第14話 進化
――『
それは、パーティを組んだ際に
敵陣に斬り込んだり最前線で防衛ラインを守ったりする『
後方より、攻撃・回復を行い、前衛を支援する『
仲間の状態や戦闘の状況を常に見渡して指揮する『
自由に動いて敵を攻撃、または仲間を支援する『
戦闘には参加せず、荷物持ちや地図作成などで仲間を支援する『
――大きくこの五つに分けられる。
アレンは、
それなのに今、遊撃と支援を兼ねる中衛として、二人の仲間を見守っている。
前衛を担当するのは、レト。
適性属性は【生命】。
職種は、なんと、【魔法使い】系最上級職の【
流石はフェアリーの一族、その全員の
だが、担当は前衛で、しかも、
真の姿に戻った事で、存在を
攻撃は基本的に、アイススケートのジャンプのような横回転、体操競技の前方宙返りやバック宙のような縦回転など、回転から始まり、足技が主体で、手技は、拳を作らず、裏拳か張り手のような掌打、
フェアリーの特殊個体であるレトは、背中に
柔軟な肢体を最大限に生かし、しなやかな手足を大きく振り回し……そんな高速アクロバットのような躍動する戦い方ができるのは、レト自身が
そして、その
後衛を担当するのは、リエル。
適性属性は【水】。
本来であれば、初級職【魔法使い】で魔術と聖法をバランスよく取得し、更に、浅く広く複数の武器の技を取得できる【戦士】で一定数以上の技能を取得し、それらをある程度以上習熟する事でようやく転職できるのだが、リエルは初めからこれを選択する事ができた。
〔
今は後衛に専念してもらうが、〔超魔導重甲冑〕と水で形作った大剣、それに、今回の探索で倒したモンスターから吸収し、紋章に蓄積された霊力で【戦士】の攻撃スキルを取得すれば、前衛としても活躍できるだろう。
第1階層のボス部屋に到着すると、扉が閉まらないよう抑えているアレンの目の前で、2体出現したラットマンを瞬殺し、そのまま第2階層へ。
そして、リエルが、え? と戸惑いの声を漏らしたのは、出現するモンスターが増えようとも
「リエル?」
アレンが声をかけると、兜の飾りまで入れれば2メートルの半ばを超える群青色の機体が振り返り、
〔突然、目の前に文字が現れて……、
「進化? 累積…経験値……で最適化、か………」
どうしたらいいのかと相談されたアレンは、ふむ、と思案し……
「その『累積経験値』ってやつが、〔
〔累積経験値の内容は…………分かりません〕
「じゃあ、初期形態から第1形態への進化って、今しないと二度とできないの? それとも、保留して後回しにできる?」
〔それは…………今すぐしなければならないという訳ではないようです〕
「それならひとまず保留しよう」
理由は、リエルが大剣を使えるようになろうと練習中だから。
累積経験値が〔超魔導重甲冑〕を装備している時のものに限られるのなら、除装し腕環の状態で素振りした経験が含まれず、『水を扱い遠距離攻撃するリエル』に最適化した形態に進化すると予想される。
それなら、保留して更に大剣を用いた戦闘経験を累積させ、『水を操り弓矢と大剣を使うリエル』に最適化させたほうが良い。
そう説明すると、リエルは納得し、はい、と頷いた。
それから、リエルは一度〔超魔導重甲冑〕を除装し、アレン達はダンジョンを出て賢者の塔へ。
そして、利用者が少ない時間帯だったようで、空いていた個室をすぐ使用する事ができ、リエルは、【戦士】系初級の大剣スキル【
「【
「それは必要ない」
「そうなのですか?」
アレンは、うん、と頷き、
「使い手であるリエルは重さを感じていないだろうけど、その〔
繰り出した直後に大きな
――何はともあれ。
その後、アレン達はダンジョンに戻り、リエルは〔超魔導重甲冑〕を装備し、水で作り出した大剣でひたすら【斬撃】【斬撃】【斬撃】【斬撃】【斬撃】…………上段に構えてスキルを発動すると唐竹割りや
そして、頃合いを見計らってその日の探索を終了すると、帰宅してみんなで美味しく夕飯を頂く。それから、いつも通り夜の稽古を始め、リエルは〔超魔導重甲冑〕を除装した状態で
「じゃあ、今日の締めに、〔超魔導重甲冑〕を進化させてみようか」
アレンは、リエルに稽古の終了を告げると、続けてそう提案した。
「よろしいのですか?」
「あぁ、良いと思う」
その理由は、
「装備した状態での戦闘経験は、弓矢と大剣で倒したモンスターの数がほぼ同数。除装した腕環の状態での修行も経験値として累積されるなら、射撃と剣術の練習量はとんとんってところ。それに、ただの最適化じゃなく、初期形態から第1形態へ進化するなら、第2、第3の形態へ進化する可能性があるような気がする。それなら、初期のままだらだらやり続けるより、第1形態での戦闘経験を累積したほうが良いと思うんだ」
