第14話 U-17ワールドカップ開幕直前
日本中の期待を背に、俺達日本代表は、決戦の地・ドイツへ旅立った。
飛行機の中、何の因果か、俺の隣には香田が座っている。
コイツ、俺以外とは普通に喋るクセに、俺とは必要最小限しか喋らないんだよなぁ。
「…………」
「…………」
……なんなんだよ!気まずいなぁ!
「…お前さぁ、今はチームメートなんだからさ、もう少し普通に接してくれよ」
「……別に、普通だ」
……全然普通じゃねーから!
結局、話にならないので、お互い無言のまま、ドイツへ到着した。
予選の相手は開催国ドイツ、身体能力の高いナイジェリア、南米の雄アルゼンチン。我が日本も含めた4チームのうち、上位2チームが決勝トーナメントへ進出する事が出来る。
…ハッキリと言おう。このグループは死のグループだと。
ホテルに着くと、長旅の疲れを癒す為、食事を取った後は各自ホテル内で休憩となった。
―ホテル一階ロビー。
「厳しい戦いになるな…」
同じく代表に選出された権田が険しい表情を浮かべる。
「ドイツはタレントが揃ってる上に開催国で優勝候補。ナイジェリアも、アフリカ勢はこの年代だと身体能力を存分に活かして来るから侮れない。そして、英雄ドラマーナの再来と言われる“ライオネル・ミッシ”を擁するアルゼンチンか…。確かに何処も強敵ばかりだ」
ドイツは後にワールドカップで優勝するメンバーもいるし、何よりアルゼンチンには、あの“ミッシ”がいる。正直、タイムスリップ前の俺には雲の上の様な選手ばかりが相手なのだ。
「大丈夫ッスよ!ウチには日向先輩と香田先輩のゴールデンコンビがいるんスから!」
同じく代表に選出された内村。内村は運動量を買われ、高校ではサイドバックにコンバートされていた。
「そうだなぁ~。お前ら、相変わらず仲悪いのに、試合では息ピッタリだからなぁ~」
そして、驚く事に、高橋も代表に選出されていた。これはタイムスリップが起こした奇跡の一つだろう。
俺、権田、内村、高橋、この4人が、ロビーのテーブルを囲んでいる。
「そうだな。ウチの
「そっスね。よくあんなパスに合わせられますね」
「圭司の奴、大輔には容赦ないからなぁ」
周りから見ても、香田の俺へのパスは厳しい様だ。でも、厳しいだけでは無いんだよな。
「結果的にゴールに繋がってるんだから、最高のパスって事だろう。アイツの視野の広さとパス勘はやっぱり並じゃ無いって事だ」
実際に、香田のキラーパスは、得点に繋がっている。俺なら決めてくれると信じているのか、最悪合わせられるもんなら合わせてみろとでも思っているのかは定かでは無いが。
「それ、圭司に直接言ってやれよぉ。少しは態度が軟化するかもよ?」
「絶対嫌だ」
「日向先輩と香田先輩って、なんでお互い意地張ってんスか?香田先輩は分かるッスよ?あれだけの才能があって、ず~っと日向先輩のせいで陽の目を見れなかったんですから。香田先輩からしたら日向先輩は完全に目の上のタンコブッスもんね」
「目の上のタンコブってな…。少しは言葉を選べよ」
「あ、すいません。でも、日向先輩が香田先輩を意識する理由無くないッスか?香田先輩も確かに凄いッスけど、日向先輩から比べれば完全に
格下ねぇ…。まだ、コイツらの目には、俺の方が格上に見られてるんだな。その言葉に、心の何処かでホッとしている自分がいた。
「格下って言うのは、俺の事か?」
「いっ!?香田先輩!?」
内村の後ろには、無表情の香田が立っていた。因みに、香田と内村は小学生時代一緒のチームだったので、直属の先輩後輩である。
「ど、どうぞ、先輩!」
内村がそそくさと立ち上がり、香田に席を譲る。それに香田は何も言わず、譲られるままソファーに座った。
「なぁ圭司、今、大輔がお前の事を…」
こいつ!?させるか!
「…ああ。一応得点に繋がるパスを出してるとは言ったな。だが、あれは俺が
「なんだと?」
「おいおいぃ、なんでお前らは顔を合わせる度に険悪になるんだよぅ!」
睨み合う俺達に高橋が割って入る。
「俺はキャプテンとして事実を言ったまでだ。チームの勝利を考えるなら、あんなギリギリのパスばかり出されても、
「…俺はチームの勝利の為にプレーしてるつもりだが?」
「まあ待て二人とも。お前達はチームの要なんだぞ?そのお前らが仲違いしてたら、勝てる試合も勝てなくなるだろうが」
権田が冷静に俺達を止める。前から思ってたんだが、やっぱりキャプテンは俺なんかじゃ無く権田が適任だと思うんだがな。
「…そうだな。初戦のドイツ戦は一週間後だ。それまでにやれる事はやらないとな」
「そ、そっスよ日向先輩!香田先輩も、流石にあれはキラーパス過ぎますから…」
「何を言ってる?ドイツやアルゼンチンに勝つ為には、あの程度のパスじゃ通用しないだろう?…まぁ、ウチのキャプテンがもう少し優しいパスじゃ無いと追い付けませんと言うなら仕方ないがな」
…この野郎、あからさまに挑発して来やがって。
「フッ、さっきは、
「…ああそうかい。本番ではもっと鋭いパスを出してやるから、せいぜい決めてくれよ、
「ああ~もう!お前らは面倒臭過ぎ!陰では認め合ってるクセに…」
「「認めてない!!」」
「うっ!?…ごめん」
「うわ~、高橋さん、マジで可哀想…」
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