、男装少女のクリスはそんな頓狂とんきょうな声を上げた。


 それが、昨日の事。


 その他に特筆すべき事は、当人の希望により、『クリス』こと『クリスティアン』あらため『クリスタ』――本名で呼ぶ事になったのと、その日は、昼過ぎまでダンジョンには潜らず、〔拠点核ホーム・コア〕に命じて拠点を改良し、元あった家の位置を変えて新たに建物を二つ追加した。


 壁やさくのようなへだてる物は何もないが、まねかれざる者の進入をはばもうとするかのように視界をさえぎ鬱蒼うっそうとした森、その中に一本通った獣道のような舗装ほそうされていない細い道の先にあるのは、想定していなかった来客を迎えるための建物――通称『前の家』。


 『前の家』から回廊で続いている奥の建物が、アレン達が住んでいる建物――通称『後ろの家』。また、ただ『家』、あるいは『自宅』と言った場合はこちらの事。


 『後ろの家』から続く回廊の先にあるのが、新たに仲間になった彼女の希望を可能な限りかなえた建物――『クリスタの工房』。


 元は老師が所有していた物件だけあって、選択して配置できる設備の種類も豊富で、自分に与えられた工房を一通り見て回ったクリスタは狂喜乱舞していた。


 それと、今はそうした理由についての説明は割愛するが、昼過ぎからアレン一人でダンジョン第5階層へおもむき、さっさと探索を終わらせた。


 そして、翌日――今日の朝食前。


「おーいっ、クリスタ。大丈夫か?」


 そう呼びかけつつ、アレンはトイレをドアをノックする。


 家の2階のトイレは女子専用だが、1階のトイレは男子専用という訳ではないので、クリスタが使用する事自体は問題ではない。


 だが、入ったきり出てこず、リエルとレトが呼び掛けても返事がないとなれば問題だ。


 日課を済ませたアレンは、リルを抱っこして、広々としたリビングと隔てる物のないとなり食堂ダイニングへ。そこでこのしらせを受け、こうして足を運び、ドア越しに声をかけたという訳なのだが……


「ど、どうぞっ! カギは、あいてるから……~っ!」


 聞いていた話とは違って、すぐに中からそんな返事があった。


 ほっ、としたのも束の間、ん? と眉根を寄せるアレン。


 ここはトイレであって、クリスタの私室ではない。それなのに、鍵は開いている、とか、どうぞ、とはどういう事だ?


 怪訝けげんに思いつつも、とりあえずこのまま突っ立っていてもらちが明かないのでトイレの戸を開けるアレン。


 すると、当然といえば当然の事なのだが、ズボンを穿いていないクリスタが便座にすわっていて、さらされている素足のひざ上まで上着のすそで隠しており、


「ど、ど、どうぞ、おっ、お、お使い下さいぃ……~ッ!」


 顔は言うにおよばず、耳や首筋どころか全身を真っ赤にして絞り出すようにそう言うと、ピタッと合わせていた膝をゆっくりと左右へ大きく開き、ぷるぷる震える手で上着の裾を徐々に徐々にたくし上げて――パタンッ、とアレンはドアを閉めた。


 きびすを返してドアに背を向け、頭痛をこらえるかのように、ひたいに手を当てるアレン。その直後、勢いよくドアを開け放ったクリスタが飛び出してきて、処女のボクがどうたらこうたらとギャーギャーわめき散らしていたが、ひとまず全て聞き流す。そして、長く一つため息をついてから振り返り、


「――で?」

「で、って……だから、ボクが女だって分かった上で契約して家に連れ込んだって事は、そ、そ、そういう事なんでしょッ!?」

「そういう事って?」


 羞恥しゅうちと怒りで真っ赤になっている涙目のクリスタが何を言わんとしているのか、アレンには皆目かいもく見当がつかず、それゆえに訊き返すと、


「だ、だから……ボ、ボクを……その……せせせ、性欲の、はけけ口に……~っ」


 上着の裾を押さえてうつむき、もじもじするクリスタ。


 アレンは、何故なぜそうなるのか理解できず唖然とし、ふと気付いた。


「なんか、一晩でずいぶん伸びたな、髪」

「あっ、気付いた? 薬でちょちょっとね。やっぱりこのくらいのほうが女の子らしくて可愛いでしょ?」


 クリスタは、手荷物のリュック以外に、錬丹術師だった祖母の工房じっかから持ち出した魔法の道具――てのひらサイズにまで小さくする事ができる収納棚を肌身離さず持ち歩いていたそうで、使い慣れた道具とアイテム制作に必要な最低限の器具、少量ずつだが数十種類の素材を所有していたので、それを使って作ったのだろう。


 昨日までは短かった髪が、今は毛先が軽く肩にかかっている。女の子らしくて、と言うなら確かに、素足を晒して丈の短いワンピースを着ているような今の格好と相まって、誰が見ても少年おとこだとは思わないだろう。


 流石は超一流を目指す【錬丹術師】、と感心したアレンだったが、


「だ、だから……優しくして、ね?」


 そう言って、ちょんっ、とまむようにこちらの服のそでつかみ、上目遣いに見上げてきたクリスタにトイレのほうへ引っ張られ、感心して損した気分になると同時に、ふと思った。


「なんでトイレなんだ?」

「だって、お風呂と寝室の担当はもう決まってるみたいだから、それならボクの担当はトイレここかな、って」


 それは誤解だが、そうさせた原因に思い当たる節があるアレンは、思わず天を仰いで目許を手でおおう。それから、一つ息をついて自分を落ち着け、そうではないのだと説明した。


 だが、男が女の奴隷を買う理由なんて決まってる、とか、男はそういう生き物だから、とか、健全な青少年なんだから仕方がない、などと、クリスタは妙な理解を示して聞き入れようとせず……


 結局、契約内容に性的奉仕そんなことは含まれていないし求めていない、という事を明言し、朝食ができているから身支度を整えてくるように、というむねを告げてやや強引に話を終わらせ、『この【錬丹術師】クリスタは一種の天才で、常人じぶんとはものの考え方が違うのだ』と思う事にして、これからは深く考えないようにしようと心に決めた。




 本日の予定は、午前中に、買い物と、クリスタを加えてのパーティ登録。ダンジョン探索は午後から。


 冒険者達の中でも臨時のパーティでダンジョンへいどむ者達は、大抵たいてい、午前中にギルドでどんな募集があるか探し、昼過ぎに顔合わせをして登録に行くか、当日の早朝、賢者の塔に集合し『円卓の間』でパーティ登録を行なってからダンジョンに潜るため、昼前辺りが一番いている。


 なので、そのままダンジョンへ向かえるようしっかり身支度を整えたアレンは、まず、浄眼の遠視で確認してから人気ひとけのない路地へ【空間転位】し、いつのも武装の上に、仮面とポンチョ風ケープ、ワンピースのようなポンチョを装備しているリエルとレト、それに男装少女クリスタを加えた3名を、個性的な品揃えをした店セレクトショップ[タリスアムレ]へ送ってから、リルだけを伴って修理屋[バーンハード]へ。


 その際、クリスタが、よくもまぁボクをこの店に連れてこれたもんだね、などと呆れたように言っていたが、品揃えが良いし、何より対立関係にあるらしいクラン《ペルブランド・ファミリー》傘下のこの店に《群竜騎士団》のメンバーがいる可能性は低い、とこの店を選んだ理由を説明して納得させた。


 そして、アレンが[バーンハード]へ足を運んだのは、焜炉コンロや作業台、錬金炉といった設備以外、〔拠点核〕が用意できないため買い揃えなければならない錬金術・錬丹術関連の器具や道具、素材などをあつかっているおすすめの店を訊き、ついでに大口径力晶弾を買い足すため――だったのだが、


「――やっと来たか。ちょっとそこで座って待ってろ」


 カイトは、肩にリルを乗せたアレンが店の戸を開けた途端にそう言い放ち、意表をかれて唖然とするアレンの隣をすり抜けるように店の外へ出ると、そのまま工房のほうへ。今日来た用向きを伝えるどころか挨拶あいさつをするいとまもない。


 既視感デジャビュと嫌な予感を覚えつつ、致し方なく言われた通り会計カウンターの前に置かれているテーブルの席に着き、可愛い相棒をで、頭やのどで、肉球をぷにぷにし、ふわふわの背中やお腹や四肢をモフる。


 そうして至福のひと時にひたっていると、程なくして、カイトがアタッシェケースほどのかばんと細長い布包みを手に戻ってきた。


 そして――


「ついに完成したんだ」


 珍しく、新しい玩具おもちゃを自慢したくてたまらない子供のような笑みを浮かべたカイトが、テーブルの上に置いた鞄を手ずから開ける。


 その中で緩衝材に埋まるようにして納められていたのは、重厚な長銃身が印象的な一丁の大型回転弾倉式拳銃リボルバー。それに、そのホルスターと付属の帯状の紐バンド


「構想からこうして形になるまで、だいぶかかっちまったが……こいつこそが、引き金を引くだけで無限に撃ち続ける事ができる魔法銃、――その名も〔無限インフィニティ〕だ」

「無限……」


 銃そのものには興味がない。しかし、無限流の使い手としてその名前に親近感のようなものをいだき、カイトにすすめられるまま何となく右手で手に取ってみるアレン。


 銃把グリップてのひらにフィットして握りやすく、引き金に指をかけないよう注意され、部品の名称などを教わりつつ、言われるまま腕を肩の高さまで上げてまっすぐ伸ばすと、自然に人差し指で標的を指差ゆびさすように構えられる。


 銃の良し悪しの基準は分からないが、たぶん、とてもいい銃だ。


 ほれ、と言ってカイトが差し出したものを左手で受け取ると、それは、表面に螺旋状のみぞられている椎の実どんぐり型の弾丸で、見た目からは想像できないほど重い。


「俺が錬成できる中で最も重い超重魔法合金製で、底を除いた全体をオリハルコンで被甲コーティングしてある。それが回転弾倉シリンダーに6発装填されていて、銃身内部で加速され、音速の約7倍で発射される」

「6発?」


 一つで魔法銃〔無限〕自体より遥かに重いのに、それが6発も装填されているという事も驚きだが、それ以上に、無限に撃ち続ける事ができるんじゃ? という疑問を込めたアレンの呟きに対して、カイトはニヤリと笑い、


「半分の3発撃った後、回転弾倉シリンダーが回転して4発目が発射されると同時に1発目が自動的に回収され、シリンダー内で発射可能な状態に戻る。それ以降、1発撃つたびに1発回収される。だから、このモンスターの生体力場フィールドや魔法障壁をも貫通する破壊不可能な超重質量弾を、音速の約7倍の初速で無限に撃ち続ける事ができるって訳だ」


 そう言った後、カイトが右手を差し出してきたので、アレンは、銃口を下に向けた銃と弾丸を返す。


 それを受け取ったカイトは、見本の弾丸をテーブルの上に置いてから、


「使い終わった後には、こうやって弾丸を回収する」


 銃把を握った右手の親指で撃鉄を少し起こし、回転弾倉をフリーにした状態で、ロシアンルーレットのように、シリンダーを左手で、ジャ――ッ、と回して見せた。


「ダンジョンの外でならやらなくても問題はないんだが、中でしばらく放置して宝物庫に回収されちまった場合、ちゃんと戻ってくるって保証はないからな。やっておいて損はない」

「…………」


 今までの経験上、これは明らかに、使い方を説明した後に、やる、という流れだ。アレンはそう読み、自分には必要ないものだとはっきり断るべく身構えた――が、


「アレン。『拳銃』って武器はな、主に人を殺す事にしか使えないんだ。〔無限〕こいつも、その例外じゃない」


 手にした魔法銃に視線を落とし、淡々と語り始めるカイト。


 アレンは、内心、あれ? と肩透かたすかしを食らったような気分になりつつも、何やら大切そうな話なので黙って耳を傾ける。


「もちろん、普通の小動物や、ダンジョンの上層に出現するレベルのモンスターなら倒せる。だがな、中層の中盤以降に出現するモンスターには通用しない。生体力場フィールドはじかれるか、運動エネルギーを奪われて止まるか、例え突破できたとしても、ただでさえ驚異的な生命力や耐久力を有しているモンスターの、霊力で強化された毛皮や甲殻やうろこが弾をとおさず、分厚い皮膚や脂肪、筋肉が衝撃を吸収しちまって内側まで伝わらない」


 だから前衛には、発射しうって終わりじゃない、力を加え続け、押し切る事ができる、魔導機巧を搭載している武装や希少級以上の霊力や魔法を帯びた武器、それに、強力な武術系【技術スキル】が必要になるんだ――そう語り、だが、と言って話を続けるカイトの表情はけわしく、


「対人戦……人同士の殺し合いなら恐ろしい威力を発揮する。もし戦争で使われたなら、〔無限〕こいつ一丁で敵軍を壊滅させる事だってできるだろう。際限なく人を殺し続ける事ができる訳だからな」