それでも、リエルの機体なのだから、と最終的な判断は任せると、
「では、最適化を実行し、初期形態から第1形態へ進化させたいと思います」
リエルは決然と頷き、〔超魔導重甲冑〕を装備した。
〔では……行きます!〕
その宣言の直後、アレン、リル、レトが見守る目の前で機体が
手足の指先から
「へぇ~っ、進化したらそんなふうになるのか」
その姿を目の当たりにして、素直に驚きの言葉を口にするアレン。
今までなかった武器が現れたり、敏捷性や精密操作性など、装着者に適した性能が向上したりするのではないかと予想していたのだが、ここまで外観が変わるとは思ってもみなかった。
更に予想外だったのは武器で、右手に現れたのは、【格納庫】から取り出された〔水操の短杖〕。そして、左手に現れたのは、弓ではなく、
左手で持ったそれの後部の差込口に〔水操の短杖〕を
「どうして弓ではないんでしょう?」
リエルが疑問を口にすると、アレンは、ふむ、と思案し、
「考えられる理由の中で可能性が高いのは、リエルが弓の【
その推測は、どうやら納得がいくものだったらしく、リエルは手にした新たな武器を見詰めながら、なるほど、と頷いた。
それから早速、リエルは試射するために、アレン達はそれを見学するために、先日造った射撃場へ。
リエル
発射されたのは、魔術の【
発射された弾の初速は亜音速で、発射音は
どちらも
その後、リエルは、銃器部分を外して【格納庫】に収納し、〔水操の短杖〕で水を操り作り出した大剣を振ってみた結果、スカートや肩当て付きマントが動きを妨げる事はなく――
(『人を早熟させ、更なる高みへ押し上げる継承システム』だって話だったけど、まさかこれ程のものとは……)
多くの冒険者は気にする事も深く考える事もないが、一部の者達は、賢者の塔で取得できる【
故に、【スキル】を発動させると、自分の意思とは関係なしに躰が動き、頭で理解していなくとも、繰り返し使う内に躰がその技を覚えていく。
剣術の初心者は、拳を作るように
アレンは、【
夜稽古の終了を告げ、〔超魔導重甲冑〕を除装したリエルとレトに有無を言わせず先に汗を流すよう命じて浴場へ向かわせた後、アレンは、通常の8倍という高重力環境下で肉体を
だが、その前に――
「興味はあったんだよな」
現在、アレンがいるのは屋内、自宅のリビング。
そして、その前にあるのは、壁際に飾られている、兜の飾りまで入れれば2メートルの半ばを超える透明感のある黒を基調とした重厚な〔超魔導重甲冑〕。
こんなデカくて重厚な鎧を着込んでいては身動きが制限されてしまう。それでは師匠に伝授してもらった技を振るえない。修行にならない。――それ故に、カイトに言われた通り
「もっとも、最適化されたお前さんが、リエルの〔
アレンは、そう語りかけながら、今まで【異空間収納】で運んだり出し入れしていたため
あの時、リエルは
「おぉ~~っ」
「リエルが言ってた通りだな」
グルリと周囲を見回してから視線を下げると、そこには、庭からここまで
そして、家の外へ出ようと考え、そちらへ視線を向けると、それだけで機体が歩き出した。
「…………」
自分は動いていないのに、こちらの意思に感応して歩く〔超魔導重甲冑〕。
その中にいるアレンには、〔
ならば――
「名前があったほうが良いよな」
他の〔超魔導重甲冑〕とは違う、自分専用で唯一無二、装備して共に戦う相棒の名前は……
「…………よしっ! お前さんの名前は――」
老師が、
「――『ランドグリーズ』だ」
満足げにそう告げた――次の瞬間、
「ぬぉおぁッ!?」
突然、アレンは圧力を感じる程の眩い光に包まれた。
瞼越しでも強い光を感じ、顔の前で交差させた腕で目を
すると、同じ場所にいるとは思えないほど、コックピット内の光景が一変していた。
それまでは、内宇宙――宇宙のような空間に浮かぶ透明な球体の中にいて、前方に投影されていた
それが今は、まるで透明な球体ごと外へ放り出されたかのように、宇宙のような空間の代わりに周囲全てがモニターとして外の様子を映し出している。
そして、それまで外の様子を映し出していた半透明の仮想画面には、
―― 名称登録完了 ――
――
――
光の文字でそんな文章が。
そして、一定時間経過したからか、それとも読み終わったのを察したのか、仮想画面ごとそれが消えると、今度は、複数の仮想画面が同時に投影され、それぞれに、現在使用可能な兵装や活動継続可能時間、【格納庫】内の状態、
