第22話 落とし穴
『さあ、前半も20分が過ぎ、得点は1対0。東条のリードが続きます』
『帝都はちょっと防戦一方ですねー。ここまでは香田君がまともに仕事をさせてもらってませんねー』
香田がボールを持つ。が、俺が直接マークに付き、まともな仕事をさせない。
「っ、トップのお前が俺にマンマーク付くとは、もう点を取る気が無いのか?」
「フッ、負け惜しみか?心配しなくても、お前のマークに付きながらだって点は取れる」
「チッ…!お前の体力は底なしかよ」
俺はこの試合、完膚無きまでに香田を倒す。自らマークに付き、何もさせてやらない!
「くっ!?」
業を煮やした香田が苦し紛れのパスを出すと、内村がパスをカットした。
「いただきです、香田先輩!」
「速攻!」
そして俺は次の瞬間には、トップスピードで駆け上がっていた。
『おあーっと、内村のインターセプトからの素早いカウンター!帝都ピンチ!』
『速い速い!日向君も内村君も、スピードなら既にA代表でもトップクラスですよ!』
帝都ディフェンスは三枚。対する東条は俺と内村の二枚。だが、帝都は俺達のスピードに着いてこれないだろう。
内村がボールを運ぶ間に、俺は中央に走り込む。
ディフェンスは内村に一枚、俺に二枚…楽勝だな!
「頼みましたよ、先輩!」
内村が、俺達とゴールキーパーの間を狙ったパスを出す。
一段階加速し、ディフェンスを振り切ると、鋭く飛び出して来たキーパー川崎をもかわし、2点目となるゴールを決めた。
『決まったー!東条強い!前半21分、華麗なカウンターから日向が抜け出し、最後はキーパーもかわして無人のゴールネットを揺らしました!』
『凄い抜け出しでしたねー!そして、何よりスピード!あれは相手チームにとっては嫌ですよー!』
「どうだっ!!」
俺にしては珍しく、喜びを爆発させる様に吠えた!ここまでは試合前に立てたプラン通り行っているからだ。
「はぁ、はぁ、くそっ、やられた」
「ひぇ~、大輔のヤツ、化け物かよ!圭司、どうするよ?」
「…そんな情けない顔するな、高橋。それにしても、今日の日向、どこかおかしくないか?」
「え?どこかって、いつも以上に絶好調じゃねえか」
「…だとしても、なんか焦ってる気がしてな」
「ん~…言われてみりゃそうだけど…」
「それに、まだ前半20分だぞ?なのに俺をマークして、しかもカウンターにも参加して…体力が持つと思うか?」
「ん~、でも、大輔はスタミナも化けもんだからなぁ…」
「それにアイツは……いや、そんな訳無い。兎に角、作戦を変えよう。こうなったらとことん日向には動き回ってもらう。そして、日向の体力が尽きた時、一気に反撃だ」
「…尽きなかったら?」
「…そん時はそん時だ。それまでは絶対にこれ以上の失点は避けるぞ!」
『さあ!2対0で東条のリードは2点となり、帝都は苦しくなりましたねぇ』
『そうですねー。でも、まだ始まったばっかりですよ?ここからここから!』
その後も変わらず、俺は香田を徹底的にマークする。
香田は敢えて俺を走らせるように動き回る。が、俺だって無駄に動く訳じゃ無い。
香田の意図を読み、パスの流れを読み、必要最小限の動きで、香田を封じている。都合25年以上の経験を舐めるなよ?
スタミナ?俺がどれだけ練習してきたと思ってるんだ?たった一試合で俺の体力をどーにか出来る奴なんて、例え香田であろうと、高校生にはいないだろう。
その後は、帝都もカウンターを警戒してそれほど踏み込んでは来ない。
…甘い。この時点で俺の…東条の術中にハマってるって云うのに。
カウンターを仕掛ける隙が無いなら、ウチは普通にビルドアップして攻めるだけだ。
『前半も間もなく40分を迎えようとしてますが、東条の猛攻が続いています』
『まさに波状攻撃ですねー!でも、帝都もキーパーを中心によく凌いでますよー?』
『さあ、東条は今日4本目のコーナーキックです』
そろそろトドメの追加点で勝負を決めるか!
少々呆気なかったが、不安が消えた訳じゃない。只、先に延びただけだ。
それでも、良い。まだ、香田に負けてないんだと実感できるなら!
「うりゃああーっ!」
内村からのコーナーキックを、打点の高い権田がヘディングで合わせた。これで決まりだな…
…と思いきや、ゴールキーパー川崎が片手一本で弾きこぼれ球になる。
嘘だろ?ドンピシャだぞ?まさか、ここで川崎のビッグセーブが飛び出すとは!?
しかし、こぼれ球に詰めたのはウチの選手だ!そのままゴールに押し込もうとするが、ディフェンダーが身体を投げ出して防ぐ。
ゴール前は混線模様。どうなる!?
…すると、こぼれ球が俺の方に転がって来た。走れば追い付く…よし、俺がトドメを刺す!
右足を振りかぶる。これで、終わりだ!!
俺の放ったシュートは、真っ直ぐにゴール隅に向かって飛んで行く。決まる!
!?
俺のシュートは、横っ飛びした高橋に顔面でブロックされた…。顔面ブロックなんて、漫画でしか見た事無いぞ!?
「出せ!!」
こぼれ球を拾った帝都の選手が、香田へパスを出した。
しまった!シュートに行ったせいでマークが外れていた!
コーナーキックを決めに行った影響で、センターバックの権田も前線に残ってる。
後方に残っていたディフェンスは二枚。香田を止められるか!?
『香田にパスが通った!東条はディフェンスが二人!帝都、千載一遇のチャンスだ!』
『いや!日向君が戻ってますよー!』
ドリブルしている香田なら、俺の足なら追い付ける!
その間にも香田は力強いドリブルでウチのディフェンスを振り切り、独走体制に入っている。
「おおおおっ!!」
あと一歩!あと一歩で追い付く!
キーパーは飛び出さず、ペナルティーエリアギリギリで身構えている。ループを打たれれば終わりだが…
「させるかーーーっ!」
背後から、ファウル覚悟のスライディングタックルを仕掛ける。
この試合、全力で香田を倒すんだ。1点も決めさせない――――っつ!?
香田は背後からの俺のスライディングをジャンプでかわすと、そのまま浮かしたボールをボレーでゴールに叩き込んだ。
『決まったーーーー!帝都、香田のスーパーゴーーーール!帝都、前半終了間際で1点返しましたーー!』
『まるで漫画の様なシュートでした!これで分からなくなりましたよー!?』
香田が天に拳を突き上げる。…なんてプレーだよ。ジャンプしてそのままボレーって…。高橋にしても香田にしても、漫画かよ?
「あつっ!?」
…俺は左膝に違和感を感じた。U-17ワールドカップの時の怪我が再発したか?
嘘だろ?もう完治してたんじゃ無かったのかよ?最近は全然気にならなくなってきてたって云うのに、治ってなかったのかよ!?
俺は、この足で後半、アイツと戦わないといけないのか?
………いいじゃねーか。やってやるさ。俺は、常勝の王様なんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます