第23話 ロッカールーム
前半が終了し、ロッカールームでは後半戦へのミーティングが開かれていた。
「最後のカウンターは余計だったが、まだウチがリードしてる事には変わらない。前半と同じペースで良い。この試合、しっかり勝ち切ろう!」
「「ハイッ!!」」
監督が全員を鼓舞している。
俺は、静かにベンチに座っていた。
膝の痛みが段々酷くなっている…。
「すまん、日向。俺が戻ってれば……どうした?」
権田が俺の異変に気付く。不味い…ここで俺が怪我したと皆に知られれば、チームの士気が落ちる。
「権田、ちょっと二人で話がある」
そう言って立ち上がると、権田に耳打ちする。
「すまん、救急箱持って廊下に来てくれ」
権田は驚いた顔をしたが、直ぐに頷いてくれた。
廊下の隅。ベンチに座った俺は、権田から膝にコールドスプレーを掛けて貰っていた。
「さっきのスライディングか?」
「…ああ。ドイツ戦の怪我が再発したっぽい」
「馬鹿野郎!だから病院行ってしっかり治せって言っただろうが!一度怪我した箇所は再発しやすくなるんだよ!
最後のプレーだって、2点リードしてるんだから無理に止めに行かなくて良かったのに!なんでお前は香田が相手だと後先見えなくなるんだ!?」
「…すまん。キャプテン失格だな」
「そういう問題じゃ……今はそれどころじゃない。で、大丈夫なのか?」
「ああ。でも、前半の様には動けないかもしれない」
「…分かった。お前は前線に残れ。必ずパスを送ってやるから、それをしっかり決めてくれれば良い」
…やっぱり、キャプテンは俺よりも権田が相応しいな。コイツの前だと、つい弱音を吐いても大丈夫な気がしてしまう。
「何年一緒のチームでやってると思ってるんだ。お前の考えてる事なんかお見通しなんだ。お前が、香田にだけは負けたくないと、この試合に懸けてる事もな」
「権田…」
「確かにこの一年での香田の成長は凄いものがある。でも俺は、絶対にお前の方が上だと思ってるぞ」
「すまん…」
「さ、キャプテン。お前が活を入れてくれないと、ウチの奴等は気合いが入んないんだ。一発頼むぜ」
「…ああ、行こう!」
権田がチームメイトで良かった。そうだよ、サッカーはチームプレーだって、分かっていたハズなのに、俺は一人で暴走しちまって…バカだな。
ロッカールームに戻り、円陣を組む。こんな俺でも、こいつらにとっては精神的支柱なんだ。弱音を吐いちゃいけない。キャプテンとして、チームに貢献するんだ。
「1点取られたからどうした?俺達は1点取られたら?」
「「2点取る!!」」
「そうだ。俺達は?」
「「王者東条!!」」
「じゃあ、王者の力を、帝都に見せてやろうぜ!」
「「オオオーーッ!!」」
―帝都高校ロッカールーム《香田視点》
「よしよしよしよし、行けるぞぉ!完全に流れはウチだぁ!」
高橋がチームを盛り上げている。本当にコイツは良いムードメーカーだな。
最後のプレー。辛うじて決める事が出来たが、まさか追い付かれるとは思って無かった。流石は俺の永遠のライバル…いや、ライバルだなんて烏滸がましいな。
日向大輔はずっと俺の目標だった。
時には挫折しそうにもなった。アイツは、正真正銘の天才だからと。
でも、アイツは只の天才じゃ無かった。
U-17の代表合宿。アイツは誰よりも練習していた。全体練習が終わった後、誰にも見つからない場所でひたすらダッシュを繰返してるのを見た時、アイツが天才だから俺は勝てないんだと、そう諦めかけていた自分に腹が立った。
アイツはその才能に胡座をかく事無く、誰よりも努力していたんだ。
だから俺も、アイツには生半可なパスなんか出せないと、ひたすら努力する事が出来たんだ。
これからも、アイツとはプロの世界で対決する事もあるだろう。でもそれ以上に、日本代表として、共に日の丸を付けて世界と戦うんだ。その時俺は、アイツに相応しい相棒でいたい。
だからこそ、一度くらいはアイツに勝って、対等な立場になりたいんだ。
だが、何か心に引っ掛かるものがある。
それは、あの時、ミッシが言った言葉だ。
「…王様なんだけど、なんか、彼は
…もし、君が彼とこれからも一緒にプレーを続けたいんなら、早めに忠告してあげた方が良いかもね」
…そんな事は無い。アイツは、常に俺の前を走り、同年代の日本を代表するプレイヤーで、これからもずっと日本の王様であり続ける男なんだ。
怪我なんかで…アイツが自滅する訳が無い。
俺がアイツの為に出来る事、それは、全力で戦って、アイツに初めての敗北を教えてやる事だけだ。
「んじゃ後半もこの調子で一気に逆転しちゃおうぜ!そして、三年間無敗の東条を倒して、伝説を作るぞぉ!!」
「「オ~ウ」」
なんだか、だれがキャプテンか分からなくなるな。でも、ウチはこれで良い。
コイツらがいたから、俺もここまでやって来れたんだ。
高橋じゃないが、ここまで来たら王者・東条を倒したい。常勝の王様・日向大輔を倒したい。俺は、このチームで王様を倒す!
「よし、泣いても笑っても、高校生活最後の後半戦だ。悔いは残すな?自分に甘えるな?俺達は、王者を倒すぞ!!」
「「オオオーーッ!!」」
「あれぇ?なんか俺の時より皆掛け声大きくね?…まぁ、いっか」
機は熟した。いよいよ、待ち望んだ瞬間を、栄光を、俺達は手に入れるんだ!
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