新間(妹)レポート②
日向大輔が中学生になっても、私は彼を追い続けた。
この頃には、私の将来の夢は明確になっていた。将来私は、“スポーツライター”になる。そしてその第一弾は、小学生の頃から追い続けた日向大輔と、どんなに負けても日向君に喰らいつく香田圭司の、二人のドキュメントだと決めていた。
将来、必ず日本サッカー界を背負う選手になるだろう彼等の事を、彼等が日本サッカー界を背負う選手になった時、本にして出版する。
それは、どこか”使命感”の様なものだったかもしれない。あの日、日向大輔と香田圭司の会話を聞いてしまった私の。
中学生になっても日向君は日向君だった。
そのプレイもさることながら、ピッチ上での佇まいは既に中学生では無かった。言うなれば、王様。常に勝ち続け、周囲もそれが当たり前の様に感じてしまう程の“常勝の王様”。
そして香田君も、日向君の陰に隠れて全国的には無名の選手だったが、それでも彼もまた間違いなく超弩級の逸材だった。
香田君は常にクールな印象だったが、日向君に対しては闘志を前面に押し出して立ち向かった。
でも、二人のレベルの差は明確で、周りはそんな香田君に対して“諦めの悪い男”だと決めつけていた。
でも、私だけは、日向君をずっと見続けてきた私だけは知っていた。他の誰よりも、むしろ、香田君が日向君に対するよりも、日向君が香田君を誰よりも強く意識している事を。
最初は私も不思議だった。香田君も凄い才能を持った選手だけど、それでも日向君に比べれば遥かに劣るのだから。
何故、日向君は香田君を意識するのだろう?何故、特別視するのだろう?そして何故、私はそんな香田君にモヤモヤしてしまうのだろう?
答えは出ないまま、二人は中学三年生となり、都大会予選決勝で相まみえる事となった。
試合は予想外な幕開けとなり、開始早々に香田君と、日向君の小学生時代の盟友高橋君の活躍で世田谷三中が2点のリードを奪った。
でも、やっぱり日向君は日向君だった。
地力で勝る東条学園が前線からプレスをかけると、世田谷三中は防戦一方となり、日向君が1点を決めたのを皮切りに、前半終了時には4対2と逆転を許してしまった。
後半も東条のペースで試合が進み、日向君も途中でベンチに下がっていた。
今回もまた、香田君は随所にクオリティーの高いプレイを見せた。誰が見たって、彼もまた将来の日本サッカー界を支える逸材だと気付く程に。
でも、今回もまた日向君には及ばなかった。やっぱり、日向君は別格なのだと、誰もが、そう思っていた…この時までは。
試合終了間際。
ペナルティエリア前でボールを持った香田君は、全国屈指の東条DF陣三人を、ドリブルで置き去りにすると、そのままゴールを決めたのだ。
…そのプレーを見た時、私はずっと解けなかったパズルのピースが嵌まった音を聞いた。
日向君は知ってたんだ。香田君が、今は自分に遠く及ばない香田君が、いずれ自分を脅かすであろう存在である事を。
観客席からベンチの日向君を見ると、日向君は香田君の今のプレイに呆然としながらも、どこか“見惚れている”様に見えたのは私だからだったのかもしれない。
でも、この日から日向君は変わった。悠然とピッチに君臨する王様では無くなってしまったんだ。
常に後ろから
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