「………、リエルは何も言ってなかったな」
それはおそらく、〔超魔導重甲冑〕の意識と言うべき支援用人造精霊に名前を付けていないからだ。
「風呂から上がってきたら教えてあげよう」
そんな事を
次へ
リルを肩から降ろしてから、無手で幾つかの型を試し、動作を確認する。
それで分かったのだが、リエルが言っていた通り、自分の躰のように動かす事ができるものの、当然と言えば当然なのだが、やはり自分の躰そのものではない。
特に、〔超魔導重甲冑〕の姿勢制御能力の完璧さが
「やっぱり、
結局、〔ランドグリーズ〕が第1形態へ進化したのは、三日後の事だった。
朝の稽古、ダンジョン探索、夜の稽古。
ダンジョンへ向かう前に、賢者の塔へ寄って技能を取得したりもしたが、基本的にその繰り返し。
その間、リエルは〔超魔導重甲冑〕を第1形態で装着して探索していたが、アレンは腕環状態のまま、一度も〔ランドグリーズ〕を装備する事はなかった。
それは、初期形態だと修行にならないからだが、同時に、装備せずに稽古や戦闘を行なった結果、最適化が可能になり第1形態へ進化したなら、腕環の状態でも経験値が累積されるのだという事が証明されるから。もしダメだったとしても、やっている事はこれまで通りなので損にはならない。
ちなみに、リエルは、自分の〔超魔導重甲冑〕の支援用人造精霊に、その機体の色から『アズライト』と名付けた。
第2階層のボス部屋は、攻略済みのアレンに見守られながらリエルとレトだけで攻略し、第1階層ボス部屋の
そして、第3階層のボス部屋は、アレンも未攻略だったため、ついに
とはいっても、リエルが後方から先制攻撃を仕掛け、距離を詰めてきたモンスターをアレンとレトで片付ける、というざっくりとした作戦を立ててはいたものの、結局、ボス部屋に出現した5体の
――それはさておき。
第4階層から、ゴブリンが出現するようになる。
一般的な冒険者の認識では、第1~第3階層に出現するのはデカい害虫や害獣で、ゴブリンこそが『最弱のモンスター』という事になっている。
そのせいで、害虫駆除は冒険者の仕事ではない、という考えが
それ
そんな訳で、アレン達は、第3階層でリエルのレベルアップを
そして、それは、〔念動球〕を使って罠を解除した時の事。
宙に浮かべた金属球を意のままに操り、それで床に隠蔽されているスイッチを押し、リエルとレトにその存在を教えると同時に、作動させる事で罠を潰す。この〔念動球〕は、リルと遊ぶ以外にもこんな使い方ができる。
「――ん?」
十分離れた場所で
それで、いったい何事か確認するため、
―― 累積経験値が規定値を突破しました ――
―― 最適化の実行が可能です ――
―― 初期形態から第1形態への進化を実行しますか? ――
――【 肯定 / 否定 】――
そこにはそんな文字列が。
「おぉ~っ! やってみるもんだな」
〔アズライト〕が第1形態へ進化するまでにかかった時間をとっくに越えていたので、
ひょっとすると、時間がかかっていたのは、〔ランドグリーズ〕に見せるつもりで、【
「第1形態へ進化させるんですね?」
そう訊いてきたリエルに向かって頷くアレン。
周囲にモンスターや他の冒険者がいない事を確認し、興味津々の眼差しを向けてくるリエルとリルを抱っこしているレトに、いくよ、と告げて、アレンは【肯定】を選択した。
すると、まず自動的に、
手足の指先から
「おぉ~っ、これが〔ランドグリーズ〕の第1形態か……」
自分の姿をしげしげと眺めるアレン。
爪先から足首、膝、股関節、腰、背筋、首がしっかり補強されているのは、高重力環境下での鍛錬で負荷がかかったからだと推測できるが、両脚がこれ程の重装甲で覆われるとは思いもしなかった。
「それにしても……」
見慣れない形状の全身鎧に対して感想の言葉が出てこない二人をよそに、片足の
視覚的には、関節部まで可動式の装甲で覆われていて金属の塊のようだが、感覚的には、初期形態の内宇宙でパイロットスーツだけだった時と変わらず、装着感はなく、重さも感じず、〝生玉〟と〝足玉〟を行なうにも支障はない。
そして、満足するまで動きを確かめると、
「腕環のままでも進化させる事ができてこれなら……
[バーンハード]の店主、カイトの推測が的を射ていた場合、まだ存在する可能性がある〔超魔導重甲冑〕は、【冷熱】【金属】【力素】、そして、【生命】の4機。
「え?」
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