 ダンジョン内へモンスターを強制転送するシステム――六つの巨塔を頂点とした巨大な六芒魔法陣が存在するこの大陸では、地上にモンスターが存在しない代わりに、人同士が、国同士が争っている。


 この魔法銃が、事実カイトが言う通りの性能を有しているのなら、欲する者は、国は、少なくないだろう。


「俺が想い描いた使い方とは違う、別の最悪な使い道があるという事に気付いて、一度はあきらめたんだが……」


 カイトは、右手で持っている魔法銃〔無限〕の銃身に左手で触れ、


「こいつは、発射時の衝撃音で注意を引き、弾丸のダメージで敵愾心ヘイトあおり、モンスターを自分に引き付ける事で仲間を守る、そのための道具として作ったんだ」


 大声を出したり、武器で盾を打ち鳴らしたりといった行為以外に、殺気を叩きつける、声に霊力を乗せるなど、俗に【挑発】系と呼ばれる技能があり、大きな音や特殊な波動を発する道具や装身具も存在する。


 だが、敵に先制された場合、モンスターが攻撃対象を定めて既に行動している場合には、ほぼ効果がなく、そうでなくとも人より大きく強いモンスターには無視されるという事が珍しくない。


 現役時代は深層に到った冒険者であり、盾持ちの【魔法騎士】だったカイトが、そんなモンスターの意識を強引に仲間から引きはががして自分に向けさせるために、これがあれば、と想い描いたもの――それが魔法銃〔無限〕なのだとか。


「お前なら、こいつを使いこなせるだろうし、何より、制作者の思いを無下むげにはしないだろ。これからのダンジョン攻略で存分に役立ててくれ」


 要するに、どうしても作りたかったから作ったんだけど、大量虐殺に使われたくないし、死蔵したくないから、用法を守って使い、しっかり管理・保管してくれ、という事らしい。


 話しながら魔法銃〔無限〕を鞄の中に戻したカイトは、それをテーブルの上で自分の手元からアレンの前へ。そして、


「――で、次はこれだ」


 話すべき事は話して満足したのか、さっさと細長い布包みを手に取った。




 正直なところ、大量虐殺を可能とする兵器など持ちたくないし、次から次にあれもこれもといったい俺をどうするつもりなんだ、という思いもあるが、仲間を守るための道具、というフレーズにはとてもかれるものがあり……


 カイトは、そんなふうにアレンが迷っている間にさっさと巻いていた布を取り去り、中から現れたのは、ボルトアクションライフルのような魔法銃。


「お前にゆずってもらった〔精霊銃〕の動力源である〔精霊石〕は、重力系でまとめた複数の魔法を常駐発動させるのに必要だったから〔無限〕に使った。で、こいつは、動力源を抜いた〔精霊銃〕の部品パーツを使って作ったものでな」


 そこまで話してから、唐突に内容が飛び、


「霊力はギリギリまで使えば使っただけ超回復によって総量がわずかに増える。お前は、修行の一環で、残った霊力のありったけをこいつにブッ込んでるんだろ?」


 そう言いつつ、カイトがどこからともなく取り出したのは、アレンの〔砲撃拳マグナブラスト〕など、彼が作った甲拳型魔導機巧共通の大口径力晶弾カートリッジ


「で、ブッ込んだ量が量だけに使う機会がなく……いや、危なくて使おうにも使えず、か? 結局、次から次に買い足してる。――そうだな?」


 確信を込めたカイトの問いかけに対して、アレンは、魔法銃〔無限〕をどうするかについての思考を中断し、まさにその通りなので素直に頷いた。


「そんな事だろうと思って作ったのがこいつだ」


 カイトの説明によると、単発のボルトアクションライフルと同様、『ボルトハンドル』と呼ばれる部品パーツを手動で操作し、まず90度上に起こして後ろに引き、装填口を解放。そこに大口径力晶弾をセットし、ボルトハンドルを前へ押して元の位置に戻してから90度横に倒し固定する事で、薬室チェンバーへ装填し閉鎖する。


 これで発射できる状態になり、〔精霊銃〕同様、引き金を引いて放すと霊力弾が発射され、引き金を引きっぱなしにする事で霊力弾の威力が上がっていく。だが、〔精霊銃〕は、最大威力になると引き金を放さなくても勝手に発射されたが、その点は異なり、引き金を引いている間はその状態が維持され、放さなければ発射されないとの事。


