第13話 常勝の王様と不屈の皇帝
中学三年間無敗と云う輝かしい実績を引っ提げ、俺は東条学園高等部に進んだ。
高校に入っても、東条学園は二年間公式戦無敗、全てのタイトルを手中に収め、高校サッカー界の絶対王者として君臨していた。
対して香田は、その才能を見出だされ、名門帝都高校へと進んだ。
因みに、東条と帝都は同じ東京都だが、ブロックが違う為全国高校サッカー選手権では予選で対戦する事は無い。
全中予選決勝。あの日、俺が感じた不安は、日に日に大きくなっていた。
高校一年目。香田は一年生にも関わらず、古豪・帝都のレギュラーとして大活躍し、一気に全国区の選手として認識される様になった。
トップ下で試合をコントロールし、自らも強力なアタッカーとして、近年成績が著しく無かった名門復活の救世主として大きな期待を担う存在となったのだ。
だが、夏のインターハイ、冬の選手権、スタープレイヤーとして歩み出した香田の全国制覇の野望を尽く打ち砕いたのが、東条学園高等部…更なるスタープレイヤーとしての地位を確立していた俺だった。
香田との対戦は全てに勝利した。でも、中学の時の様な、圧倒的な差は次第に無くなっている気がしていた。
ポジションが違うから一概には言えない部分ではあるのだが…。
トップ下でパスもシュートもドリブルも出来る香田に対して、俺は高校生になってからは、ペナルティーエリアでのゴールへの嗅覚を研ぎ澄まし、瞬発的なスピードと絶対的な決定力を活かして、完全にセンターフォワードとして点を取る事に集中していた。
それが出来るのも、俺の他にも東条には優秀なゲームメイカーがいたからなのだが。
高校生ともなると、自分一人で出来る事などそう多くは無い。ドリブルでスイスイ抜く事も、ペナルティーエリア外からロングシュートをバンバン決める事も、簡単な事では無くなって来たのだ。
ならば、やはりタイムスリップ前から慣れしたんだポジションで、力を発揮した方が良いと云う判断だ。
でもまぁ、子供の頃からタイムスリップ前から持っていた技術に死ぬ程練習して手に入れた技術は健在なので、今はまだドリブルでもパスでも香田に引けを取っている事は決してない。
共に突出した実力を持ち、日本サッカーの未来を担う存在として期待されていた“常勝の
中学三年の都大会決勝。あの日俺が抱いた不安は、高校生になってからは日増しに明確なものへと変わっていった。
あの頃、香田だけは常に俺を倒すと公言していた。それを、俺以外の人達は笑っていたのだ。
俺を越えるのは、同年代では無理だと。
だが、今はそんな声が次第に減ってきている事を、俺は知っている。
越される…。このままだと、近い将来確実に。
タイムスリップして、元の能力を引き継いだにも関わらず、俺は香田に負ける…。そう考えると、今までに無かった重圧が俺を襲った。
その重圧を無くす為には、ただひたすら練習するしかなかった。
ある日、監督は、俺に言った。
「練習熱心なのは良いが、俺にはお前が焦ってる様に見えるんだ。お前は誰もが認める高校サッカー界のナンバーワンだ。その重圧が大きい事は分かる。
だが、ナンバーワンだからこそ、自分を信じて休める時は休め。このままだと身体壊すぞ?」
言いたい事は分かる。でも、休んだらその分だけ追い付かれる。
後輩の内村は、いつも俺に言っていた。
「なんでそんなに努力するんですか?“天才”なのに」
天才だと?いや、違う。俺は凡才だ。だから、人一倍練習するんだ。
No1の座を守る事なんてどーでも良い。ただ、アイツにだけは負ける訳にはいかないんだ!
A代表にもお呼びが掛かるかもしれないと云う話は、俺も耳にした事はある。でも、実際にはそんな話は無い。
知り合いの記者さんから聞いた話だと、今はA代表よりも、来るU-17ワールドカップに集中して貰いたいから見送られたと言っていた。
U-17ワールドカップ。我が日本代表は、アジア予選を突破していた。俺はキャプテンとして、そして香田も不動のトップ下としてチームの主力となっている。
当然代表では、香田とチームメートとして時間を共にしてきた。その中で、日増しに俺達の実力の差は縮まって行ったのだ。
香田はタイムスリップ前でも、日本人としては間違いなく天才と呼ばれる存在だったし、実際に欧州の舞台でも一定以上の活躍を見せていた。だが、この世界での香田は只でさえ天才なのに、更に努力を惜しまないモンスターになってしまっていたのだ。
本大会を前にしたU-17日本代表合宿。フォーメーションは俺がトップで香田はトップ下が基本パターン。
香田は練習でも、俺にライバル心を剥き出しだったのだが、俺はそんな香田を意識しない様にキャプテンとして全体のまとめ役の立ち位置を貫いていた。
…避けていたのだ、比較されてしまう事を。
だが、同じチームだと云うのに香田は俺への挑戦を止めなかった。パスを出すにしても、俺にだけは明らかに厳しいスルーパスを次々と放って来た。そして、試合では意地でそのスルーパスに反応し、ゴールを決めた。
俺を越えたかったらもっと良いパスをよこせと言わんばかりの余裕の表情で。
俺と香田のライバル同士のホットラインは、日本のサッカーファンを大いに驚かせ、そして期待してくれた。
近い将来、俺達がA代表で躍動するのを。
…でも実際は、俺にはもう限界が迫っていた。
この頃、俺は何かに追われる様に、練習以外の時間も他のメンバーに隠れて、スルーパスに対応する為にダッシュ練習を繰り返した。
近い内に香田の本気のパスに反応出来なくなるのでは無いかと、毎日不安と戦っていたんだ。
そして、運命のU-17ワールドカップ本大会が始まるのだった。
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