第15話 初戦開始
いよいよ初戦、しかも、開催国ドイツとのU-17ワールドカップ開幕戦が始まろうとしていた。
ピッチに入る前、選手が整列しているのだが…ドイツ代表の面々は、近い将来ワールドカップで優勝するメンバーが何人かいるのだが、中でも際立ったオーラを醸し出しているのがフォワードの“ルークス・ポドルディ”、中盤の要“マスト・ネリル”、キャプテンでもあり未来の世界No.1ゴールキーパー“マニエル・ナイヤー”。
これまでも彼等とは年代別の代表戦で顔を合わせてるが、やはり成長するにつれて俺との力の差は縮まっている。
こんな凄い面子のドイツに、俺達は勝てるのだろうか?
今回のU-17ドイツ代表は、特徴でもあるフィジカルの強さだけでは無く、足元の技術にも長けている選手が多い。
対するU-17日本代表は、日本特有のアジリティを活かしてピッチを動き周るのが本来の持ち味だが、ドイツ相手に真っ向勝負では分が悪いと判断し、しっかり守ってカウンター攻撃を仕掛ける戦術を立てていた。
両チームが入場すると、会場は割れんばかりの拍手と歓声。その殆んどが、開催国でもあるドイツに降り注いでいた。
「おいおい大輔ぇ、完全にアウェイだな…」
「…だな」
緊張から言葉数が少なくなっている自分に気が付く。
タイムスリップしてからの自分自身の努力には誇りを持っている。高校生となった現在、既に俺は日本のA代表としてアジア最終予選で活躍していた頃の俺を越えていると思う。
それでも、目の前にいる真のワールドクラスの選手を相手に、萎縮してしまっていた。
―前半5分
ドイツは細かいパスからチャンスを作り、センタリングを上げる。これに、ポドルディがヘッドで合わせるが、ポストに嫌われた。
あまりにもアッサリ守備が崩されてしまった…。
「権田!」
大丈夫か?とアイコンタクト込みで叫ぶと、権田は片手を上げて応える。
とにかく、守備を修正しないと。フィジカルで勝てないなら数の力と
―前半8分
ペナルティー付近、ドイツの10番ネリルが突破を仕掛ける。ディフェンスは二枚付いてるが…フィジカルを巧みに利用しながらも華麗なボール裁きで抜かれると、ミドルシュートを打たれる!…が、これは権田が片足でシュートブロックしてコーナーキックに逃れた。
やばいな…。充分用心してたはずなのに、尚も抜かれる。
日本の守備陣は統率が取れてるし動き出しも悪くない。でも、唯一欠点を上げるとしたら、飛び抜けた個の力への対応に弱い所があった。
相手はドイツ。圧倒的な個の力を持つ選手が一人だけでは無い。
また、権田にアイコンタクトを送る。権田は力強く頷いた。表情には気合いが漲ってる…。
ドイツのコーナーキック。
蹴るのはネリル。彼は未来でもドイツ代表の中盤を担い、ワールドカップ制覇に大きく貢献する選手だ。
ネリルの蹴ったボールは、カーブを描いてポドルディへ向かうが、ポドルディにはしっかりマークが付いてる。…と、ポドルディを越えて、そのスペースには長身のドイツ4番が走り込んでいた!
合わせられる!…と思った瞬間、権田がヘッドでクリアした。しっかり周りを見て、4番が来るのを見切っていたのだろう。流石だ!
こぼれ球を高橋が拾い、香田にパスが渡る。この試合初めて香田が前を向いた状態でボールを持った。
絶好のカウンターチャンス。既に俺は走り出していた。
香田のロングパス。相変わらず追い付けるかどうかギリギリの…最高のパスだ!
ドイツのディフェンスは二枚。確かに、タイムスリップ前の俺にとっては雲の上の様な奴等だ。勝てる訳が無い。
でも、タイムスリップしてからの俺はサッカーに全てを捧げたんだ!その努力は確かな力となっている!
ディフェンスを巧みなコース取りで一気に振り切り、パスに追い付く……瞬間、目の前に大きな壁が現れ、ボールはクリアされてしまった。ナイヤーがペナルティーエリアを飛び出して来たのだ。
そうだった、ナイヤーはゴールキーパーの守備範囲を変えたと言われる程、隙あらば前にガンガン飛び出して来るんだった!
俺が追い付けるかどうか、ギリギリを狙ったパスがキーパーにクリアされ、香田も驚いてる。
ある意味決定的なチャンスだったかもしれない。でも、香田からのパスは悪く無かった。ただ、ナイヤーが良いプレーをしただけだ。
俺は香田にサムズアップし、更にアイコンタクトで、「どんどん来い!」と言う。
意図が伝わったのか分からないが、少しだけ香田の口角が上がった。
ドイツのディフェンス陣を見る。
表情に警戒の色が強まっていた。今の俺のマークを振り切る動き、そして香田のパスは、相手に脅威を与える事が出来た様だ。
前半、ここまでドイツはガンガン攻めて来た。しかし、日本のカウンターは脅威だと分かれば、少しだけ攻撃の手も落ち着くハズ。
現にその後、お互い決定的なチャンスを作れないまま、試合は膠着状態が続いた。
そして―前半30分。
ドイツの陣地で香田がボールを持った。
ドイツは香田のパスに警戒している。当然俺もスペースを狙い動き出す。が、香田が選択したのはドリブルだった。
一瞬、虚を突かれた相手を一人二人とかわすと、ミドルシュートを放つ!
ゴール左隅!これを、ナイヤーが指にかすらせ、惜しくもゴールを割る事が出来なかった。
敵である香田のプレーに、ほぼドイツサポーターの観客からも拍手が起こる。それほど、今の香田のプレーは際立ってた。
…胸がザワつく。
俺に、今の香田の様なプレーが出来るか?
…アイツは本当の天才で、俺は偽物…。
香田の好プレーで味方の士気が上がっているのを他所に、俺は不安を抱くのだった。
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