第15話 武術の才能がない?
「――やっと来たか。ちょっとそこで座って待ってろ」
修理屋[バーンハード]の店主であるカイトがそう言い放ったのは、肩に
そして、意表を
そうして至福のひと時に
カイトがそれをテーブルの上に置くと、リルが逃げるようにテーブルの上から契約者の肩へ戻り、好奇心からアレンが相棒と共に開け放たれた鞄の中を
「まずはこいつからだ」
何の説明もなくそう言い放ったカイトがアレンの前に置いたのは、1本の刀剣。
それは、
良い
「それも
そう説明して、今度は、霊力を込めるよう
言われた通りにするアレン。その手から、形は変わっても〔念動球〕のように大型ナイフが浮かび上がったのを見ると、カイトは、よしッ! と小さくガッツポーズし、
「次はこれだ」
そう言ってアレンの前に置いたのは、鋭利な4枚の刃を備えた風車のような大型手裏剣。
それもまた、アレンの手から浮かび上がったのを見ると、
「時計回りや反時計回りに回転させられるか?」
アレンが、電動回転丸
ただ回転させられるかを確認するだけならナイフで良かったはず。それなのに、あえて手裏剣を用意して試させたのは、ナイフと手裏剣を同時に操作し、また、それらに別々の動きをさせられるかどうかを確認したかったのだろうか?
アレンはふとそんな風に考えたが、それを確認する間もなく、
「次はこいつらだ。一つの〔念動球〕を半分に割ってそれぞれ成形したものなんだが、どうだ?」
前に並べて置かれたのは、2本の
もう流れで何も考えず霊力を込めて試してみると、
「これは……どっちも反応が
指示してから動き出すまでに
「ちょっと貸してくれ。…………、これならどうだ?」
空中を移動させようとすると時間がかかるので、2本の投擲剣をひょいと
だが、結果は変わらなかった。
「つなげてもダメ、か……」
そう
「こいつは、二つの〔念動球〕を融合させたものだ」
その後、『一つ分の板』と『二つ分の板』を使って実験してみた結果、双方の性能に差はなく、持てるだけの
「このサイズが、試行錯誤の末の最適解、って事か……」
そして、その代わりに鞄から取り出して、ほらよっ、とアレンに向かって放ったのは、大型ナイフの
「その二つはやる。実験に付き合ってもらった手間賃だと思ってもらってくれ」
鞄を持ったカイトは、ありがとよ、と言い置くと、はやる気持ちを
こうして、
「――あッ!?
今日はそれを買い足すために来たのだという事を思い出し、アレンは慌ててカイトを追いかけた。
一つ所有してしまえば、あとはもう二つも三つも大差はなく、この先ダンジョン探索を進めていけば、モンスターは強くなり、罠は種類も数も増え、難易度はどんどん上がって行く。
ならば、無くて困る事はあっても、有って困る事はない。
そんな訳で、その
そして、今日もダンジョンに潜り、時空魔法の【空間探査】を使って――
「おぉっ? 思いのほか早く
第2階層に
隠し部屋は、攻略されるたびに場所を変える。昨日、探索を切り上げた時にはなかったので、第4階層より
第1~第3階層は
「本当に、アレン様お一人で
そう訊いたのは、第1形態の〔
それに対して、〔
「目的は、〔
〔超魔導重甲冑【時空】〕を第1形態で装着しないのもそのためで、【異空間収納】で収納用異空間から取り出した四つの力晶弾――レトに用意してもらった【生命】の霊力が過剰充填されている
「俺の推測通りならこれでいけるはずだけど、入手できてもできなくても、次からは一緒に挑戦しよう」
そう言って、心配そうな顔を自分に向けるリエルとレトに、気負いのない微笑みを浮かべて見せるアレン。
そして、身を
そのまま
そこから現れたのは、巨大な四足獣。四肢を床についた状態の体高で3メートルに
アレンが後になって知るそのモンスターの名前は『デーモニックビースト』。
交戦して生き残った者がほとんどいないため、未だ多くの謎に包まれている凶悪極まりないモンスター。
だが――
「――破ッ」
ドゴォンッ、と腹に響く轟音と共に霊的衝撃波が前方・
(マジかッ!?)
