第24話 満身創痍
『さあ、両チームがピッチに姿を現しました!日本中が注目する世紀の一戦!
前半は日向の2ゴールでリードした東条を、終了間際、香田が起死回生のゴールを上げて帝都が1点差まで追い上げ、後半戦を迎えます!』
『いやー、注目の日向君と香田君がしっかりゴールを上げる最高の展開ですねー!しかも、どちらのゴールもワールドクラスでしたからねえ!こんな面白い決勝戦はそうあるもんじゃありませんよー?』
『そうですねー。互いに将来の日本を背負うであろう逸材。果たして、東条学園は三連覇を果たすのか?それとも帝都高校がそれを阻むのか?間もなく後半のキックオフです!』
…足は…やはり痛むな。この状態だと、良い所2・3回本気でダッシュしたらアウトかもしれない。出来るだけ怪我した左足をカバーしながらプレーするしかない。
ふと、顔を上げると、香田が決意に充ちた表情で俺を見ていた。
…まったく、嫌になるな。この足で後半戦、アイツと勝負しなきゃいけないのか?
―後半開始。
俺は香田へのマークを止め、前線に貼り付く。この足で香田に付いたら10分ともたないだろう。
「どうした?マークはもう止めか?」
「ああ。ウチには俺以上にマークに長けた奴がごろごろいるからな」
「ふん、後悔させてやるからな」
付きたくても付けないんだよ!でも、怪我の事はいずれバレるにしても、出来るだけ隠しておきたい。
『さあ、後半も間もなく10分が経過しようとしています。ここまではどうですか?松本さん』
『そうですね~。前半は日向君のマンマークでやり辛そうにしてた香田君が生き生きとして来ましたよー?これはゴールが生まれるかもしれませんねー』
『対して東条は日向が前線でゴールを狙う戦術ですか?』
『そうですね~。それもあるでしょうが、流石に前半の日向君はオーバーワークだったんじゃないでしょうか?体力を温存してるのかもしれませんねー』
前半終了間際の得点で、間違いなく流れを帝都が持って行った。その上、香田が鋭いパスを幾度と無く出している。
辛うじて権田を中心に守ってるが、このままだと厳しいか?
―後半20分。
俺は徹底マークされ、個人としては中々決定的なチャンスに絡めていない。が、チームとしては再三のチャンスを作ったのだが、その度に相手ゴールキーパー川崎の神憑り的なセーブに防がれている。どうやら前半のビッグセーブで完全に波に乗ってしまったらしい。
その間、帝都も決定的なチャンスを幾つか作っているが、権田を中心として辛うじて防いでいた。
このまま、俺は前線で待ってるだけで良いのだろうか?
正直、俺は後半殆んど動いてない。動こうとすると権田が鋭い眼で俺を制するからでもあるが、実質11人対10人の状況だ。
チームメイトも、俺の怪我を知らないので、不思議に思い始めているみたいだ。
またも危険な場所で香田がボールを持つ。
今の香田は乗っている。このままだと、いずれゴールを割られるかもしれない。
『ああーっと!東条、ファウルを取られた!センターバックの権田が、ペナルティーエリアの手前で香田を倒してしまった!』
『良い位置でのフリーキックを得ましたねー!蹴るのは勿論香田君ですかー?』
権田にイエローカードが出される。
後半開始からここまで、帝都の攻撃をシャットアウトして来たウチのディフェンス陣だが、かなり消耗している。
そして、嫌な位置でフリーキックを提供してしまったが、今のはファウルしなきゃやられていた。権田も警告覚悟のファウルだったろう。
『さあ!蹴るのは帝都のエース・不屈の皇帝・香田!直接狙うか?…狙った!ゴーーーール!!決めた!香田が直接フリーキックを決めました!』
『素晴らしいドライブシュートでしたねー!これもワールドクラスですよー!』
『同点!同点です!遂に帝都高校、同点に追い付きました!』
割れんばかりの大歓声。決めるべき人間が、決めるべき時に決めたんだ。そりゃあ観客も沸くだろう。
なんでだ?なんでこんな時に、俺は怪我なんかしてるんだ?
このまま負けて良いのか?こんな形で、香田に負けてしまって?
項垂れるチームメイト。後半ここまで何もしてない俺が何か言うのも気が引けるが、それでも俺はこのチームのキャプテンなんだ。俺がやらなきゃ。
「まだ同点だ!必ず俺が取り返してやる!だから顔を上げろ!前を向け!俺達は王者だ!逆境の今こそ、王者の底力を見せてやろうぜ!」
チームメイトからの返事は帰って来ない。でも、皆顔を上げ、前を向いている。
まだ死んでない。ここから反撃だ!
―後半30分。
一進一退の攻防が続く。
互いに必死で攻め、懸命に守る。まさに死闘の様相を呈して来た。
「くれっ!」
前線でパスを要求する。マークがきつく、待ってるだけじゃボールは来ない。残り時間は僅かだ。僅かなんだ!もってくれ、俺の左足!
マークは付いたままだが、後半が始まって初めてまともにボールが俺に渡った。
ゴールまでの距離は50メートル。…行ってやる!
一気に加速して一人抜く。スピードを落とさずマルセイユルーレットで二人抜き…コースが見えた!
「ここだ!ここで決める!」
右足を振り抜いた。地を這う様な弾道のロングシュートが帝都ゴールに向かって行く。…決まれ!
しかし、このシュートをゴールキーパー川崎が横っ飛びで防いだ。…香田だけでも厄介なのに、今日の川崎はマジで神憑ってる!
『うわーっと!日向の素晴らしいロングシュート!キーパー川崎、指先で防ぎました!』
『ファインセーブですよ、川崎君!でも、これまで静かだった日向君が仕掛けましたね。良いシュートでした』
『さあ、コーナーキックです。蹴るのは内村。東条、決めれるか?』
「大丈夫か?日向」
コーナーキックの為上がって来た権田が心配そうに声を掛けて来た。
「そんな不安そうな顔をするな。バレるだろ?」
「残念だが、ウチの奴等も、多分帝都の奴等も気付いてるよ」
…だろうな。いくらなんでも動かな過ぎだからな。
「じゃあ尚更、このコーナーは決めたいな」
「そうだな。でもカウンターには気を付けよう。ディフェンスを四枚下げとく」
四枚。それなら流石の香田も一人でどうこうは出来ないだろう。いや、必ずここで決める。
正直、今のワンプレーで足の状態が悪化した。もう走るのも厳しいかもしれない。
内村が構える。頼むぞ…良いボールを蹴ってくれよ。
「おりゃあ!」
内村から放たれたボールは、インサイドからキーパーを逃れる様に大きく弧を描いて飛んできた。ドンピシャだ!
俺は誰よりも高くジャンプし、ボールに頭を合わせる事だけに集中した。そして合わせられたボールは、今日絶好調の川崎の手の届かない場所、ゴール右隅に吸い込まれる様に飛んで行き…帝都のゴールネットを揺らした。
『決まったーーー!東条勝ち越し!決めました!日向!ヘディングで帝都ゴールを揺らしましたー!』
「うおおおおおおおおっ!!!」
思わず雄叫びを上げる!決まった!苦しい時間帯が続いたが、俺は勝ち越しゴールを上げたんだ!
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