第13話 パーティ登録
アレンと
その間、いったい何をしていたのか?
一つは、もちろん修行。
「アレン様、――私をアレン様の
リエルがそんな事を言い出したのは、一日を買い物に費やしたその日の夜、美味しい夕食を
アレンは、自身が修行中の身である事、経験が
「基礎体力がつき、基本の型と
当然その間ダンジョンに
そんな訳で、弟子入りこそ断ったものの、一つ屋根の下で暮らす家族として、共にダンジョンに潜る仲間として、力になるに
そこで、助言を求められたなら、その都度アドバイスする事に。
「〝超えるべきは他者ではない。常に今の己だ〟――」
それは、アレンが
「――1本
〔
二人は新装備に慣れるため〔
その結果、翌朝、リエルは全身が筋肉痛に。必死に平気なふりをしようとしていたがバレバレだった。
それでも、遅れないよう自分で起きてきて、髪を
基礎的な呼吸法から入り、躰と意識をしっかり覚醒させてから準備体操で躰を温め、ストレッチで筋肉と関節を伸ばして柔らかくしてから素振りを始める。
この素振りは、体内霊力制御の修行を兼ねているため、回数よりも、正しい呼吸、正しい型を意識して行ない、そうしている内に血行が良くなって筋肉痛が気にならなくなったらしいリエルと共に、その日はアレンも愛用の木刀を振り続けた。
汗と共に時は流れ、頃合いを見計らってリエルに稽古を切り上げさせ、整理運動をしてから先にシャワーを浴びてくるよう伝える。すると案の定、
その後、アレンが朝稽古を終えたのは、いつもより遅い時間。だが、今日からはこれが〝いつもの時間〟になるんだろうな、とそんな事を考えつつ、
〔
そして、いよいよダンジョンへ――と思いきや、なんと、そうはならなかった。
身支度を整えるなり、
アレンは厨房での仕事を任せるつもりでいたので、〔
そんな機能がある事を知っていたからこそ、そのまますぐ食卓に並べられる、または、あとは盛り付けて出すだけの料理を大量に作っておく、という方法を思いついたのだろう。
平服姿でエプロンと三角巾を装備し、調理を開始する女の子達。アレンは手伝おうとしたのだが、自分達の仕事だからと厨房から追い出されてしまった。
自分だけする事がなくなり、ダンジョンへ向かおうかとも考えたが、今日はパーティで
具体的に何をしたかというと、まず、無闇に広い庭に、平坦な道、
次に、射撃場。これまでは自分が〔拠点核〕に命じて的を用意させていたが、厨房と同様の動作で仮想画面が投影され、そこにある項目を選択する事で、彼女達が自身で
最後に、自分用の鍛錬場。限界を超えた鍛錬で肉体を
そんな感じで一日を過ごし、夜の稽古を行なって、翌日。
スキル【再起】で全快した状態で目覚めたアレンは、いつも通り朝稽古――ではなく、その日は、
その目的は、取れ立て新鮮な海の幸を手に入れる事。
15歳まで絶海の孤島で生活していたアレンは、肉より魚を食べる事のほうが多かったので、休憩中に厨房を
そこで、アレンはリルと二人をつれて【空間転位】し、まだ暗い内から開かれる大きな朝市へ。
リエルとレトは人混みが苦手なので、その点だけが心配だったものの、結果から言ってしまうと
店員が若い男性だと、リエルとレトは
結局、二人はその日も、帰宅してからの朝稽古と夜の稽古以外は料理をして過ごし、アレンもダンジョンへは行かず自宅の庭で修行に明け暮れ、間に挟んだ休憩中に、リルと散歩したり、シグルーンに乗って駆け回ったりした。
そうして一日があっという間に過ぎて、翌日。
アレンだけではなく、二人にとっても日課になった朝稽古、朝風呂、一緒に朝食の後、身支度を整えた。
リエルは、ポンチョ風ケープを身に付け、レトは、ワンピースのようなポンチョを着ている。二人共、その下は自分達で
武装したアレンは左腰に愛刀を
そして、アレンは、いつの間にか自分に〝
《群竜騎士団》内の一派が悪意を持って広めさせた事と、元々〝
「おい、見ろよ、あの剣」
「って事は、あいつが〝なまくら〟か」
「マジであんな骨董品を持ち歩いてるのか」
「
直接呼びかけてくる訳ではない。それでも、わざわざ聞こえるように話しているらしい声の大きさと、チラチラと向けられる視線から、どうやらそれが自分の事らしいと察するのは難しい事ではなく……
「……まさか、あの〝なまくら〟というのはッ!?」
「アレン様の事を言っているんですかッ!?」
二人がそれに気付くのが遅れたのは、真の姿に戻る前、奴隷時代の経験から対人恐怖症の
「そうだろうな」
あっさり肯定した。
二人が自分のために
「俺は結構気に入ったよ」
信じられないと言わんばかりの表情で、それは何故かと問われれば、
「〝