内心で強敵に対する称賛を
それは、
できる事なら、
アレンは、デーモニックビーストから目を離さず、関節部の固定が解除されるなり左手で愛刀の鞘を
「…………ん?」
デーモニックビーストが全く動かない。その事に
後に残ったのは、拳サイズの魔石。そして、部屋の中央に出現した、腰の高さ程の祭壇と黄金の鍵が既に差し込まれている
アレンはそんな事を考えて、ぶるっ、と身震いしてから、結局、鯉口を切ったものの抜かずに終わった愛刀、その鍔に左手の親指を掛けて引き戻し、柄頭が
「さて、と……」
結局、交戦したが、新たな情報を得る前に倒してしまったアレンは、何となくそれが礼儀のような気がして、デーモニックビーストの魔石を回収してから宝箱へ。
何度やっても、このドキドキやワクワク感は変わらない。
黄金の鍵を
そして、アレンが黄金の鍵から手を離すと、祭壇と宝箱はその場から消え去って魔法陣が発光し…………その光と魔法陣が消えた後には、古代金貨や金銀財宝などのいわゆる換金アイテムと――
「――ぃよしッ!!」
アレンは、兜の飾りまで入れれば2メートルの半ばを超える、生と死を象徴するかのような白と黒で彩られた重厚な〔超魔導重甲冑〕を見詰め、右手で小さくガッツポーズしつつ、にやり、と口角を吊り上げた。
激レア装備だとされている〔超魔導重甲冑〕が、何故こうもポコポコ出てくるのか?
アレンは、まず過去に手に入れた時の事を思い出してみた。
〔超魔導重甲冑【水】〕を手に入れた時は、〔
そして、実際に初期形態に搭乗し、第1形態を装着した経験から、こう考えた。
カイトが言っていた『装着者の能力を増幅する』という世間が認識している機能はおまけのようもので、その
そこで、今回は、他の要素を排除して、〔砲撃拳〕での攻撃に限定してみた。
〔砲撃拳〕での砲撃は、純粋な破壊力に変換する、などと言っても、結局のところは莫大な霊力をただ放出しているだけ。術式を構築して魔法を行使すれば、十分の一以下の霊力で同じ結果を出せる、言わば、霊力の盛大な無駄遣い。
それ故に、この推測が的を射ているなら、〔超魔導重甲冑【生命】〕を獲得できるはずだと考え、結果はご覧の通り。
アレンは、同じ方法で残りの3機――【冷熱】【金属】【力素】の〔超魔導重甲冑〕も獲得できるだろうと確信に近いものを得たが、使う者がいないので、今のところそのつもりはない。
――それはさておき。
妖精族のレトは、人が造った金属の塊に、忌避感や拒絶反応という程ではないが、苦手意識と言うか、エルフ耳に似た長い獣耳を垂らしてちょっと怖がるような
そして、〔超魔導重甲冑【生命】〕の
実際に搭乗して確認してみると、やはり、思い通りに動かせるものの初期形態では自分本来の戦い方ができない。そこで、アレンと同じく腕環状態で経験値を累積させる事にして、第3階層での修行を続行し…………〔
その間、リエルがひたすら【斬撃】【斬撃】【斬撃】……また【斬撃】を繰り返す一方で、レトは、いつも通りの豪快にして華麗な肉弾戦闘以外に、自分の〝武器〟を意図的に多用した。
梅の種ほどの木の実が中心に閉じ込められた梅の実ほどの大きさの球体――それを一言で説明するなら、魔法的な『爆弾』。
レト
特に名前はないそうなので、仮に分かりやすく〔琥珀爆弾〕または単に〔
放り投げて空中で起爆させると、ダンジョンという空間が限定されている場所ではえげつない威力を発揮し、敵に近くまで接近された時には、その圧倒的な
そうして経験値を累積した結果である〔メルク〕の第1形態は、手足の指先から
ここはダンジョン。モンスターが現れたので、早速その白と黒で彩られた機械的な武装を身に
そこで、次は武器を試してみる事に。
【格納庫】から取り出された武器を一言で言い表すなら、――
全長およそ1メートル。
そして、小柄なレトがそのゴツイ多目的突撃小銃を構えると、全身を包んでいるパイロットスーツが正しい射撃姿勢を取らせ、視覚に情報が割り込んで視界に表示される紋章の
アサルトライフルのほうは、
問題はグレネードランチャーのほうで、着発式、時限式、〔琥珀爆弾〕と同じ任意でと起爆させる方式を選択する事ができ、