「精霊石を用いた銃で〔精霊銃〕なんだから、こいつは〔力晶銃〕ってところか」


 そう言いつつ、ボルトハンドルを90度上に起こして後ろに引き、薬室から力晶弾を引っ張り出して取り出し、ボルトを元の状態へ。


「どうせ、今日も買い足しに来たんだろ? お前みたいに亜空間の収納用異空間にしまってるならにごる事もないだろうが、無闇やたらとたくわえておいても意味がない。適度に使って再利用しろ」


 カイトが、ほれ、と差し出した〔力晶銃〕を反射的に受け取るアレン。


「そいつもやる。力晶弾たまのほうは売ってやる。いくつだ?」


 結局、アレンは、なし崩し的に魔法銃〔無限〕と〔力晶銃〕をもらい受ける事となり、4発の大口径力晶弾を買い足した。


 そして――


「気を付けろよ。〝なまくら〟のアレン」


 カイトが唐突にそんな事を言い出したのは、錬金術・錬丹術関連の器具や道具、素材などを扱っているおすすめの専門店を幾つか教えてもらった後、肩にリルを乗せたアレンがおいとましようとした時の事で、


「小耳にはさんだんだが……」


 本当なら口にするのも嫌だと言わんばかりに顔をしかめ、うめくように言った。


「早ければ今日中にも〝白竜〟が戻ってくるらしい」


 以前、アドバイザーサテラさんに、ラビュリントスでトップ争いをしているクランについてたずねた事がある。その中に、《群竜騎士団》も含まれていていた。


 何でも、のクランには、四つの部隊――『赤竜隊』『青竜隊』『白竜隊』『黒竜隊』が存在するらしい。


 『赤竜隊』は、赤い甲冑を纏う者達で、力こそ法という荒くれ者の集団。その隊長は、円形闘技場コロシアムで4年に1度行われる『大武闘会』の前回覇者であり、日々行われているランキングバトルの第1位。その名も〝踏み躙る赤竜〟〝金剛鬼神〟〝絶対王者〟の『アンガス』。その配下にも、ランキング上位者が複数含まれる。


 『青竜隊』は、青い甲冑を纏う者達で、護衛などの依頼クエストをこなす事で豪商達との太いつながりパイプを作り、必要とあらば手段を選ばずどんな物でも調達する、言わば《群竜騎士団》の兵站へいたん部隊。


 『黒竜隊』は、奴隷で構成された部隊で、ダンジョン攻略を強制され、迷宮内で手に入れた魔石やアイテムと引き換えに青竜隊から必要な物資の供給を受け、地上に戻ってくる事は滅多にない。


 そして、『白竜隊』は、白い甲冑を纏う者達で、自分達の領地を、あわよくば小さくとも国を持つという野望のため、積極的に傭兵として戦争に参加している対人を専門とする戦闘集団。


 カイトが言うには、その白竜隊が、約3ヶ月ぶりにラビュリントスへ戻ってくるらしい。


 話は少し飛ぶが、パーティ登録をすると、倒したモンスターの霊力がメンバーへ均等に分配されるのだが、この仕組みシステムには距離の制約がない。


 どういう事かというと、例えば、アレン、リエル、レトがダンジョンに潜り、クリスタが拠点ホームの工房でアイテム制作を行なっていても、アレン達がモンスターを倒せば、クリスタにも霊力が分配される。


 白竜隊の騎士達は、黒竜隊の奴隷達とパーティ登録しており、遠く離れた場所で戦争をしていても、黒竜隊が倒したモンスターの霊力が白竜隊の騎士達にも分配され、紋章に蓄積される。


 だが、貯めてもそのままでは意味がない。故に、賢者の塔で【技能】を取得するため、定期的に戻ってくるのだとか。


 そして、これまでも、白竜隊がいない間、他3隊がクランの地位を守りつつ力をたくわえ、白竜隊が戦地で奴隷へいたいを確保して戻り、四つの部隊が揃うと、敵対するクランに戦争を仕掛けて完膚かんぷなきまでに叩き潰すという事が何度かあった。戻ってきても仕掛けなかった事もあるため、絶対やる、と断言はできないそうだが、ラビュリントスで五本の指に入る大規模クラン――《群竜騎士団》は、そうやって勢力を拡大してきたらしい。


 それ故に、カイトは言った。


 いざこざを起こして〝なまくら〟という二つ名をもらったアレンに向かって――


「《群竜騎士団やつら》の動向に注意しろ」


 ――と。

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