そう言って足を止めると、くるっ、と二人のほうへ振り返って右手を自分の胸に当て、
「こんな〝なまくら〟でよろしければ、喜んで貴女達のために微力を尽くしましょう」
そう
そこは、冒険者ギルドの中央にそびえる賢者の塔、その地下1階に存在する儀式場。
パーティ登録するための場所で、通称は『円卓の間』。
縦よりも横に倍以上広い円柱形の空間で、二つある出入口はそれぞれ入口と出口と決められていて一方通行。床には巨大な円に内接する六芒星が描かれており、円と六芒星の接点にその名の由来となった六つの円卓が存在する。その円卓の上にはエメラルドタブレットと同じエメラルド色の六芒星が描かれていて、そのそれぞれの頂点にエメラルドタブレットを
〝なまくら〟の二つ名だけではなく、〝
どこでも構わないそうだが、何となく三人で六芒星の一つの三角形を構成する位置に立つアレン、リエル、レト。
そして、タイミングを合わせて円卓の窪みにエメラルドタブレットを嵌め込んだ。
円卓の上でエメラルドタブレットと六芒星がほのかに発光し、その光が消え……
「…………え? これだけ?」
窪みから取り出したエメラルドタブレットを左手の甲に戻し、メニュー画面を表示させる。すると、確かにパーティ登録が完了していた。
正直、拍子抜けした感は
「これで俺達はパーティだ!」
込み上げてくるものがあるのもまた事実。
パーティの解散は、個人でメニュー画面を操作するだけで行なえるが、結成はこの円卓を使わなければならない。パーティメンバーの上限が6名なのはそれ
そして、パーティが結成され、エメラルドタブレットにメンバーが登録されると、倒したモンスターの霊力が均等に分配されるようになるだけではなく、最大6名での集団魔法や連携技の使用が可能になったり、回復や
――何はともあれ。
アレンは、
リエルとレトの望みは、
そんな訳で、アレンとは別の意味でダンジョンの攻略に興味がない二人は、ご主人様が探索を進めている第3階層からで良いと考えていた。
しかし、アレンは、三人でダンジョンの入口から再スタートする事に。
それは、何故か?
ボス部屋は、ちゃんと攻略しながら
そう思った根拠は、主に二つ。
一つは、時空魔法の【空間探査】を使用した結果。
アレンは階を一つ下りるごとにこれを使用してきたのだが、どうやら結界の
これはおそらく、そこまでのボス部屋は攻略済みだが、第3階層のボス部屋は未攻略だからだろう。
この推測が的を射ているのだとしたら、一度攻略したボス部屋は、それ以降足を踏み入れてもモンスターが出現する事はなく、例えパーティメンバーの五人が未攻略でも、一人攻略した者がいればやはりモンスターは出現しない、というのにも何か意味があるのではないかと思えてくる。
それが、根拠の二つ目。
そもそも、ダンジョンに潜るのは、完全制覇するためではなく、修行のためであり、生活の
結局、リエルとレトは、アレンの話を聞いて納得し、第3階層へ【空間転位】するのではなく、第1階層のボス部屋へ向かう事に。それも、回り道をして。
それは、ボス戦の前にダンジョンでの戦闘を経験しておくため。
転送屋を利用しない冒険者達は、地図を持っているかルートを記憶していて、まっすぐボス部屋を通過して奥の階段で
だからこその回り道だ。
「もう良いよ」
第1階層のボス部屋への最短ルートから外れ、二人に
すると、レトはワンピースのようなポンチョを脱ぎ捨てた。
その一方、リエルは左手の紋章を
余談だが、リエルのポンチョ風ケープは、〔超魔導重甲冑〕に搭乗する際、装備や他の持ち物同様、自動的に【格納庫】に収納されるのだが、レトの手から離れたワンピースのようなポンチョは
〔ご主人様、モンスターの魔力を探知しました〕
そう報告してきたリエル
その性能は、アレンが【空間探査】の後に常駐発動させている【早期索敵警戒網】より、範囲はやや広く、精度はやや
「私にも分かります」
そう自己申告してきた
「さて、先頭は、
最も防御力が高いのは〔超魔導重甲冑〕に搭乗しているリエルで、装備した〔水操の短杖〕で後衛から攻撃もでき、モンスターが背後から接近してきてもレーダーで探知できるため奇襲を受けずにすむ。しかし、実戦経験がない。
レトにはそれがあるらしく、気配にも
特に異論はないらしく、承知した
「みゅうっ!」
振り返って、さぁ、行こう! と言わんばかりに一鳴き。
一行はその様子を見て思わず笑みを浮かべ、頷き合い、前へ一歩踏み出す。
こうして、アレンは仲間と共に冒険を開始した。
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