第11話 王者の逆襲

 前半10分足らずで2点のリードを許す展開。こんな事は全国でも無かった。


「すげー!あっという間に2点取ったぞ!」


「こりゃあひょっとしたらひょっとするかもな!」


 観客もざわついてる。でも、たった2点で俺達がヤバいと思われるのは癪だな。



 内村、権田、俺の三人が集まる。


「スンマセン…。ちょっと調子に乗りました」


「いや、カウンターへの反応が遅れた俺達ディフェンス陣のミスだ」


「…まぁ、東条おれたちは二年間も無敗なんだから、たまにはこんな事もある」


 表情の暗い内村と権田の不安を消すように、俺は笑顔で答える。


「んで、なんで二年間も東条ウチが無敗なのかを、アイツらに教えてやろう」


「…ハイ!」


「そうだな。落ち込んでばかりもいられん」


 内村も権田も、これで気を取り直してくれると良いんだが。



「さて、少々早いが仕掛けるぞ。仕留めよう」


 俺達が何故、絶対王者と呼ばれるのか…しっかり教えてやる。




「…大輔の目の色が変わった。来るぞ、圭司」


「ああ。望む所だ」



 ほう、2点リードしたにも関わらず、香田と高橋の表情はより引き締まってるな…。



 ―試合再開。


 次の瞬間、全員でラインを押し上げる。


 素早いパス回しで支配率を上げ、隙を見てシュートまで持って行く。


 仮に相手ボールになっても、素早いチェックで圧力を掛け、相手の苦し紛れのパスをカットする。

 ほぼ全員が相手のハーフラインを越え、スタミナを活かして走り回る。この戦法は東条学園中等部がトドメを刺しに行く時に使う戦術だ。


 要は、格下を一気に攻め立て、戦意を喪失させる嫌らしい戦術であり、実際俺達は全中の絶対王者なのだから、自分達以外のチームは全て格下になる。


 前提として、この戦術が通用するのは恐らく中学生までで、高校生になると自滅してしまうだろうな。でも、肉体的にも戦術的にもまだ成長段階にある中学生が相手だと、相手はパニックを起こすのだ。そりゃ、猫がライオンに全力で襲いかかって来られたらパニックにもなるわな。



「クソッ、コイツらの体力は無尽蔵かよぉ!」


「兎に角、ロングパスをトップに通せ!」


 前線にフォワード一人を残して、世田三は防戦一方になる。流石の香田もまともにパスを出せない。出してもカットされる。


 そんな展開が続けば、隙が出来るのは時間の問題!



「チャーーンス!」


 クリアを焦った世田三のディフェンスが蹴ったボールを、内村がカットする。


 ディフェンスラインは乱れてる。俺はパスを貰いやすいスペースを探し出し、動き出すと……来たな。


「行きますよ、先輩…って、あっ!やべっ!」


 ボールを蹴り出した張本人である内村が思わず叫んだ。そのスルーパスは、端から見たら愛情の欠片も無い様な厳しいコースに出されたパスだった。普通の中学生なら追い付けないし、まず反応すら出来ないだろう。

 内村が狙って出した訳でも無い様なのは、表情を見れば分かる。


 でも、出し手がミスったパスでも、タイミングを計り、最善のコースを取って走り出した俺は、相手キーパーの手前でボールに追い付くと、ワンタッチでループシュートを決めたのだった。



『ゴーーール!東条学園、決めたのはエース日向!前半15分、東条が1点を返しました!』


『よくあのパスに追い付いたネ~!凄いヨ!』


 パスが厳しかったのは誰が見ても分かる程だが、そのパスを冷静沈着なプレイでゴールに流し込んだ事で、観客からどよめきが起きる。


 ただ、俺は既に超中学級のプレイヤーだと認知されている為、驚きよりも感嘆と云った表現の方がしっくり来るな。



「圭司、お前もスゲェけど、やっぱ大輔はもっとスゲェな」


「…望む所だ。高橋、俺は絶対にアイツを越えてみせるぞ…」


 高橋と香田の会話が耳に入って来た。悪いが、越えさせるつもりは無いけどな。




『また決まったーー!ゴォーーーール!同点!前半20分!またも日向のゴールで、あっという間に東条が同点に追い付きました!』


『相手ディフェンスがミスしてこぼれ球になったのを見逃さなかったネ。良いミドルだったヨ。それにしても、日向君はゴールの嗅覚が鋭いヨ』


 世田三のディフェンスは…いや、全員がトラブルに陥っていた。


 圧倒的な運動量でボールを支配されれば、只でさえ地力で劣っているのだからミスをしてしまうのは仕方ない。



「さあ!前半で一気に決めるぞ!」


「「オオッ!」」



「ハァハァハァ、やべぇ、俺達、王様を怒らせちゃったみたいだな」


「くっ…まだ同点だ!兎に角一本!一本シュートを打つぞ!」


 強がってはいても、二人とも相当焦ってるな。よし、もう一息だ。



 …その後も俺達の猛攻は止まらず、前半終了時には4対2まで点差が開き、観客の雰囲気も、既に番狂わせを期待する空気は綺麗に消えていた…。

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