もっとも、第1形態は【
(人との出会いって、不思議だなぁ……)
アレンはふと思った。
修理屋[バーンハード]の店主であり発明家でもあるカイトと出会う以前の自分なら、『こんな強力な兵器、いったいどんな敵と戦うために造ったんだ?』と、倒すべき敵が存在していたからこそ、そのために必要だったからこそ造られたはずだと考えていただろう。
それが今は、ごく自然にこう考えている。
『知識と技術と情熱を持った変人が、何の目的もなく、ただ想像したものをどうしても
第4階層からゴブリンが出現するようになる。
一般的な冒険者の認識では、第1~第3階層に出現するのはデカい害虫や害獣で、ゴブリンこそが『最弱のモンスター』という事になっている。
そのせいで、害虫駆除は冒険者の仕事ではない、という考えが
それ故に、所有している事実を隠すと決めているのだが、地下にある空間だという事を考えると広いものの、中層以下と比べるとそれ程でもない浅い階層では、他の冒険者達と遭遇する事が比較的多く、そのたびに装備・除装を繰り返すのは面倒。
それ故に、第4階層からは、〔超魔導重甲冑〕なしで探索を進めると決め、その支援なしで戦えるよう、第3階層でリエルのレベルアップを図っていたのだが――
「リエルには剣の天稟があるな」
〔アズライト〕を除装し、〔
もちろん、しつこいという表現が生易しいほど繰り返し使用したスキル【斬撃】と第1形態の〔アズライト〕の動作補正が、徹底的に正しい動きを躰に教え込んだからではあるのだが、やはり、それだけではこの短い時間でこれほどまでに身に付きはしない。
それは、自分が使っている刀でも、こちらで主流の
「
しみじみ本音を
「武術の才能がない? アレン様が?」
レトまでもが、この人いったい何言ってんの? と言わんばかりの顔をしている。
そんな二人に対して、アレンは、あぁ、と苦笑しつつ頷き、
「俺は、『武において一つの極みと言える心眼、それを超える空間認識能力を備えた武芸者を育てる』って目的のため、時空魔術師としての天稟で選ばれた弟子だから、武の才は全くないし、昔は躰が弱くてなぁ……」
魔法適性が極めて高い体質であるが故に、幼い頃は、小さな躰に納まりきらない大量の霊力で生体機能が害され、その上、魔眼持ちだったため、老師が、見え過ぎるほど見えて視たくないものまで観えてしまう浄眼を封じ、徐々に慣れさせてくれていなければとうに発狂していただろうし、師匠が、〝軟気功〟――医療用の気功術で体内の霊力バランスを整え、制御の仕方を教授してくれていなければ、おそらく10歳まで生きられなかっただろう。
昔を
「お前を天才にはしてやれん。だが、必ず達人にしてやる」
アレンは、思い出の師匠のモノマネをして笑ってから、
「何十人もの
「邪魔?」
「『剣の天稟がある』って事は、言い換えると、もう『自分の剣を持っている』って事なんだって。だからそういう奴には、目録はくれてやるが免許はやれん、って言ってたよ」
アレンは、そう言ってから、リエルとレトが分かったような分からないような
「まぁ、そんな事より――」
話を本題に戻そうとしたのだが、
「――いえっ! もっとアレン様の話を聞かせて下さいッ!」
ずいっ、と
アレンは、そんな二人の興味
「そろそろ、第4階層へ進もうか」
〔メルク〕が第1形態へ進化し、リエルが〔アズライト〕なしで戦える事が証明された。そこで、良い頃合いだろ? と仲間達に意見を求める。すると、
「みゅ~――っ!」
ぴょんっ、と肩に飛び乗ってきたリルが真っ先に賛成の声を上げ、リエルとレトも同意した。
こうして第4階層へ進出し、人見知りの気があるリエルとレトのために他の冒険者と遭遇しないよう気を付けつつ、ダンジョン探索を進めていくアレン達。
しばらく封印する事にした〔超魔導重甲冑〕は言うに
そんな日々を過ごしている内に、ふと気付くと、とりあえず生き延びようと決めた一ヶ月が過ぎていた。
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